ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング01
次の朝……を通り越して昼。
「うー。あー。うー」
水月は眠気まなこをシパシパと開いたり閉じたりしながら五つ星の料理を食べていた。
「ねむ……」
豪勢な料理をもふもふと咀嚼し嚥下しながら出てきた感想がソレである。
有難味もへったくれもないのだった。
「朝に弱いの?」
テーブルの対面で同じ食事をとっているセナが聞いてくる。
「いや、意識すれば一週間くらいなら起きて行動してられんだよ。日頃が怠惰なだけで」
「それがつまり朝に弱いってことじゃないの?」
「返す言葉がござんせん」
そしてまたもふもふと水月は有難味なく義務的に料理を口へと運ぶ。
それからホテルの店員に準備させたコーヒー……無論いきなり水月のテーブルにポップして現れた……を飲んで眠気を体外へと排出する。
それは同時にコーヒーで料理を流し込むという外道でもあった。
魔術の行使にはプロテクトがかかっているのにコーヒーのカフェインにはプロテクトがかかってないのか……などと水月は皮肉気味に思うのだ。
そんなこんなで食事が終わるころには水月はすっかり覚醒した。
セナはホテルをチェックアウトして水月ともども外に出る。
商都アルメンは今日もがやがやと行きかう商人や冒険者の喧騒にやかましい。
「さて……」
セナが言う。
「何して遊ぶ? それともクエストでもやってみる? レベル上げるならクエストが一番いいわよ? クエスト完了と同時に修練の書が手に入るから」
「レベル上げに興味は無い。ていうかコーヒー飲みたい。昨日の喫茶店行かね?」
「まぁ水月が言うなら良いけどね……」
そして二人は喫茶店に入りテラス席に座ってイメージコンソールを操作してコーヒーを注文する。
水月はアイスコーヒーをストローで吸いながらセナを見つめた。
セナと目が合う。
セナは水月と視線が交錯したことを知ると、頬を紅潮させてそっぽを向き自身のアイスコーヒーをストローで吸うのだった。
「…………」
「…………」
しばしの沈黙。
どちらともなく話すことが躊躇われ、水月は空気に流されるまま事態を放っておいてアイスコーヒーを飲むのだった。
幾ばくかの時が経った。
時間にして二十分ほどだろうか。
基準世界に準拠する世界であるから時間も一時間六十分で流れている。
そしてセナが問うた。
「今日はこの街でダラダラするの?」
「ん~。それも魅力的だが……」
水月は溜め息をつく。
「俺、用事があるんだな。散々世話になっておいてなんだがここからは別行動としよう」
「ちょちょちょ! ちょっと待ってよ!」
水月の言葉に驚愕して焦るセナ。
「何だ?」
「用事があるって何?」
「つまり目的があってこの世界に来たんだよ俺は」
「目的?」
セナの問いに、
「目的」
水月は頷く。
「何よソレ……。教えなさいよ。手伝ってあげるから」
「しかしなぁ」
「何? 私じゃ不満なわけ?」
「んなこたないが正直退屈だぞ?」
「いいから言いなさいよ。その目的とやらを」
「…………」
水月はアイスコーヒーを飲みながら思案するように沈黙した。
沈思黙考。
そして、
「あー……」
と間延びした声をあげ、
「俺がここに来たのは二つの目的があってのことだ」
「だからその目的を言いなさいって言ってるのよ」
「一つはこの世界の存在理由を確かめるため」
「存在理由?」
セナはポカンとする。
だが水月は構わなかった。
「要するに何のためにこの世界が存在するのか……。アークはこのツウィンズの世界を構築して人類に何をしようとしているのか……。それを調べてこいとイクスカレッジに依頼されたんだよ」
「…………」
沈黙するセナに構わず水月は言葉を続ける。
「この宇宙の形相を管理する記憶装置にして入力装置にして演算装置……即ちアークが何を望んでいるのかってことだな」
「何かしらの意図がある、と?」
セナの問いに、
「さあ?」
水月は両手を上げて降参のポーズをとった。
「わからないの?」
「わかるわけないだろ」
「それを確かめるためにここに来たと?」
「そ」
水月は頷く。
「イクスカレッジの上層部はこれをアークテストと定義した」
「アークテスト?」
「別名、神の試練。つまりアークがテストを行ない其をクリアすることでアークの恩恵に与れる……そんな現象を指す」
「つまり?」
「このゲームのクリア方法とそれによる恩恵とを調べて来いってのがイクスカレッジが俺に与えた命題」
「ふーん」
納得してセナはアイスコーヒーを飲む。
「じゃあもう一つの目的は?」
「こっちは完全に個人的な話になるが……」
水月もまたアイスコーヒーを飲む。
「人を探している」
「人を?」
「然り」
水月はどこまでも率直だ。
「うちの研究室のアホがこのツウィンズに取り込まれて帰ってきていない。だからその探索のためにここに来た」
水月がそう言った瞬間、
「…………」
セナの眼が死んだ。
不可解を覚える水月。
「なんだ?」
「あのさ……忘れてない?」
「何を?」
「この世界……ツウィンズでは誰とでもコンタクトできるってこと……」
「…………」
今度は水月が沈黙する。
カーとカラスが鳴いた後、
「おお」
ポンと手を打つ水月だった。




