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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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ゲームの世界へ10

 モンスターへはノックバックが発生し、プレイヤーにはノックバックが発生しないという点においてだ。


 そもそもノックバックは行動不能を意味する。


 当然、武器の技術が上位にあるほど先に攻撃を当てた者が有利なのは言うまでもない。


 とすればプレイヤー同士での戦いでノックバックを用いれば片方が圧倒的に不利になるのは目に見える。


 それ故プレイヤー同士の戦いではノックバックは免除されるのである。


 対してモンスターはそんな不平等を考えることもないだろうからノックバックを採用しているのだった。


 当然モンスターに攻撃を加えてノックバックさせることにも意味はあるが、それ以上にモンスターが連続的に攻撃するのを防ぐためにプレイヤーがノックバックすることを許可しているのだろう。


 まさにアクションゲームだった。


「で……」


 問題はまだあった。


 さるぼぼ人形から得たアイテムである。


 さるぼぼ肉。


「なんじゃらほい?」


 首を傾げる水月。


 アイテムのコンソールからさるぼぼ肉をポップする。


 現れたのは赤茶色い肉の塊だった。


「これを食えと?」


 アイテムの説明欄には簡潔に、


「食物」


 と無慈悲な文字が並んでいた。


 まだ空腹を覚えていない水月はさるぼぼ肉をリポップしてアイテム欄に格納する。


 そしてまた水月は歩き出す。


 今度はさるぼぼ人形が二体現れた。


「まぁ百聞は一見に、百見は一験に如かず……か」


 わざと水月はモンスター……さるぼぼ人形の攻撃をくらう。


 そして、


「なるほどね」


 と納得する。


 さるぼぼ人形に噛みつかれた箇所から痛みというには足りない淡い圧迫感のようなモノを感じたのだった。


 決して苦痛ではない。


 しかして何も感じないわけでもない。


 もし何も感じないのであれば、それはそれで問題であるから、


「この辺が妥協点ってところかな?」


 そんな風に思う水月だった。


 痛みを感じなければ攻撃された箇所やタイミングがわからない。


 かといって過剰に痛みを感じればそもそも反撃どころではない。


 その妥協点としての感触だと水月は思うのだ。


 そしてその思考は正しかった。


 その辺りをノックバックが終わる瞬間までに考察し終えて、それから完全にノックバックが終了するのを一万分の一秒単位で察すると同時に水月は、二体のさるぼぼ人形目掛けて間合いを詰める。


 剣を振る。


 レベル1だった時はさるぼぼ人形のヒットポイントの四割くらいを削るだけだったが、レベル2になりステータスポイントを直接攻撃力に全振りしている水月の斬撃は一発でさるぼぼ人形の一体を消滅させた。


 経験値とお金とさるぼぼ肉とを手に入れた……とウィンドウが水月の視界にポップするのだった。


「今日の夜食はさるぼぼ人形か……」


 それはある意味で未来予知。


 楽しくない未来ではあったが。


「キシャアアアアアアッ!」


 牙の生えそろったもう一体のさるぼぼ人形にも怯まず剣を振る水月。


 そして一撃でさるぼぼ人形のヒットポイントを刈り取るのだった。


「ふむ……」


 ヒュンヒュンと水月は剣を振るう。


 モンスターを倒した。


 それはいい。


 しかして武器の軽さが気になった。


 否、本当はこの異世界……ザ・ワールド・イズ・マイ・ソングの世界に来た時から気づいてはいた。


 今水月が装備している剣は竹刀の半分の重さくらいしかない。


 あまりに軽すぎるのだ。


 元より水月は鈍重な日本刀を以て神速に至れる身だ。


 ここまで軽いと斬撃に不安さえ覚えるのだった。


 とはいえここはゲーム世界。


 そもそもにして日本刀を繰るような芸達者が召喚されることなど想定していなかったのだろう。


 本当に剣の重さが基準世界と同等ならば大半の人間は振るうことが出来ない計算になってしまう。


 そこまで考慮されていることに水月は感服するのだった。


 そして水月は次の村目指して歩く。


 しかして昼まで寝過ごしたことが祟ってか……太陽は西に沈もうとしていた。


 本当の太陽ではないにしても明かりが消えることには相違ない。


 村へたどり着けなかったのだから日が沈む前に水月は野営の準備に入った。


「メニュー」


 と呟いてメニューのイメージコンソールを開き、アイテム欄からテントを一つだけポップする。


 組み立てる必要はなかった。


 既に出来上がったテントが現れる。


 そのテントを道のわきに置いて、テントの効力を確認する水月。


 要するにアンタッチャブルの作成がテントの本質だ。


 テントを設置したら、設置した人物とその仲間だけテントから半径一キロ以内が非戦闘区域となるとのことだった。


 こちらから攻撃は出来ないし、それは他者に対しても同様だ。


 ただし他者と他者……あるいは他者とモンスターの戦いには影響しない。


 他者にとっては戦闘区域であることに変わりはないとのこと。


 更にモンスターや罰則点数にかかっているプレイヤーにはテントは視認できないという事らしかった。


 それもそうだろう。


 テントで安全を保つと言っても所詮その場にいれば安全というだけだ。


 テントの周りを悪意あるプレイヤーに囲まれてしまったのなら意味はない。


 そういう意味では妥当な能力である。


「要するに安全ってことか」


 納得する水月。


 そしてテントを張った後、道の両脇に鬱蒼と生い茂る森の中に……とは言ってもテントの半径一キロ以内ではあるが……入って枯れ枝を集める水月だった。


 そして拾った多数の枯れ枝をテントから少し離れたところに積み上げて、チュートリアルで説明された誰でも使える攻撃のためではない簡素な魔法……ファイヤーを使って枯れ枝に火をつける。


 パチパチと火花を弾けさせながら枯れ枝に火がつく。


 それからさるぼぼ肉と最初からアイテム欄にあった串とをポップして、串にさるぼぼ肉を突き刺して火で炙る水月。


「いやぁ。まさかさるぼぼ人形を食う日が来るとはなぁ……」


 皮肉は星空へと撹拌して消えていく。


 さるぼぼ肉が焼けた頃には日は沈み月が昇っていた。


「廻り逢いて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな……なんてな」


 くつくつと水月は笑う。


 それから水月は焼けたさるぼぼ肉を丸かじりした。


 クシャと焼けた皮が弾け中から肉汁が溢れだす。


「鶏肉に近いな」


 それが水月の素直な感想だった。


「まぁ……この世界が準拠世界である以上、食べることのできないモノをアイテムにするわけもないか」


 至極真っ当な理論である。


 そして水月はさるぼぼ肉を食べ終えて腹を満たすとテントの中にもぞもぞと入っていって、それから、


「おやすみなさい」


 とテントの中にあった寝袋に入り込んで寝るのだった。

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