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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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ゲームの世界へ09

 次の日の昼。


「くあ……」


 と欠伸をして水月は起きる。


 目をしばしばとさせて閉じては開き開いては閉じ。


 ガシガシと後頭部を掻いてもう一度欠伸。


「ん。朝……」


 朝では既になかったがつっこむ者はこの世界にはいない。


「…………」


 しばし沈黙した後、


「おお」


 と水月は納得した。


「そういやここは準拠世界だったな……」


 正確にはザ・ワールド・イズ・マイ・ソングの世界である。


 水月は、


「メニュー」


 と口にしてメニューのイメージコンソールを呼び出す。


 それからコンソールの上で指を滑らせながらベッドから脱出して立ち上がる。


 メニューから装備の欄を呼び出して寝巻から麻の服に変更すると、コスト0の剣とコスト0の皮の鎧を装備する。


「冒険者様……起きられましたか」


 宿屋の店主はニコニコと愛想笑いを浮かべる。


 そんな店主の誘いのもとで水月は朝食ならぬ昼食を食べると、宿屋からチェックアウトして外に出る。


 太陽は天頂に上っていた。


 真昼である。


「さて……」


 と水月は呟き、


「じゃ冒険するか」


 と意識を引き締めた。


 腰の左に帯剣して、皮の鎧で防御力を高め、水月は完全武装で村の外……つまり戦闘区域に出るのだった。


 ポカポカと暖かい陽気だった。


 しばらくは村から続く整備された道を歩き続ける。


 開拓された道なのだろう。


 道の両側には森がうっそうと広がっていた。


 世界そのものがゲームなのだからこんな道はどこにでもあるのだろうが。


 しばらく歩いていると、水月の視界に何かが飛び込んできた。


「?」


 一瞬ソレが何かわからない水月。


 それから……、


「さるぼぼ人形?」


 と答えを導き出す。


 正解だった。


 日本のお土産として有名なさるぼぼ人形が水月の視界の中でピョンピョンと跳ねるように動き回っていた。


 そして目など無いくせに水月に顔を向けると、


「っ!」


 水月が警戒するのも無理はなかろう……のっぺらぼうの顔から三日月の形をした切れ目の口を開く。


 口にはびっしりと牙が生えそろっていた。


「子どもが泣きそうな情景だこと……」


 そんなことを口にしながら、しかしてしっかりと水月は状況を判断していた。


 さるぼぼ人形の頭上には「さるぼぼ人形」とネームが表示され、ヒットポイントバーも同時に表示されていた。


 つまりモンスターなのだろうと水月は察する。


 そして、


「キシャアアアッ!」


 と牙の生えそろったアギトを開いてさるぼぼ人形が襲い掛かってきた。


 スピードは野生の獣同等。


 しかして悲しいかな、


「…………」


 その程度では水月にとっては問題にならない。


 水月は左の腰に帯剣している片手剣を居合の要領で抜き……振った。


 それはさるぼぼ人形の首を捉えて切り裂いた。


 正確に。


 現実ならそれだけで決着がついたはずだ。


 何せ首を斬られたのだから。


 しかしてさるぼぼ人形はヒットポイントバーを四割減らしてノックバックしただけで事なきを得た。


「は?」


 と疑問を覚える水月。


 当然ではある。


 首を斬られて生きていられる生物などいない。


 少なくとも現実世界には。


 そこまで思考した後、


「ああ、なるほど」


 と水月は理解した。


 要するにアクションゲームと同じなのだと。


 アクションゲームでは敵キャラはどんな攻撃を何処に受けようとヒットポイントを減らすだけ傷など負わない。


 部位欠損どころか傷の一つすら残さない。


 ただ、


「ダメージを受けた」


 という名目でヒットポイントを減らすだけである。


 そしてマッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームを模したこの世界では現実世界とゲーム世界の折衷案としてヒットポイント制を採用しているのだ。


 ダメージを受けてもヒットポイントという名の数字が減るだけで攻撃そのものは直接的に作用したりはしない。


 そこまで理解した後、水月は襲い掛かってくるさるぼぼ人形に剣を振るう。


 するとさるぼぼ人形は表示されたヒットポイントを減らして、しかして不屈の闘志で水月に襲い掛かる。


 その攻撃を躱して水月はさるぼぼ人形を倒すのだった。


 さるぼぼ人形を倒した後、水月の聴覚にだけファンファーレが鳴った。


 コンソールが視界に浮かぶ。


 レベルが上がったのだ。


 1から2へと。


 そして水月はステータスポイントを五つだけ得るのだった。


「メニュー」


 と呟いてメニューのコンソールを開く水月。


 そしてルールの項目を開いてステータスポイントの詳細について調べる。


 要するに直接攻撃力に直接防御力に魔法攻撃力に魔法防御力のどれかにポイントを割り振って強化することが出来るらしい。


 さらに言えばポイントの割り振りは流動的で一度割り振ったポイントを無かったことにして別のステータスに再配布することも可能ということだ。


 例えば直接攻撃力にステータスポイントを割り振った後、


「直接防御力が欲しい」


 と思えば、直接攻撃力に割り振ったポイントの一部を減らして直接防御力にまわす……ということも可能なのである。


「なるほどね」


 と水月は納得する。


 これなら臨機応変に条件を変えることが出来るためだ。


 とりあえず後での変更が利くと知った水月は直接攻撃力にステータスポイントを全部振るのだった。


 それから更に戦闘状況についてメニューコンソールのルールの欄で調べる水月。


 モンスターは名前やヒットポイントが表示され攻撃を受けるとノックバックを発生させるが、プレイヤーについてはそうではないらしい。


 プレイヤーは名前の提示を持ってその名を知り、ヒットポイントは基本的には表示されないとのことだった。


 それはレベルやステータスも同様。


 さらに言えばノックバックもあり得ない。


 つまり自己申告が無い限りプレイヤー同士は戦力の有無を確認できず、ノックバックも無いとのことだ。


「よく考えられてるなぁ」


 それが水月の率直な感想だった。

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