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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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セナという少女16

「俺たちが……俺もお前もいるこの世界が何で成立してると思う?」


「え?」


 ポカンとするセナ。


「不思議に思ったことはないか?」


 水月は朗々と言葉を紡ぐ。


「この世界には地面がある。重力がある。原子の質量比も相対性理論も存在する。太陽と月は交互に世界を照らす。一日が二十四時間だ。つまり地球での感覚と同じだ。そんな都合のいい異世界が本当に存在すると思うか?」


「…………」


 セナは沈黙する。


 しばしの沈黙の後、


「じゃあ」


 とセナは言う。


「この世界は魔術によってできた世界だと?」


「そう考えれば納得できる」


 水月の言葉に躊躇いは無かった。


「準拠世界は基準世界に則っている。そう思わなければこの世界の成り立ちがまずもってありえない」


「準拠世界とか基準世界っていうのは?」


「基準世界ってのは俺やお前が今までいた世界のことだ。お前にとっては二年前になるんだったか?」


「……だね」


 おずおずと頷くセナ。


「それまで住んでいた世界を現代魔術では基準世界と言うんだよ。全ての異世界の基となった世界という意味だ」


「じゃあ今いる世界は……」


「そう。準拠世界だ」


 キッパリと水月は言う。


「別にこの世界に限った話じゃないんだ」


 水月は肩をすくめる。


「色んな異世界が地球とリンクしていて……そして存在している」


「他にも異世界は存在するの?」


「チェンジリングって言葉があるだろ? 正にアレなんか異世界の象徴だ。妖精郷に誘われた子どもが起こす奇跡だ」


「ふーん」


 セナは納得する他ない。


「じゃあ私もチェンジリングなのかな?」


「基準世界のお前の両親にしてみればそうだろうよ」


 水月は率直に皮肉った。


「準拠世界ね……」


 セナは確認するように言う。


 そもそもにして規格外の世界なのだ。


 魔術でも用いなければ説明できない。


 それはセナにもわかっている。


「で? 魔法って何?」


「超熱力学第一法則のこと」


「超熱力学第一法則?」


 クネリと首を傾げるセナに、


「超熱力学第一法則」


 水月はコクリと頷く。


「意味がわからないんだけど……」


「時間の並進対称性のやぶれって言えばわかるか?」


「余計わかんないわよ」


「要するにエネルギー保存則を無視した現象に付けられる法則のことだ」


「エネルギー保存則……」


「そ」


 水月は首肯した。


「エネルギー保存則……つまり熱力学第一法則を無視した現象を魔術と呼び、それに因ってなる法則を魔法と呼ぶ」


「つまり……」


 セナは水月の言葉を反芻する。


「超熱力学第一法則……」 


「そういうことだな」


「信じられないんだけど……」


「別に説得したくて言ってるわけじゃないしな」


 水月は飄々としていた。


「ふーん。この世界って……」


「繰り言になるが魔術に因ってなる世界だな」


 結論を告げる水月。


「ま、何を以てアークがこんなことをしているのかはわからんが……」


 水月は肩をすくめる。


「アーク?」


 セナの疑問に、


「全知全能……梵我一如……アルスマグナ……カバラ……アーカーシャクローニック……ラプラスの悪魔……ワールドバックアップ……そしてアーク。呼び名は数あれど……即ちこの宇宙の形相を管理する記憶装置にして入力装置にして演算装置のことだ。神様って言えばわかりやすいか?」


 答える水月。


「アークが関わっている以上魔術と言うより聖術に近いが……まぁその辺の基準については曖昧だしな」


「神様がこの世界を創ったってことなの?」


「安直に言えばな」


 水月はやや結論をぼかした。


「自身で言っといてなんだが俺としては神様なんて言葉を使いたくはない。アークってのは装置だ。意識を持った存在じゃない」


「でも全知全能って……」


「そうは言ったがな。それでも全知全能が即ち神ってのは安直だ」


「…………」


 沈黙するセナ。


「要するにラプラスの悪魔ってのが妥当だな。世界の始まりから終わりまでを定義する存在……即ちアーク」


「アーク……ラプラスの悪魔……」


「そういうこと」


 そして水月はセナを振りほどくとザバリと水面をたてて立ち上がる。


「じゃあ俺はこれであがるぜ。セナについてはゆっくりと風呂を楽しめ」


 そして水月はセナを放って風呂からあがる。


「アーカーシャクローニック……準拠世界……」


 セナはポカンとしたまま水月の言葉を繰り返すのだった。


「つまりこの世界は……偽物……?」


 それは一つの真実を捉える言葉だった。

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