セナという少女07
水月は思念を想起して、
「あーあー、天気晴朗なれども波高し」
と意図的に思う。
するとチャットにその通りのコメントが表示された。
水月という名前とともに。
「誰?」
とレイがコメントする。
「私とパーティ組んだ奴」
とセナが返す。
「そいつがか!」
コメントで激昂という器用なことをするレイ。
「まぁね。だから私のことは諦めて」
辛辣なセナ。
「いい加減ソロプレイ止めないか? 俺らのギルドに属したら寝てても経験値入るぜ?」
「だからソロプレイ止めてパーティ組んだんじゃないの」
水月にしてみれば、
「今まではソロプレイだったのか」
程度の感想でしかない。
「ちょーちょーちょー水月さんよ」
レイは水月に絡んでくる。
「何だ?」
「こっちはずっと前からセナさんの勧誘してんだけど?」
「それで?」
「横やり止めない? 図々しいぞ」
そんなレイのコメントに、
「図々しいのはどっちだ」
とコメントではなく言葉にする水月。
その言葉を聞いたのは水月とセナだけである。
コメントとしては、
「そう言われてもな」
とだけ返した。
「お前、どこいんの?」
レイのコメントはあからさまに不機嫌だ。
もっとも……横やりを好意的に思う人間もいないだろうが。
「商都アルメン」
と水月はコメントする。
「その食事処ボンピエリ」
と付け加えて。
「すぐ行く」
とコメントした後、レイはチャットを抜けた。
チャットに残されたのは水月とセナだけ。
セナは言葉で、
「チャット切るわよ」
と確認する。
「どうぞ」
と水月は返答する。
そして水月はボンゴレを、セナはマルゲリータを咀嚼、嚥下する。
そしてセナが不満を漏らした。
「別に場所言わなくてよかったんじゃない?」
面倒だと表情で伝える。
しかし水月は飄々と、
「どっちにしろ言い訳には面と向かって言うしかないだろ」
そう言ってボンゴレを食べ終わる。
それからお冷を飲んで、
「相手から来てくれるってんなら面倒が無くていいと思うんだがな」
結論付ける。
「そりゃそうだけど……」
どこまでも不満げにセナ。
「私は別に責められてもいいけど、水月に悪意を持たれるのはちょっと容認しがたいのよね……」
「非戦闘区域にいるんだから面倒事にはならんだろ」
呑気に水月。
そして四方山話に花を咲かせる水月とセナ。
その十分後にレイともう二人が現れた。
それを水月が知ったのはレイの、
「セナさん!」
という言葉によってだった。
黒髪の天然パーマの男がセナにデレデレしながらそう口にするのを見届けて、
「こいつがレイか」
と納得する水月。
そんな水月はレイについてきた他二人を見やる。
一人は弓こそ持っていないものの矢筒を背負った男だった。
武装が弓矢なのはそれだけで見て取れる。
年齢は二十を超えているだろう。
そしてもう一人はローブを着た女だった。
杖を持っていることから魔法使いの類であることは見て取れる。
こちらも二十を超えた年齢だった。
杖はウィッチステッキだろうか、などと現代魔術の原理に則ってそんな解釈をする水月であったが、それは残念ながら外れである。
魔法使いの持つ杖は魔法攻撃力を底上げするための装備だ。
つまり立派に役に立っているのである。
閑話休題。
レイが水月を睨みつけながら言う。
「お前が水月か……」
「どうも初めまして」
と水月は肘をついた手を顎に添えて、お冷を飲みながらぞんざいに挨拶をする。
「レベルは?」
とレイ。
「30」
と水月。
「ふん」
と軽蔑するようにレイは鼻を鳴らした。
水月は飄々とお冷を飲む。
そんな水月を無視して、
「セナさん。あなたはこんなことで燻っていい人間じゃない。今すぐにでも我々マーチラビットに加わるべきだ」
「何度も言ったがもう一度言おうか。マーチラビットに入る意志は私にはないよ」
「しかしてレベル30の素人をお供に連れてどうするんだ……。俺たちならセナさんを存分にサポートできるんだぜ?」
「別に必要ないし」
セナはそっけなかった。
けんもほろろとも言う。
 




