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終わりを迎えた青年と

 掴んだものは死だった。

 死ぬことのないこの体を特に恨んだことはなかった。恨んでどうするんだと思った。

せっかく持って生まれたものを、どうして自ら無下にしないといけないのか。だから、気付かなかったんだ。自分がいつからここに存在しているのか。年は取る、ケガはする。


 ――さて、人として足りなかったものは何なんでしょう。


 痛みは感じる。それもいつしか、なくなった。

 人一倍刃物が嫌いな自分。

 外部からの痛みに平気な自分。

 だんだん麻痺していったものはなんなのか。


 ――さて、これはいつの時代のどんな自分の話なんでしょう。


 必死になって、世界を救って、そのあとは。

 天使にもらった一冊の本と家宝とされる一冊の本。

 死にたくはない、生きていたい。



 「レック! お願いだ、俺を殺してくれ。お前しか俺を殺せない…!」

 


 目の前に映るのはあの時の光景。



 彼が大嫌いな刃物を持っている黒髪の幼馴染。目の下にはしわがより、自分だけが幼馴染である彼を殺せるという結果に驚愕し、絶望する幼馴染はひどく震える。

 彼は死人だった。

 死なない幼馴染。みんなで笑いあった楽しい日々。異形である自分たち。



 「嫌だ…! ルゥロぉ…、死んじゃやだよ…」



 鬼女は死人にしがみつき、泣き崩れた。

 彼はただ幼馴染に懇願した。自分が生きていることが他人に迷惑をかけることをこの上なく恐れた。自分はみんなの幸せを願って世界を救ったのに、その自分がみんなを消してしまう。

 幼馴染が自分を殺せないと分かった彼は一歩、幼馴染に近づいた。幼馴染はびくりと震えると一歩下がる。

 それでも一歩、一歩と近づいた。

 それから…



 「レック…、ありがとう。お前が俺の幼馴染でよかった……」



 彼は胸に刃物を突き刺し、音を立てて地面に倒れた。

 鬼女と弟は泣き崩れた。友人が何とも言えず顔をそらした。

 突然、死人の周りに花が咲き始めた。鬼女のこぼれた涙が潤いとなり、地面に潜む種を急かす。

 友人の悲しみが噴火を呼んだ。弟の涙が地震を起こした。

 そして、幼馴染の悲しみは己に向かった。

 愛用の鋏を懐から取り出し、己に向ける。今までこの鋏で幼馴染を、友人を救ってきたこの手で人を殺してきた。これからもきっとその事実は変わらない。



 「ああああああああああああ!!!!」



 勢いよく差し込む刃物を弟が泣きながらその手に刺した。



 「レックまでいなくならないでよっ!」



 ああ、自分が。

 臨んだ結果なんだ。










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