太陽と砂漠の話
湖に入ると神殿を目指した。神殿の頂上だと思われる尖った部分を見つけるとそこに向かうために風を足の裏から発生させる。風の属性を持つルゥロはそれを上手く使い、水の中で息ができるので溺れることはない。
もう少しで神殿を一周するというところで入口を見つけた。
入口から入ろうと床に足をつけようとしたがあることに気付いた。よくよく観察していると入口付近に水がないようだ。特別な結界で水が入らないようにしているらしい。濡れた布を脱ぐと一気に体が軽くなる。水の中では必要のない身を守る布を入り口に置いていくことにした。
永遠のブルーローズは神殿の地下庭園に生えていると叔父が言っていたのを思い出す。まったく知らないこの神殿でルゥロはとりあえず地下を目指す。
もちろん、魔物も生息している。中には神殿を守る神の使いもいるようで油断できない。気を引き締めながら進んでいるとさっそく魔物が現れた。
ゴブリンと呼ばれる低俗魔物だ。棒切れを持ち、軽いフットワークでルゥロに近づいてくる。
ルゥロは戦闘態勢を取ると、飛びかかってきたゴブリンの鳩尾に蹴りを入れる。その勢いに合わせ、ゴブリンは飛んでいくと壁にぶつかって倒れた。
次のゴブリンも同じようにして攻撃する。
ある程度の数で生活しているゴブリンを一掃すると近くの階段から下っていく。
地下1階に行くと少しひんやりとしていた。水のせいなのか、それともここにいる魔物のせいなのか。地下の奥深くに大きな魔物が潜んでいることはわかるがその魔物せいだとは思えない。
(もっと違う何かの力が働いている気がする…)
「自然発祥の地じゃないのか…?」
地下1階の魔物を倒し、2階へと足を進めると空気が変わった。ひんやりしていることには変わりはないがさっきより暖かい。永遠のブルーローズが生えているのもこの階だったよなと叔父に教わった場所のことを思い出した。確か、外の光が入ってくるような仕組みになっているらしくわかりやすいようだ。壁に明かりが灯っているとは言えども薄暗い。
陽の光を探しながら魔物を倒していると反射した光がルゥロの目に鋭く差し込んだ。思わず目を瞑り、光が見えた場所を向きながらゆっくり目を見開くと、青い薔薇が足元一面に咲き誇っている。いつの間にか永遠のブルーローズが咲いている場所まで来ていたようだ。
「これが永遠のブルーローズか。思っていたよりきれいだな」
周りに警戒しながらも感想を述べる。
ブーケに出来るくらいの数をもらっていこう、ルゥロは1本1本注意しながら手折っていく。
永遠のブルーローズの茎に濡らした包帯を巻いていく。その後、折ってしまわないようにと紙に包み、持ってきておいた段ボール箱の中に優しく置いた。来るときに風を纏っていたお蔭で段ボール箱は湿っていない。これを風を使って運んでいく。
ゆらゆらと浮遊しながら段ボール箱はルゥロと並んで進んで行く。
目的を果たしたルゥロは次にどうするか悩む。後は帰って友人に渡すだけなのだがどうも気になって仕方がないことがある。オアシスを訪れたときから感じた違和感は遺跡に来て、確信となった。この遺跡は普通ではない――と。
普通ではないとなると一体何なのか。誰しも普通ではないものに興味を持つ。
ルゥロは普通ではないものを探すために精神を統一した。ふつふつと体の奥底から力が現れるまでそう時間はかからなかった。緑色のオーラが風のように下から吹き出し、服や髪が風を受け膨らむ。裾が立てる音だけが遺跡の中に響いた。
「やはり…」
ルゥロが精神統一を中断するとオーラが消えた。
「このオアシスはギリンの作ったものか」
大オアシスを持つ街の長。底知れない力と人々を定住させるほどの人物、彼女の大きな力はあり得ない。
街に戻るとあらかじめ予約しておいた宿屋に戻るなり、びしょ濡れの布を部屋に干した。ガラスの技術がないのか、窓は四角く穴をあけているだけだった。あとはそこにカーテンの役割を持つ布を被せるだけ。湖から出るとあたりは真っ暗で星が空を覆い尽くし、その身を輝かせていた。砂漠というものは夜になると寒く、軽装にびしょ濡れの布を持ったルゥロにとって昼間と同じくらい地獄だった。
荷物を簡易ベッドにしか見えないベッドの隣に置くと、小さな机に向かった。日記だ。ルゥロは日課となっている日記を書くために筆を執る。大オアシスに来たこと、永遠のブルーローズのこと、普通ではないギリンのこと…一ページ、隙間がなくなるまで埋めると息をついた。
「ニミルの結婚相手って誰なんだ…」
肝心なことを聞いていなかったと思いながら、しばらくの間本を読んだ。