セナという少女13
「異世界良いとこ一度はおいで~……ってか」
はふ、と水月は吐息をつく。
夜だった。
星が輝いていた。
月も輝いていた。
「準拠世界だなぁ」
そう思わざるを水月はえなかった。
で、その水月が夜空を見ながら何をしているかというと、
「極楽極楽」
風呂に入っているのだった。
ゲーム世界故か。
汗もかかなければ垢も出ない仕様だ。
まっすぐ湯につかることは非礼ではない。
あの後……つまり喫茶店に場所を移してからの語らいの時間、京八流について表面をなぞる様にセナに説明している内に時間が経ち、日が暮れ、それからホテルに泊まろうという話になった。
「私のケトルが余ってるから」
セナはそう言って商都アルメンで一番のホテルの……そのスイートルームにチェックインするのだった。
広い二人部屋。
フカフカのベッドは水月が最初の村で泊まった宿とは比較にならない……比較になりようもない仕様だったのだ。
水月は、
「装備オフ」
とボイススキップによって装備を外すとベッドに飛び込むのだった。
それからテラス席でスイートルーム専用の豪華な食事を取り、
「極楽極楽」
今現在お風呂に浸かっているというわけだった。
星空が見えることから露天風呂に相違ない。
VIP専用の風呂はセナと二人で使うにはあまりに広く、一人で使うなら温水プールにもなりそうなほどだ。
「昇り月、そが輝くたるが、陽ならば、偏に光、夜さえ照らさん」
そんな和歌を詠みながら水月は、
「ふいー」
と口元まで風呂に浸かる。
ブクブクと呼吸によって風呂の水面を泡立てていると、水月の視界にコンソールが浮かんだ。
「セナ様を風呂に歓迎しますか?」
そんなウィンドウだった。
「なるほどね」
それだけで水月は察せられた。
要するに性的接触には互いの合意が必要と云う事だろう。
例えば可愛い少女などが下卑た男に取り囲まれても承認を得なければコトに及ぶことが出来ない。
そう云う仕様なのだろうと水月は理解する。
同じことは風呂にも言える。
例えば女子の入浴に男が割り込むことが勝手には出来ないように確認を取るシステムが構築されているのだろう、と。
水月はボイススキップを使う。
「チャット。セナ」
そしてチャットのウィンドウが開き、水月はセナと文字で会話する。
とは言ってもメッセージも思考を反映されるものならば、ある意味でそれは思考のシンパシィと言えるかもしれなかった。
「何考えてんだお前」
そんな水月のコメントに、
「一緒にお風呂入ろうかと思って」
そんなセナのコメント。
ガクリと水月はずり落ちる。
「アホか」
「聞き捨てならないわね」
「お前も可愛い女の子なんだからみだりに肌を晒すのは止めておいた方がいいと愚考する次第なんだがな」
「水月になら構わないわよ?」
その含みのあるセナのコメントに、
「…………」
水月は、
「さてどうするかね?」
とコメントではなく声で呟いた。
しばし考えた後、
「水着着用が最低条件だ」
水月はそうコメントをうった。
「むぅ」
それはセナのコメントだった。
「水月は枯れてるの?」
「どういう意味だ?」
「女の子の肌に興味は無いの?」
「バリバリあるに決まってるだろ」
「じゃあ……」
そこで一旦コメントが止まる。
そして五秒ほど時間を取った後、
「私の裸に興味無い?」
そんなコメントが書き込まれた。
水月の視界にだけ映るウィンドウの……その馬鹿の極みにも似たコメントに水月はうんざりする他なかった。
「興味はあるが一線引きたい」
他に返しようがない。
「じゃあ水着着用するから風呂に入れて」
そんなセナのコメントに、
「もし全裸で入ってきたら俺はさっさと風呂をあがるからな」
そう忠告してセナの行動が発したコンソール……混浴の可否を問うウィンドウを指で操って同意した。
それから、
「水着着用」
とボイススキップで男用の水着を装着する水月だった。
「お、お邪魔します」
そんなおずおずとした声とともにカララと浴場への扉が開き、白いビキニを着たセナが入ってくるのだった。
純白のビキニはセナの健康的な四肢を引き締めていて、水月が率直に言って、よく似合っていた。




