ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング04
「じゃあ蛇の目蝶の着物で。それから水月には梅の花模様の着物を」
コンソールを操作しながらそう言ってセナはケトルを消費する。
「まいどあり」
という店主の言葉の後に、
「っ!」
水月とセナの服装は変換された。
水月は初心者用の麻の服から梅の花模様の着物に。
セナは黒ドレスから蛇の目蝶模様の着物に。
それぞれ着替え終るのだった。
無論納得できない人間が一人。
「なんで俺まで着物着せるんだよ……」
水月である。
「まぁいいじゃん」
セナはあっさりとそう言って、
「ふんふん」
とイメージコンソールを動かし、簪を買う。
それをポップして水月の髪につけるのだった。
「…………」
もはや言葉も無い水月。
「うん。よく似合ってるよ水月」
セナは嬉しそうだ。
水月にしてみれば男としてのプライドをロードローラーで踏み潰され舗装されているような感覚である。
「なんで女装せにゃならんのか?」
ある意味で当然の水月の言葉に、
「水月は美少年だからね。男の娘も似合うと思って」
セナの言葉には一点の曇りもなかった。
「ほらほら」
とセナは水月を店内の姿見……等身大の鏡の前へと押しやる。
そこには梅の花の模様を刻印された着物を着用して髪を簪で纏めた大和撫子の水月と、蛇の目蝶の着物を着用してニコニコ笑っている大和撫子のセナとが映った。
「ね? 可愛いでしょ?」
セナは言う。
「嬉しかないがな」
水月は皮肉る。
「これなら男たちがほっとかないよ」
「ほっといてもらいたいな」
どこまでも平行線。
「よくお似合いですよお客様」
着物屋の店主が愛想笑いを浮かべる。
「それは皮肉か?」
「いえ、本心ですよ?」
「そういう風にプログラミングされているのか?」
「何を仰います」
店主は憤慨したようだった。
「心からの言葉です」
「あー、はいはい」
水月は会話を打ち切った。
それから水月とセナは和服に簪という出で立ちで商都ヤマトを歩くのだった。
セナは水月の腕に抱きついている。
和服と言ってもそこはゲーム性を強調しているのか戦闘に支障が出ない仕様だった。
それから動きやすいことを剣を振って確認した後、水月は言う。
「ここは日本的な商都なんだよな?」
「そうだけど何か?」
「日本刀とか売ってないか?」
「売ってるわよ?」
「日本刀の形をした抗魔剣は?」
「売ってるわよ?」
「奢ってくれ」
「そりゃまぁいいけど……」
そんなこんなで今度は武器屋に向かう水月とセナだった。
アーチ状の木造橋を歩んで数分。
武器屋に着き入店する。
「いらっしゃいませ」
との言葉と同時に水月とセナの視界に武器のカタログであるイメージコンソールが浮かぶ。
それから水月の提案でコスト10の日本刀の形をした抗魔剣にコスト20の攻撃特化型の日本刀の二振りを買うのだった。
セナに買い与えられて水月はソレを装備する。
装備した後ヒュンヒュンと二つの日本刀を振って、
「ふむ」
と納得気に納刀する水月。
「あのさ。防御無視になるけど良いの?」
そんなセナの困惑は当然のことだ。
水月はステータスポイントを直接攻撃力に全振りしており、さらに装備も攻撃特化なのである。
唯一日本刀の抗魔剣だけが直接防御力および魔法防御力を上げているが、コスト10の装備なためあまり期待はできない。
不安を覚えるセナに、
「ま、攻撃に当たらなければいいんだろ?」
さっぱりと水月は言うのだった。
そこにある絶対的自信はセナを呑み込んでなお余りあるものなのだ。
「…………」
セナが沈黙するのも無理はない。
水月が言っているのはつまり、
「全ての攻撃は剣で弾き飛ばすから防御なんぞ要らない」
という意味に他ならないからだ。
「死ぬ気?」
セナの皮肉に、
「まさか」
水月は肩をすくめた。
「俺は誰より命を大切にするべき存在だ」
「?」
「それがさくらとの約束だからな」
「さくら?」
「まぁ色々言ったが要するにこんな世界で死ぬ気はないってことだな」
「本当にそう思っているなら防御にいくらかポイントを回しなさいよ」
「別に必要ないだろ」
どこまでもあっさりと水月。




