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瞬デブの誓い

(なけなしの銅貨だったんだけどなぁ)


路地裏に積み上げられた木箱の上でパンをかじる。

麻で出来たチュニックからは半年前より随分痩せ細くなった足。


大分前から縄張りにしているこの場所は路地裏の裏、周りの建物に窓はなく、下水管を通らないと入れない秘密の場所だ。

学園時代からコツコツと溜め込んだ私物(木箱)が列んでいる。


平凡だがそれなりに使えそうな皮鎧に、装飾が剥がれ落ちたナイフにレイピアを取り出して見比べる。


(レイピアのほうが高く売れるのはたしかなんだけど…どうしようかな)


少しずつ持ち込んだおかげで連中に取り上げられずに済んだ私の財産(私物)が中に入っている。


地面にぶちまけた木箱の数は十三個。

パンを食べ終えた私はその中から比較的楽に売れそうなナイフを選び腰に結ぶ、こんなんでも鋼が使われているので大銅貨二三枚枚(三千円)は堅い。


「…収納」

一瞬で荷物はイベントリに消える。

スキル“収納”は慣れれば必要な物だけを取り出せるらしいのだが、覚えたばかりの私にはまだまだ難しい。


収納してある荷物の全てを一度出して、その中から目的の物を探す必要がある。


ドレスに付いていた真珠などはまだあるが宝石はアシがつきやすい。


一年前、転生前の強かな性格が戻らなければ私は今頃盗みか身体を売らなければ、パン一つありつけなかっただろう。


それでも、ひと月銅貨数枚程度の生活のおかげで当時より半分近く体重が落ちた。

不自然なくらい痩せたけどガリガリでも不健康でもなくやっと人並み。


私の名前はリゼル=リガズィー。


半年前にヒロインや攻略対象者から言われ無き冤罪の謗りを受けてズタボロにされた挙げ句、家族すら奪われた大マヌケ。


リガズィーは今の私が名乗っている印名。


実家だったリファイン家との縁はとっくに切れている。

仲の悪かった腹違いの兄が攻略対象者だったおかげで散々だった。


元々武家の娘でありながらブヨブヨと太っていた私が悪くないとは言わないが、私はそれでも並みの兵士より素早く動く機敏なデブだった。


自ら“舜デブ”と名乗るバカさ加減に皆も呆れながらも納得していたね。


でも、学園に入学する日にそれは起こった。


馬車を降り立った私に対して、ある言葉を吐いた平民の少女に対して、私は権力と実力を持って対応した。


―デブタ


大人気ない。自らを省みない食事量を繰り返したデブは肉の鎧を持って彼女を蹂躙した。


無様に転がりひたすら謝る彼女を見ていて気がついた。


これ、オトゲーの悪役フラグじゃね?と。


実際そうだった。


大嫌いな兄と攻略対象者は次々とヒロインに落とされていき、最後は私の婚約者だった第二王子さままでヒロインは落としてみせた。


正確には同じ立場の者が何人もいるから婚約者ではなく“候補”か。


とりあえず、わが国では貴族はまだしも王族の平民の結婚は認められない。


小国のわが国において王族の結婚は政治に直結している。

第一王子はまだ未婚だが何人も候補がいる。

いずれも外国や国内の有力な貴族の令嬢様方だと記憶している。


リファイン家は有名な武家…軍人の家系で、今は無き祖父は王家からの信頼も厚い近衛騎士だったそうです。


物凄いデブでしたが、リファインの肉壁と他国の兵からは恐れら…れていたのでしょうか?


先代当主であった父も現役時代は軍の要職にあったそうです。今は半年前に新しく出来た娘にすっかり骨抜きにされているそうですが。


そして現当主である憎たらしい兄は、ある第二王子の愛しき少女の為に、空席となった候補の座に義理の妹をリファイン令嬢に仕立てて見映えの悪いデブすげ替える事で第二王子の側近としての立場を確立している。


腹違いとは言え私は実兄より全てにおいて優れていた、容姿以外は。


“舜デブ”リゼルが堂々としていたのは伊達ではないのだ。


あのまま、行けば今頃第二王子の隣には華のような可憐な乙女ではなく、鼻をならした幅広い女性が幸せなヨダレを垂らしていたはずだ。


うん?世間的には案外これでよかったのかもしれない。


だけど、問題は街から出られない事だ。

この半年身を隠し生きてきたが都市を守る防壁の向こう側に出れた事がない。


巨体で門に向かえば出られそうなもんだったが、門番に追い回されて逃げ惑うしかなかった。

憎たらしい兄は指名手配までしてくれやがりました。

賞金もなく罪状もない指名手配は没落したりした“元貴族”を町の中で飼い殺しにするために昔から執られてきた措置。


…本当に憎たらしい。


しかし、それを理解してからは誰にもかかわらないようにしてきた半年の努力のお陰で手配書とは別人そのもの。

常人(武人)の三倍で動ける身体を手に入れた今の私ならば城壁を跳び越えられる。


スラム街出身者なら身分証がなくても小銭で壁の外へ出られる。

『スラム街出身者が外に出る』と言うのは正に自殺行為なので本当ならもっとみすぼらしくなってから出たいのだが、今日が絶好のチャンスであるのも確かなのだ。


リファイン家令嬢と第二王子の婚約発表が昼から行われ、街はお祭りムード一色なのだ。


いつもは閉ざされた門も遠方からの観光客を迎えるために比較的緩くなっている…ハズ。

たくさんの出入りに紛れてしまおうと言うわけだ。


数日食事を抜いたし、灰で作った化粧で頬のコケた感じを出せるようになった。

数日風呂に入らず汚水で汚した服まで支度した。


見窄らしい姿をした者がフラフラと街を出るのはそうそう珍しくない。


だけど、死ぬつもりはないからさっきパンを食べた。


いざという時に空腹では動けないからね。


とりあえず門を出たら見えない位置までフラフラと歩き、距離を稼いだら安全な場所まで後はひたすら走り続ける。


追っては来ないだろうしイベントリを取得したおかげで身ひとつで走れるのであれば、私は国一番の体重を舜デブたらしめた自慢の脚を存分に発揮できるだろう。


なんせ、婚約発表の最中に“元リファイン家令嬢リリアーゼ=リファイン”は、第二王子の告発により最愛の姫を虐待し続けた犯罪者に仕立てられ、市民にボコボコにされて捕らえられ、拷問した上で何度も謝らせ処刑される。


彼女と彼らのscenarioでは其処まで確定されているのだろう。


私は彼女を入学式の日にボコボコにした。

だけど前世の記憶が戻ってからは気高く優しいデブになり、彼女との一切の関わりを絶った。


その上で、何の抵抗もしないで冤罪も受け入れ謝罪した。

見せしめみたいに公衆の面前で攻略対象者数名からリンチにされ、満身創痍で半年間スラム街に放置された。


普通はこの時点で死にそうだが外はともかく肉壁の中にはダメージが薄かった、顔面へのトゥーキック数発で傷の割に派手に血が出たくらい。


鍛えられた肉壁もなめられたものだ。

半年の期間を置いて、もう大丈夫だと安心しきったところで最後の最後は捕らえられ絶望させて見窄らしく処刑したいらしい。


絶対に私はそこまでされるような事してないよ!?


…絶対逃げ切ってやる。

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