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不死鳥転生

作者: 出雲

 ―――その涙は癒しを齎し、その血は不老不死の命を授けると語り継がれている伝説の不死鳥が住む霊峰フェニキア。

 その山頂に位置する場所では現在、不死鳥がこれまで寝床にしていた霊木を積み重ねていた。

 前回転生してから数百年と経ち、そろそろ転生する時期かと感じた不死鳥は転生の準備をしていた。

 積み重ねられた霊木の隙間から、これまで不死鳥が集めたコレクションがはみ出していた。その一つ一つが、外界に流れたら、それだけで一つの国が出来上がるものだったが、それは同時に争いの火種を生む。その為に、不死鳥は転生する際に自身と共にコレクションも同時に焼き尽くす。

 これまでならば、不死鳥が気に入った人族に贈る事もあったのだが、最近の人族達は争いが多く、とてもではないが、贈るに値する者がいなかった。なので、残念ながらコレらは活躍する場を与えられる事もなく、消える事になる。


「――では、逝くか」


 最後のコレクションも投げ込み、霊木に転生の炎を吹きつける。黄金色に輝く炎は霊木とコレクションを跡形もなく焼き尽くす。そして最後には自身もと炎に飛びこもうとした所で鋭利な短剣が不死鳥にめがけて飛んでくる。


「―――フッ!」


 片翼を一撫でして、短剣の軌道を変える。奇襲に失敗した者は、それに狼狽える事もなく姿を現し、勢いよく不死鳥に襲いかかる。


「数百年に一度の転生の儀に不粋な人間よ。その身、生きて帰れると思うなよ」


 静かなれど、良く響くその声には怒りの声が宿る。その声に一瞬の動揺が現れたが、元より死も覚悟していたのか、直ぐに正気を取り戻し、魔法を行使する。が、やはり動揺を隠せなかったのか、襲いかかってきた人間が行使した魔法は火の魔法。


「――カカッ! 炎の化身とも呼ばれる妾にそのような、小さき炎では火傷さえせぬわ!」


 避ける素振りさえ見せることなく、向かってくる炎をその身で受ける不死鳥。直撃した炎は不死鳥を包み込むほどの大きさに膨れ上がる。直後、不死鳥を襲った炎はじわじわと縮小し蝋燭の火のように、吹けば消えるほどの炎になってしまった。

 「ほんに、弱い炎じゃな。こんなもの喰ろうても、どうしようもない」


 だから返す、と小さくなった炎を投げ返す。人間はその場を直ぐに離れたが、不死鳥が投げ返した炎は意志を持つかのように人間を追いかけ、人間に触れる瞬間、これまでの小さかった炎が嘘だったかのように、膨れ上がり、赤かった炎は、青に染まり、これまでの熱とは比べられないものに変わる。


「――――――!?」


 叫び声さえ挙げられないほどの業火に焼かれ男は身動きすら出来ずにその場で崩れ落ちる。不死鳥にして、唯一の驚きは一瞬で灰にするほどの炎だったはずが、その身をそのまま未だ残していた事か。


「……が、この様では生きてはおらんじゃろう。これが転生の儀の前であれば、もう少し手加減する事もあったろうし、お主を生かす可能性もあったが、この儀を見て生きて帰す訳にもいかぬのでな。―――まあ、運が悪かったと諦めるんじゃな」


 真っ黒に焼きこがれた人間に、それだけ言うと、もうその存在を意識する事もなく転生の炎に飛びこむ。


 ―――今世は、人の世に干渉する事もなかったが、来世はどうなることやら。



 既に、今の世に興味はなく、来世に意識を伸ばしていたからなのか、それともその者が死力を尽くした結果、奇跡を引き起こしたのか、不死鳥は炎に飛びこむ寸前まで気付く事はなかった。


 ―――背後に飛びかかろうとする、真っ黒に焼きこげ顔の判別もつかない人間がいる事を。


「―――な!?」


 あれだけの炎を浴びて生きているとは思っていなかった不死鳥はその驚きで振りほどくに遅れ、正面には転生の炎がありにもかかわらず、失速することすら出来なかった。


「しまっ――!?」


 不死鳥と人間は共に転生の炎に包まれ、その身を焼き尽くす。

 本来であれば、そこで全てを分解し、新たな不死鳥という存在を構成され不死鳥の雛が誕生するのだが、今回はその過程に邪魔が入った。

 そうならないように、これまで不死鳥は転生の際に細心の注意を払い、目撃された者は例外なく始末してきたのだが、何事にも例外というものは存在する。その結果、この炎の中で何が生まれるのかは全く予想ができない。

 これまで通り、不死鳥の雛が現れるのか、イレギュラーという存在のせいで転生の儀が失敗に終わり、不死鳥が誕生する事もなく、不死鳥という存在が永遠に失われてしまうのか。

 それとも―――




 転生の炎はあれから、一月ほど燃え続け、ようやくその炎は燃え尽きた。霊木や不死鳥のコレクションは全て灰の山になっていた。

 そこからもぞもぞと動くモノがいた。それは、自分の体を巧く動かせないのか、四苦八苦していたが、ようやく灰の山から抜け出した。


「――ふう、失敗したかと思ったけど、どうやら上手くいったみたいね」


 高く幼い安堵の声が、そのモノから漏れる。


「にしても、やけに体が動かしにくいなぁ」


 挙動不審な動きをしながら、自身の手を見てそのモノはぴたり、氷漬けにあったかのように固まる。


「――ヒト、の手?」


 まさか、と最悪の展開を予想する。


「あの人間が一緒だったせいで、人間に転生しちゃったのーーーー!?」


 

 

驚愕の叫び声をあげるそのモノ―――元不死鳥。現二、三歳の幼女―――の声が霊峰フェニキア中に木霊する。

 現在進行形で混乱している元不死鳥は気付いてはいないが、正確には人間に転生した訳でもなかったりするのだが、元不死鳥がその事実に気がつくのは、その混乱から醒めてしばらくたった後なのだった。


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