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フリンジ・ハミング〜記憶が無いまま能力バトル〜  作者: 水輝聖地
1時 はじまり
5/25

エピローグ3

 20XX年5月15日(月曜日)


 「黒虹雲こくこううんについて調べてみないか?」


 親友の二人は少し困った顔をした。

 『黒虹雲』は学者達の間でも、未だメカニズムが憶測の域を出ない。

 そんな現象を調べたいと言ったのだ。

 幼馴染み達は提案の真意を計りかねているようだ。



 「ほら、新学期始まってから色々あっただろ?俺さ、ずっと考えてたんだ。何かしたいなって」


 「何かしたい。ねぇ」


 「何だっていいんだよ。別に黒虹雲じゃなくても、噂のUMAを探したっていい!

  来年は受験勉強だって本格的になる。卒業したら、たぶん俺達はバラバラになるだろ?

  思い出作りがしたいんだよ。それがどんな馬鹿な出来事でもいいからさ」



 なあ、駄目か?そう聞くと、ヒナタと景咲はお互いに顔を見合わせて……


 「「乗った!!」」


 快く頷いてくれた。

 やっぱりこの二人は最高だ。





 手早く昼食を済ませ、教室に戻る。

 お昼休憩が終わるまで、今後の方針を話すことにした。



 「つってもよ〜、調べるったってどうするんだ?」


 「目撃情報をまとめてみるのはどうかな?

  手早く学校内で調べるならパソコン室、新聞の記事から探すなら図書室かな」


 「黒虹雲は目撃情報が少ないからな、新聞から探すのは大変だろ」


 「じゃあ先にUMA探そうぜ!隣町で目撃されたらしいじゃん?」


 「あれ本当かなぁ、私は眉唾だと思うけど」


 「いや、そんな事言ったらほとんど眉唾だから」



 などと話していると、不意に呼び止められた。

 声の方向へ顔を向けると、ライトブラウンに髪を染めた、鋭い目つきの男が立っていた。

 同じクラスの名張竜なばりりゅうだ。


 彼は当校切っての札付きで、ここ一週間は人を殴って停学になっていた。

 朝礼で姿が見えなかったため忘れていたが、どうやら今日が停学明けのようだ。

 彼は俺達の顔をそれぞれ確認すると、眉間にシワを寄せながらこう言った。


 「おい、そんなモノを探すのは辞めろ」


 そんなモノ?UMAの事だろうか?

 彼が何故突っかかって来たのかは、まったく心当たりがない。

 停学明けなのだから、余程の事でもない限り、問題は起こさないと思うが……。

 始まる前から「辞めろ」と言われて辞めるつもりもない。



 「そんなモノいるわけないだろ、探すのは辞めろ」


 「いる・・いない・・・か、なんてどうでもいいんだ。

  今しか出来ない事を思いっきりやりたいんだ、後悔したくないからな。

  名張君なら……わかるだろ?」


 「……ッチ」



 不機嫌そうな顔を更に歪め、彼は踵を返した。

 そのまま2、3歩足を動かした所で立ち止まり、振り返らずにこう言った。


 「何かわかったら教えろ」


 何だ、結局のところ彼も、その手の話が気になるタイプだったのか。


 名張竜なばりりゅうはそのまま教室を出て行く。かと思われたが、

 扉の前で恩田さんと鉢合わせ、暫く口論した後に、逃げる様に去っていった。

 恩田聖女おんだジャンヌ、恐ろしい子!!


 「うわー、感じ悪ぅ」


 ヒナタは終始黙って見ていたが、やはりと言うか、心証は宜しくないようだ。


 「仕方ないだろ。あの件ではあいつも散々だったし、俺だって色々思う所はある」


 景咲はそう言って、窓側最前列の席に視線を流した。

 空色の花瓶と揺れるチューリップ。

 特色クラスのメンバーが、24名になった『あの日』の喪失感が蘇る。


 「なんか湿っぽくなっちまったなぁ」


 景咲は頭をぽりぽり掻いてため息をついた。

 そんな景咲を見て、ヒナタは努めて明るく提案した。


 「そうだ!せっかく一緒に面白そうな事をしてるんだから、何かチーム名決めましょうよ!」


 そういえば小学生の頃。

 このメンバーで一緒に遊ぶ時、今みたいにチーム名を作り名乗っていた事がある。

 その時は『城下町騎士団』だったけか。


 しかし高校生にもなってチーム名か。

 少し子供っぽい案で恥ずかしいが、元々子供っぽい事をしている自覚はある。

 ヒナタの事だから、雰囲気を変えるため、敢えて提案したのだろう。

 俺はヒナタのアイディアに乗っかることにした。



 「それいいな、案はあるのか?」


 「うーん、守一護探検隊とか?」


 「水スペかよ!!」「恥ずい却下!!」


 「なんでよ!UMAと言ったらこれしかないじゃん!!」



 そんな話をしていたら、次の授業の先生が話に入って来た。

 このクラスの副担任で、今年赴任した男性教師だ。

 名前は確か……安藤?うろ覚えだ。



 「何やら面白そうな話をしていますね」


 「げ、先生。もう授業の時間かよ」


 「まだ5分あります。それよりUMAを探してるんですか?私もその手の話は大好きでしてね」



 俺達はこれまでの話を掻い摘んで説明した。

 思いで作りのため、不思議な出来事を追いかけようと思った事。

 活動するにあたり、チーム名を決めようと思った事。

 先生は俺達の話が終わると、ではこんな名前でどうでしょうか?と提案してきた。



 「はぐれ者の鼻歌フリンジ・ハミング


 「はぐれ者の鼻歌フリンジ・ハミング?どういう意味っすか?」


 「意味なんてありませんよ。いや、『意味がない』って意味になるのかな?

  普通なら誰にも相手にされないような、そんな話を追いかけるのでしょう?」



 なるほど、はぐれ者の話など誰も聞かない。

 ましてや、なんとなく口ずさむ鼻歌など、誰も気に留めないだろう。

 聞く価値のない。意味のない事、か。


 俺もUMAが本当にいるなんて思っていないし、黒虹雲の謎が高校生に解き明かせるとも思っていない。

 まさに意味のないことの様に思える。


 「じゃあ、それで」


 そう返事をした俺に、二人から批判の声が上がった。



 「おいおい、『意味のない事』だぜ?そんなんでいいのかよ!」


 「周りからどう思われたっていいじゃないですか。

  結局、どんな物であれ、価値を決めるのは自分達なのですから」


 「む、確かに。そう言われるとなんだか語感も良い気がしてきた」



 先生の一言に、単純な景咲が丸め込まれると、ヒナタもあっさり納得した。

 話がまとまると、先生は満足そうに教壇へ向かい、授業の準備を始めた。



 「やっぱ遠藤って変わってるよなー」


 「他の教師よりも子供っぽい所あるよね」


 「遠藤?安藤じゃなかったっけ?」


 「遠藤だよ!ほら初めての顔合わせの時に言ってたじゃん」


 景咲は鼻を摘むと、下手くそな物真似をはじめた。


 『私は遠藤望えんどうのぞむ、貴方達の特別カリキュラムの講師を請け負います。

  この学園には生徒、教師を含めて遠藤は私1人だけです。

  つまり城下町北高校のTHE遠藤とは私の事なのです!だーはっはっは』


 そうだ、今の物真似で思い出した。

 遠藤だった。誰だ、安藤って言った奴は。

 あと名誉のために補足すると、だーはっはっは。は言ってなかったと思う。



 「あー、そうだな。遠藤だったな」


 「安藤は他のクラスに二人いるしね」


 「ヒナタさん。安藤を掘り返すのやめていただけませんかね?」



 ニヤけ顔をしているので、しばらくはネタにされるだろう。

 しかし遠藤望、変な先生だな。

 なんとなく教壇に立つ遠藤先生を見る。


 視線が合ったような気がしたけど……おそらく気のせいだろう。





 ここで一度、物語の月日は流れる。


 運命の日、20XX年7月21日(金曜日)

 城下町北高等学校、終業式の日。

 夏の始まり。


 街は、世界は……再び、黒い空に呑まれる。


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