セナという少女04
そして水月は鉄壁の防御力を持つことになったのだった。
当然だ。
レベル30のステータスポイントも装備をも全て防御にまわしたのだ。
既にゴブリンなど攻撃を無視して問題ないレベルだ。
ただしその代わりに攻撃はお粗末だった。
ある意味で……いわんや事実として攻撃能力はレベル0と同等なのだ。
代わりにセナがゴブリンを倒して、グループとして経験値のおこぼれをもらうのに徹しているのだった。
「俺も戦闘に参加したいんだが……」
そう言う水月に、
「攻撃力を持ってないんだから大人しくしてて」
と正論で返すセナ。
「ステータスを攻撃にまわせばいけるんじゃね?」
水月がそう提案すると、
「死にたいの?」
セナは身も蓋もなく言う。
「それを言われると辛いが……」
返答に窮する水月だった。
「大丈夫」
とセナは言う。
「水月が死なないように努力する」
献身的に。
「その上で安全率を守って水月の目的を果たせばいいでしょ?」
それは不可思議な言葉だった。
「なぁセナ……」
水月は腰に帯刀している二本の剣の柄を叩きながら問う。
「何?」
巨大にして凶悪な斧を振るってゴブリンを掃討しながらセナ。
「お前の黒のドレス」
と言ってセナの着ている黒のドレスを水月は指差す。
「そのドレス。装備品か?」
「装飾装備に決まってるでしょ」
何を今更とセナ。
「ということは本来の装備は違うってことか?」
推理する水月に、
「そういうことね」
あっさりと答えるセナ。
「コスト四十の鎧の上から黒ドレスの装飾装備を纏っているだけよ」
「なるほどね」
水月は頷く。
「で……」
とさらに問う。
「なんでお前……」
斧を振り回してゴブリンを屠るセナに、
「俺に執着するんだ?」
そんなことを聞く。
その間にもゴブリンを倒した経験値とお金とが水月の中に溜まっていく。
急激にレベル30になった水月には焼け石に水だが。
「…………」
しばし沈黙して、
「笑わないって誓う?」
セナはそんな取引を用いた。
「まぁそれで真意を聞けるならな」
水月は気軽に言う。
そしてセナは、
「あんたが初めてだから」
そう言葉にする。
「何が?」
問う水月に、
「本物のプレイヤーに会ったのが」
答えるセナ。
「え? でも……」
水月は、
「わからない」
と言う。
「お前、今まで色んなプレイヤーに会ってきたんだろう?」
「そんなこと私には判断つかないもの」
ふくれっ面でセナは反論する。
「高レベルになればなるほどプレイヤーとノンプレとの区別はつかなくなるのよ」
「…………」
沈黙する水月。
「だからノンプレが持っていないリターンスフィアを持っている初心者くらいしか本物の現実世界からこっちの世界に来た人間ってのは判別がつかないの」
「…………」
やはり沈黙する水月。
それから、
「あー、なんだ」
水月は眉間を指でつまむ。
「つまり俺がこのゲーム世界に来た本物のプレイヤーだから信用に値すると?」
「そういうことね」
セナは首肯する。
「あんたは確かにプレイヤーだと判別できる。だから私はあんたを守って信用して……それから弟子にしようとしたのよ」
「…………」
水月は沈黙する。
しばし沈思黙考し、
「俺が純粋なプレイヤーじゃなかったら?」
試すように言う。
「別に」
あっさりとセナ。
「私の見る目が無かったってことでしょ。まぁあり得ない理論ではあるけど」
ぐうの音も出ない正論だった。
そして水月は正当に基準世界からこの世界に来た人間なのである。
故に、セナの眼力は正しいのであった。
「やれやれ」
水月はそう言う他なかった。
「何か文句でもあるの?」
「ねえよ」
他に言い様もなくそう言う水月だった。




