セナという少女11
セナの興奮は留まるところを知らなかった。
「あんな高レベルスキルを全部剣で弾いたってのが信じらんない! 私も師匠として誇らしい!」
「さいですか~」
セナと水月のテンションの温度差は宇宙空間と恒星くらいはあった。
「で……」
と水月はセナに頬ずりされながら、レイたちに視線と言葉をやる。
「決闘で勝った以上こっちの言うことを呑んでもらえるってことでいいのか?」
「何を望む?」
レイは悔しそうだ。
「ま、そう身構えるなよ。要するにセナに対して執拗な勧誘を止めて欲しいだけだ。簡単なことだろう?」
「…………」
しばし思案した後、
「わかった。しばらくは控えよう」
「そりゃ重畳」
「だからと言って貴様を認めたわけじゃないぞ……! あくまで今回の決闘はステータス均一で行われたモノだ! 実際の戦闘なら俺たちが勝っていることを自覚しろ」
「してるさ」
誇張も怯みもなく水月は答える。
レベルの差はステータスとスキルと装備の差だ。
なればこそレイの言うことは当然だった。
それを百も承知でレイたちのプライドを踏みにじった水月であるからレイたちの心情を察するのは簡単だったのだ。
あと水月に抱きついて頬ずりするセナに対しても。
(やれやれ)
そう思わずにはいられない水月。
レイたちは食事処を出ていった。
その背中に哀愁が漂って見えたのは水月の目の錯覚か。
ともあれ、
「セナ、鬱陶しい」
水月は抱きついているセナの頭部を引っ掴み無理矢理引きはがした。
「なによ? 私に抱きつかれるのが不満なの?」
むぅと膨れるセナに、
「褒めるなら言葉にしてくれ。抱きつかれるのは勘弁だな」
水月はそっけなく言う。
「それよりこの店出ないか? 俺はコーヒーが飲みたい。……あ、この世界にコーヒーはあるか?」
「あるわよ。じゃあ喫茶店に行きましょう」
そして水月とセナは食事処を出て商都に無数にある喫茶店の一つに入った。
水月はセナとともに、大きな市場を……そしてそこを行きかう商人や冒険者を眺めることができるテラス席を指定した。
席につくと同時にウェイトレスがやってきて、それからメニューのウィンドウが水月の視界内で開く。
水月はアメリカンを、セナはメロンソーダを頼んだ。
そして選んだ瞬間、水月とセナのついている席のテーブルの上にコーヒーとメロンソーダが具現化する。
ツウィンズならではの光景だ。
「よくそんなもん頼めるな」
本心から水月。
「え? 美味しいわよメロンソーダ……」
「蛍光色の緑なんて毒々しくないか?」
「メロンなんだから緑で当然でしょ」
「だな」
水月はそれ以上は不毛だとこの会話を打ち切った。
そしてコーヒーを一口飲んだ後、
「メニュー」
とメニューのイメージコンソールを呼び出す。
水月の視界にメニューのコンソールが現れた。
そこからステータスの項目に飛ぶと、水月は直接防御力と魔法防御力に振り分けていた150におよぶステータスポイントを全て直接攻撃力にまわすのだった。
「何してるの?」
とセナがストローでメロンソーダを飲みながら、水月の空中に振るタクトのような指を眺めて問う。
「ちょっとステータスの変更をな」
そんな水月の言葉に、
「っ」
セナはメロンソーダを飲むのを中止する。
「もしかして攻撃にステータスまわしてる?」
「直接攻撃力に全振りだが何か?」
「死ぬ気!?」
「防御にまわすメリットが感じられないだけだ」
率直に水月は言う。
「不意をうたれたら終わるのよ!」
「大丈夫。心眼があるから」
「しんがん?」
「説明は少し省くがまぁ一種の察知能力だな。それにスキルポイントは防御と感覚に振ってるから不意打ちにも対応できるだろ?」
「でも……!」
「正直ぬるいなこのゲームは。ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング……か。ヴァーチャルリアリティマッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングがこのゲームの根幹なんだろうが……俺みたいな参加者はイレギュラーなんだろうな」
「どういうことよ?」
「だからこのゲームの根幹だな」
水月はコーヒーを飲む。
そして、
「ほ」
と吐息をついて言葉を続ける。
「そもそもにしてステータスが直接攻撃力、直接防御力、魔法攻撃力、魔法防御力だけしかないってのが変だと思わないか?」
「?」
ポカンとするセナ。
「あー、つまり……」
水月はガシガシと頭を掻く。
「スピードやラックが存在しないのは異常だと思わないか?」
「何でよ?」
「ゲームではスピードやラックは必要な要素だ。それが無いってのはつまり速度や運はプレイヤー個人に任せるってことだろ?」




