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  その場所に溶け込む話

 国立ユスティティア学園は学園首席の朝の校内放送から始まる。初めて通う学校にルゥロは動悸が激しくなる一方で教室に着くころには心臓が爆発するのではないかと不安になる。並んで歩くレックは学校というものにさほど興味がないのかこれといって変わった様子はない。前を歩く担任だという女性を彼は黙って見つめていた。

 「そう言えば、ルゥロ。帰って来てからどんどん青くなってないか?」

 それはもう何度目か分からないほどルゥロは殺された際に異世界に飛ばされた。今まではこの世界のどこかに飛ばされるのだが、その時は違った。異世界に飛んだ時だと推定されているが、気付いたらルゥロの肌は青白くなった。誰からも"死人"と呼ばれる存在になってしまった。レックと異世界の医者が下した診断はそろって「異常なし。至って健康体」だった。本人もそこまで気にしておらず、放置していたものが少し変わったようだ。

 「そうだな。まあ、健康体なのだから気にすることないだろ。別に肌が青色でも俺は気にしないしな。それに今は魔法で隠しているからな」

 小さい声で言うとウインクする。

 前向きなのか何なのか、芯の強いルゥロは変なところで挫折したりするからレックは心配だった。笑顔で答える彼を見る限り気にすることもないだろう。レックが安心して前を向くと、担任がこちらを振り返っていた。

 「二人は仲が良いんですね。友達なんですか?」

 「幼馴染です」

 ルゥロが答えると担任はちらりとレックを見た。

 「どうりで。そちらは側近の方、ですか?」

 「レックの父親が俺の父の側近だからって感じで側近扱いはされてますね。俺にとっては大事な友人なんですが」

 担任は優しく微笑んだ。

 「そろそろ教室に着きます。これから貴方方の学び舎となります」

 担任が教室に入って行くと中からあはようございますと元気な声が響いた。二人は顔を見合わせると頷いた。目的が少女探しだということを忘れないように、じっくりと目を凝らして教室を見ることを皆で約束していた。

 ルゥロはある仮説を立てていた。少女が砂漠化の原因であれば、相当な力を持っているだろうと想定した。そして、彼らがそれを見つけるほどの力を持っていることも分かっている。ならば、集中すれば目的の少女を見つけることができるのではないか。国立ユスティティア学園はマンモス校だ。常に集中することは問題なので一先ず、各々に与えられた教室の中から見つけることになった。当たりであってほしい、二人はそう願いながら教室に足を踏み入れた。

 「はい、静かに。昨日話した入学生を紹介するよ。二人は学校が初めてなので色々教えてあげてね」

 新しい仲間にざわつく生徒たちの前で担任は常套句を口にした。

 「ルゥロです。ご存知の通り、王子ですが気にすることなく接してくれると嬉しいです」

 ルゥロは普段から身につけておいた敬語で挨拶をする。彼は王子だからと言って敬語を使わなかったり敬語を使われたりするのが嫌いだ。教室の中からよろしくね、呼び捨てでもいいの? という声が飛んでくる。少し気押されする。そして次はレックの番だと耳を傾けて思った。

 (こいつが自分からこんなところで挨拶するわけないよな?)

 じわりと汗が背中を歩く。不安になって横目で見てみるとレックは真顔で教室の壁を見ていた。彼は仕方なくレックの分も挨拶する。

 「こっちは俺の友人のレックだ。共々仲良くしてくれると助かります」

 「席は用意してあるのよ。えーと、ルゥロ君はあそこの窓際ね。レック君は真ん中の列の前ね」

 二人がそれぞれの席に着くと朝のSHRが始まった。

 担任の名はテラ。担当科目は地歴公民で特に歴史には詳しかった。

 ルゥロはSHRと授業の合間にこれからよろしくするであろう、お隣さんに声を掛けた。右隣に座る少女はルゥロが呼んでいることに気付くと読んでいた本を閉じた。

 (ビンゴ!!)

 振り向いた彼女にルゥロは心の中で叫んだ。ああ、彼女が"自らの手で弟を失った少女"だ。彼女と心の奥底に眠る不幸が砂漠化を引き起こしたのだと手に取るように分かる。彼女は彼とは違うものを持っていた。けれど彼は自分と彼女は似ているのではないかと感じるものがあった。

 「何だ? 私は今、読書をしている」

 美人といっても過言ではない容姿を持つ彼女は冷たく言い放った。

 「せっかく隣になったんだから挨拶しておこうと思って。あんた、名前は何だ?」

 「カルテ・サーストだ」

 ルゥロは敬語を使わない彼女を気に入った。



○テラ

 ルゥロとレックの担任。担当科目は地歴公民。

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