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I 太陽と砂漠の話

 大陸の約3分の2を占める大砂漠ウースタイン。訪れる人々及びそこに住居する人々を苦しめ、灼熱の炎で砂漠渡りを行う人々を白骨化させる太陽は今日も活動を続ける。そのウースタインを使いこなす砂漠国家は我の強い独立国家だ。



 ルゥロは砂漠大国であるサキールの関門に立っていた。永遠とわのブルーローズが咲くと言われる遺跡はここを通っていく他ない。身分証明を行おうと証を取り出すと、万人はルゥロの顔を見るなり跪く。

 「第一王子、お久しぶりでございます」

 「ここで頭を下げるのはやめてくれ」

 国境であるここにいる人たちはルゥロの国の住人だけではない。他国の国民はもちろん、様々な種族が関門を通るために集まっている。そんなところで目立っては困る。ルゥロは彼にその場を抜けてもらうよう話し、関門所の入口付近に移動した。そこはまばらに人が通りかかるが誰も気に留めなかった。

 ルゥロは久しぶりに会った家臣に対して笑いかける。

 「元気そうでよかった」

 「恐縮です…。妻もとても感謝しておりました」

 深々と頭を上げる青年にルゥロは苦笑した。

 「俺はほとんど何もしていない。感謝するならあの時、アドバイスしてくれたルチルクにしてくれ」

 「皆様に感謝しております。ところで、今日はお一人ですか? 護衛がいないようですが」

 青年は頭を上げると当たりを見渡した。ルゥロの周りに護衛と思われる人がまったく見当たらない。そのうえ、友人もいない。

 「ああ、私情でな。ニミルが結婚するらしいんだ、そのことで頼まれてな」

 「ニミルが…! それはそれは…!」

 青年は目に涙を溜める。

 青年はニミルが昔住んでいた村の者だ。ハーフエルフである彼は元々その村の者ではなかったため、戦争が大きくなり始めるとすぐに故郷に帰ったらしい。ハーフエルフである彼もニミルと似たような立場にあったのだが、ニミルが忌み子だと村人が気付くと対象は変わった。そういうこともあり、二人は大親友と呼べるまであった。ニミルの過去を知っている青年は結婚するということに本当に喜んだ。

 「頼み事が最悪だけどな。永遠のブルーローズを50本取ってこいだと」

 「ちょっと首でも締めに行きますか」

 青年はすっと表情を変えると関節の音を鳴らす。

 ルゥロは悪戯笑みを浮かべると、「結婚式のときに一発よろしく」とウインクした。青年もまたそれに乗り、「派手にやりますか」と笑いあった。

 青年は話はそこそこに仕事に戻った。ルゥロは顔パスだったが一応証を見せると関門を越えた。関門の一部である町の向こうにはどこまでも続く砂漠が待ち受けていた。ルゥロは太陽を見ながら、日差しに対抗するために衣装を揃えなければと店に向かった。

一式衣装を揃えるとそれなりの額がするのだとルゥロは知った。さっそく着替えるとモンスターを借りに行く。ここから目的のオアシスまでかなりの距離がある。歩いていくには遠く、砂漠の太陽をなめてはいけない。それになるべく早く帰りたいとルゥロは思っていた。砂漠に生息するモンスター――デザートウルフを借りると早速その背に飛び乗った。

 身を布で纏い、肌を刺すような陽を防ぐ。普段生活してる温度とは比べ物にならない温度に早速喉が渇く。ここでは水が命綱だ。切らさないように余分には持ってきていたが、だからと言って油断などできない。この温度だと水筒の中の温度も上がりそうだとルゥロは流れる汗をぬぐった。

 これならセイテと一緒に来るべきだったと今更後悔する。

 砂漠渡りをするための準備をしているとき、弟のセイテが自分も行くと言い出した。砂漠渡りは生と死の狭間を彷徨う上に魔物もいる。セイテは強いとは言えど大事な弟を危険にさらすわけにはいけない。それにニミルの頼みごとを聞くために行う砂漠渡りだ。巻き込めるわけがない。ルゥロは兄である自分より背の高い弟を見上げながら「大丈夫」と笑った。

 それを後悔するとは思いもしなかった。だが、この思いを弟にさせなくて済んだと思うとそんな思いも吹き飛ぶ、はず。

 余計なことを考えている余裕はないと頭を振る。少しでも目的地であるオアシスに着くためにスピードを上げた。

 ルゥロの向かっているオアシスは一つの街だ。砂漠では珍しい街であり、たくさんの人が生活を営んでいる。そして街はオアシスの泉に浮いていた。

 有り得ない。

 ルゥロは叔父に地理として習ったときそう思った。砂漠には水が極端に少ない。雨も降ればいい方で、そんな砂漠に街が浮くほどの泉があるというのだ。一度この目で見たかったものであり、その秘密を知りたかった。各地を旅していた叔父はどうやら秘密を知っているようで当時幼かったルゥロは、1週間書斎で寝泊まりしていた。そのくらい気になる場所の一つだ。偶にはニミルの言うことを聞いてみるのも悪くないとルゥロは思った。

 砂漠渡りを始めて3時間が経った頃、視界の端に木を捉えた。ルゥロは思わず、デザートウルフを走らせる。少し丘になった砂を駆け上ると目的地であるオアシスが、街が在った。

 ルゥロは頭の布を剥いだ。照り付ける太陽すら忘れ、自分が今いる場所でさえもわからなくなった。身を乗り出したルゥロを支えきれなかった砂がデザートウルフごと滑り落ちていく。

 「ぅわあああああ!!!」

 気を取られていたルゥロは気付くのに遅れ、転がり落ちていく。少し盛り上がった砂に勢いよく顔を突っ込み、顔が砂だらけになってしまった。それも構わず、立ち上がると視界いっぱいのオアシスをその赤い瞳に焼き付けた。先ほどまで眼下に佇んでいた光景が今、目の前で堂々と腰を下ろしている。

 叔父の言っていた通りだった。

 砂漠で成り立つとは思えない街。そしてその街が浮かぶほどの泉の面積。そこはもう泉ではなかった。湖と変わらない規模でオアシスとして存在していた。

 普通では有り得ない、砂漠に存在する湖。そして、それを浮かべる技術。

 ルゥロは興奮を抑えることができなかった。早く知りたい、この技術を。誰が何を思って造り上げたのか。

 ルゥロはニミルの頼み事なんてものを記憶から消滅させていた。



*用語説明

 ・ウースタイン

 ルゥロの住む大陸の3分の2を占めている大砂漠。オアシスは全部で7個視認されている。大規模なオアシスが存在している。

 ・サキール

 砂漠国家。その環境のためか喧嘩っ早いがもともと温和な性格の住人が多い。定住地を決めて住んでいる人もいれば、砂漠を移動している人もいる。領土は砂漠全てで道案内を生業としている家庭は少なくない。首都は大オアシスにある街である。

 ▽デザートウルフ

 砂漠に生息するモンスター。暑さに強く、我慢強い。弱肉強食の頂点付近に位置し、危険度は高い。手なずけると大人しく、ネコ科モンスターより利口。ただし、寒さに弱い。

 ・永遠とわのブルーローズ

 大オアシスの湖に沈殿する遺跡にしか生息しないバラ。普通のバラとは違って枯れることがないが水の中でしか生きられない。永遠と呼ばれるだけあって大昔の植物。太古生物の一種。


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