ゲームの世界へ11
水月は覚醒した。
パッと目を開く。
人の気配を察したからだ。
衣擦れ。
足音。
そんなわずかな情報を頼りに水月はハッキリと目を覚ますのだった。
元々水月がいたのは生きるか死ぬかの世界である。
こう言った鋭敏な反応はたゆまぬ努力によっていささかも衰えをみせない。
水月は、
「くあ……」
と欠伸をすると、寝袋を出て、更にテントを出る。
夜空には月と星とが輝いている。
辺りには暗闇が浸食している。
そして二人のプレイヤーが水月のテントに近付いてきていた。
無論テントの効果でテントから半径一キロメートルの範囲において水月は無敵なのだが、だからと言って警戒を解くには不自然だ。
「あー……」
と眠たげに呟いた後、
「何か用?」
二人のプレイヤーに問う水月。
「「いや別に」」
そう二人のプレイヤーは異口同音に否定した。
「ふうん?」
と疑問を覚えた後、水月は、
「くあ……」
と欠伸した。
「眠いのか?」
プレイヤーの一人が問う。
テントを視認できるということは罰則点数を持たないプレイヤーだということを認識して、水月は、
「まぁな」
と率直に答える。
「じゃあ寝てろよ。こっちから何をするでもないし、テントがある以上何もできないしな」
そんなプレイヤーの言葉に、
「そうする」
素直に頷いて、
「くあ……」
とまた水月は欠伸をして、
「じゃあ良い夜を」
そんな風に言い残してテントの中へと戻る。
ジッパー式の寝袋に戻ると、
「何だったんだいったい……」
さっきの闖入者たちを思い描きながら寝袋に完全に収まる。
「ま、いいか」
それ以上の思考を放棄する水月。
不毛だと悟ったのだ。
そして水月は眠りについた。
今度は正真正銘の睡眠だ。
何が起ころうとも眠る。
そんな睡眠だった。
*
次の日。
とっくに太陽が空の頂点に昇った頃。
「むぁ~……むが……?」
といびきをかいた後、水月は目を覚ました。
とにかく途中から結界に入ってくる人間が増え始めたので結界そのものを閉じて深い眠りについたのだった。
そして起きたのがついさっき。
それから水月は、
「くあ……」
と欠伸をして結界を展開する。
それは瞬く間に水月を完全覚醒へと導いた。
当然だ。
水月は今、
「囲まれている?」
のだから。
何が何だかと思いつつテントの中で、
「メニュー」
と呟いてメニューを開き、寝巻から麻の服に着替え、剣と鎧とを装備する。
それからテントの外に出る。
待っていたのは十二人のプレイヤーだった。
うち二人は見知った人間だった。
夜中に水月の結界に察知されて無害を装った健全そうなプレイヤー二人。
そして残りの十人は赤いマークが頭上に張り付いていた。
逆三角形のマークである。
要するに罰則点数を大いに数えたプレイヤー……つまり非人道的なプレイを行なっている人間だということだ。
「あー……」
と水月は悩んだ後、
「何これ?」
と本音を吐露する。
「これがこのゲーム世界での歓迎なのか?」
意味がわからないと水月。
「歓迎というより洗礼だな」
疲れたように……そして水月の主観ではあるが……しかし事実としても正確に他プレイヤーたちはうんざりとしていた。
「ていうかお前……起きるの遅すぎ」
プレイヤーの一人がそう言う。
「あー……昼の十二時に起きて夜の十二時に寝るのが俺の理想だからな」
「睡眠時間十二時間かよ! 睡眠時間が起床時間と同等?」
「そういうことになる」
くったくなく水月は言う。
そんな水月の腹がグーとなる。
「腹減ったなぁ」
空腹を覚えたのは自然である。
既に昼を過ぎているのだから。
水月はテントから離れて歩き出そうとする。
しかしてそれをプレイヤーたちが阻んだ。
「何すんの?」
「てめえを逃がすわけにはいかんからな」
「ふーん?」
興味深げに呟いて水月はグルリと三百六十度見渡す。
テントの周りを逃がすまいと十二人の人間が取り囲んでいるのだった。
そしてうち十人は赤色の非人道なレッドプレイヤーなのだ。
もっともテントの効果でテントを中心に半径一キロメートルは水月にとって非戦闘区域に指定されているのだが。
故に攻撃はせず、妨害をする。
おそらく水月がテントを閉じるまで。
しかして黙っている水月でもなかった。
道を阻んでいるプレイヤーの一人の腕を取ると、
「っ」
合気の要領で地面にたたきのめす。
非戦闘区域故にダメージは無いが包囲網は崩れた。
「なっ!」
とプレイヤーたちが驚く。
そんな驚愕を軽く流し、水月は森の中に入っていって枯れ枝を集める。
それからテントの傍に戻って枯れ枝を山状に詰んで、
「ファイヤー」
と呟いて火をつける。
それからメニューを開きさるぼぼ肉と串をポップしてから直火で焼く。
プレイヤーたちはそんな不遜な水月の態度に苛立ちを覚えたようだった。
「お前、俺たちを舐めてんのか?」
プレイヤーの一人がそう問うてくる。
「そういや何でレッドプレイヤーが俺を取り囲んでんだ?」
焼き上がったさるぼぼ肉を食べながら水月は問う。
「お前を殺すためさ」
皮肉気にそういうレッドプレイヤー。
「ふーん」
さるぼぼ肉を食べながら水月は流す。
恐れ入ったりはしなかった。
「このゲームには山賊ってのが存在するのか?」
「存在するからこうしているだろう?」
「ごもっとも」
水月はさるぼぼ肉を食い尽くす。
「はふ。御馳走様」
パンと一拍して犠牲となった生命に感謝する。
「それで? ええと赤色の皆さん」
「レッドプレイヤーと呼べ」
「なるほど……レッドプレイヤーね……。レッドプレイヤーの皆さんは俺がテントを解除すると同時に俺に襲い掛かる腹?」
「他に何がある」
「やれやれ」
水月は困ってしまって頭を掻いた。
「なんとか見逃す可能性は?」
「ないな」
「さいですか」
そもそもプレイヤーを殺したが故にレッドプレイヤーになったのだろうということくらい水月にも把握できていた。
「じゃあ逃げの一手を打たせてもらおうかな」
そう言うと水月は跳んだ。
そして自身と展開したテントを囲んでいるレッドプレイヤーの一人の頭上を蹴ってさらに跳躍する。
そしてこれは天狗の剣である京八流を習った時の要領になるのだが、道の側面に広がる森の木々を蹴ってあっという間に大木の頂点に身を置くのだった。
あっけにとられる山賊プレイヤー。
それはそうだろう。
人間業ではない。
そんな曲芸を披露した後、
「じゃ……俺のことは諦めろ」
水月はそう言うと、木々を蹴ってあっという間にレッドプレイヤー……山賊たちを引き離して次の村へと急いだ。




