セナという少女03
そして水月は、
「修練の書オン」
とボイススキップを活用する。
そして大量の経験値を得てレベルアップを果たす。
それを五十三回続けるのだった。
大量の経験値を得て水月のレベルは30にまで上がるのだった。
「なんか反則っぽいな……」
「しょうがないでしょ。プレイヤーは保護するのが必然なんだから」
「お前……ジョージを殺しておいてよくぬけぬけと……」
「大丈夫よ。どうせノンプレだから」
「ノンプレ?」
「ノンプレイヤーキャラクタ。NPCって言えばわかる?」
「ジョージがNPC……ノンプレってのか?」
「さぁ? 知らないわ?」
諸手を上げて皮肉気に降参するセナ。
「知らないってお前……。どう考えてもジョージの野郎は自分の意志を持っていたように思うぞ?」
「このツウィンズの世界ではね……プレイヤーとノンプレの区別なんかつかないの」
「ツウィンズってのは?」
「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング……その綴りの頭文字をとってツウィンズよ」
「なるほどね」
「で、話を戻すけどこの世界はノンプレもプレイヤー同様に生き生きと暮らしている。道具屋や宿屋の店主も軽快な会話をしてきたでしょ?」
「そう言えばそうだな」
「ちなみに先にも言ったけど甘言を弄してノンプレを戦闘区域におびき出せば殺すこともできるわ。もちろん罰則点数はつくけどね」
「プレイヤーとノンプレの境界線が曖昧な世界ってことか……」
「そ。ゲームの世界と思っていると……まぁゲームの世界ではあるんだけど……ともあれゲームだと思ってると足元すくわれるわよ」
「おう。気を付ける」
「じゃあステータスを割り振って」
「ボイススキップで?」
「ステータスの割り振りはさすがに無理よ。戦闘中にステータスの変更なんて気楽にされたらチートでしょ?」
「確かに」
「とりあえずレベル30って言ったわね。ということはステータスポイントは150ね。直接防御力と魔法防御力に75ずつ振り分けて」
「攻撃力に振り分けなくていいのか?」
「死にたいならどうぞ?」
「…………」
それ以上の議論は不毛と悟って水月は全てのステータスポイントを直接防御力と魔法防御力に振り分ける。
さらにスキルポイントは防御スキルや知覚スキルにまわすのだった。
考えうる限り鉄壁の防御である。
そしてそれを見届けた後セナがボイススキップを行なう。
「水月とトレード」
またトレードのウィンドウが開く。
「今度は何だ」
問う水月に、
「防御の装備品を譲ってあげる」
セナはそう言って一つの盾をトレード欄にポップさせた。
水月はその盾を見る。
直接防御力と魔法防御力が30ずつ上がるという良アイテムだった。
さらに付加効果としてアンチマジックと説明されている。
「アンチマジックって何ぞ?」
「魔法無効化を実現する特典よ」
「魔法無効化?」
「そ。この盾を九十度……つまり直角を挟んで八十度から百度の間で魔術を受け止めると魔法を無効化することが出来るのよ」
「なるほどね」
もう何度目かの納得をする水月。
「コスト30かよ。ギリギリじゃねーか」
「しょうがないわよ。アンチマジックを持つ盾は珍しいんだから」
「アンチマジックを持つ剣は無いのか? そっちの方が性に合ってるんだがな……」
「あるけど……アンチマジックの判定厳しいわよ? 斬撃を魔術に当てる必要があるし、魔術は場合によっては弾速に近くなるし」
「まぁ大丈夫だろ。心眼と見切が使えるから問題はない。アンチマジックの剣持ってないのか?」
「持ってるけど……本当にいいの?」
「俺の剣さばきはジョージとの戦いで見せてるだろ?」
「それはそうだけど」
しぶしぶと盾を引っ込めてアンチマジックのかかっている剣をトレード欄に持ってくるセナだった。
その剣を水月は見る。
アンチマジックがかかっていることは前提で、直接防御力と魔法防御力が10ずつ上がる装備だった。
コストは10。
レベル30の水月にはローコストである。
「うん。持ってるじゃないか。これでいい」
そこまで言って、
「何でコスト10なんだ? アンチマジックがかかっているのに」
不思議そうな表情をする水月。
「普通はアンチマジックのかかった剣を使うプレイヤーがいないからね」
セナはそう言う他なかった。
「そんなもんか?」
剣を日常的に振るってきた水月にはわからない概念である。
仕方ないといえば仕方ないのだが。
そしてトレードによってアンチマジックのかかった剣を受け取り装備する水月。
コスト10の抗魔剣にコスト0の初期装備の剣の二刀流になる水月だった。
「あと装備コストは20だけ残っているわね」
セナはそう分析し、
「水月にトレード」
と更にトレードのウィンドウを開く。
そしてトレード欄にセナはコスト20のフルプレートの鎧と装飾装備にあたる麻の服を並べるのだった。
「これは?」
問う水月に、
「どうせレベルコストが20空いてるでしょ? なら鎧で防御力を上げるのもいいんじゃないかと」
肩をすくめてみせるセナ。
「こっちの麻の服は装飾装備か」
「フルプレートをつけて歩きたいの?」
「そりゃ勘弁だがな」
今度は水月が肩をすくめる。
「生憎と装飾装備品はそれしかないのよ。ま、釣りと思われれば牽制にもなるでしょ?」
「納得……」
セナの言に頷く水月だった。
そして一方的なトレードを終えて、フルプレートの鎧とそれを上書きする装飾装備の麻の服を適応する水月だった。
麻の服にジーパンの姿で、片手剣を二振り腰にためる水月。
一方は最初から装備しているコスト0の攻撃剣。
もう一方はアンチマジックの効果を持つ抗魔剣。
後者は攻撃に使えないが、それでも戦術の幅は広がるのだった。
「セナ……」
「何よ?」
「お前、良い奴だな」
そんな率直な水月の言葉に、
「馬鹿じゃないの」
顔を赤らめてそっぽを向くセナだった。




