ゲームの世界へ07
「へぇ」
と水月は感心した。
なにせ真っ白な世界から牧歌的な村に転移したのだ。
そして水月の着用している着物も変わっていた。
水月はさっきまでの私服ではなく、麻の服に皮の鎧を着こんでおり、何の変哲もない片手剣を腰にさしているのだった。
冒険者。
そう呼んで差し支えない格好である。
そしてチュートリアルに従って、
「メニュー」
と言葉を発してメニュー……イメージコンソールを開く。
自身のステータスと装備と金銭とを確認して、
「ま、こんなもんか」
納得するとイメージコンソールを閉じる。
「さて……」
と自身に言い聞かせるように呟き、
「とりあえず情報収集だな」
行動を決定する。
村は決して大きくはなかった。
あるのは宿屋と道具屋……後は民家だ。
「そういえば……」
と確認するように独りごちる水月。
だいたい冒険者というのはRPGの性質上、勝手に民家に上り込んで箪笥やら壺やらを調べてまわってアイテムを手に入れる。
それを水月は思ったのだ。
が、ここが高度な現実感を持ったゲーム世界である以上短慮は慎むべきだろうと自粛し、水月は道具屋へと向かった。
道具屋の扉を開けると同時にカランカランと玄関ベルの音が鳴り、
「いらっしゃいませ」
と声が聞こえてきた。
小さな民家を店向きに改装した結果とでもいうべき小さな店内だった。
「なにかご入り用でしょうか?」
店主だろう。
若い女性がニコニコとこちらに微笑んでいた。
「あ、ども」
玄関に立ったままペコリと水月はお辞儀する。
「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ? さあさあどうぞ中へ」
「うっす……」
答えて水月は店内に入る。
「簡略な装備ですね。初心者ですか? それとも釣りですか?」
「釣り?」
「なんでもありません。ともあれこんな小さな村なのであまり品ぞろえはよくありませんがゆっくり見ていってください」
「見るも何も商品はどこ?」
簡素な店内には商品の一つも並べられていなかった。
代わりに店主がポツリと言った、
「メニュー共有」
と。
次の瞬間、水月の視界にイメージコンソールが生まれ、それはアイテム名の羅列を表示した。
「あ、なるほど」
商品が見当たらないわけだ、と水月は理解する。
要するに道具屋特有のイメージコンソールを表示されて、それを指で操作して取捨選択……つまり選んで購入するのだ。
薬草や毒消し草、生肉やテントなどが売っていた。
「なんでしたら座ってどうぞ」
と女性の店主が着席を勧めてくる。
店内は狭いながらもテーブル席が三つあった。
その内の一つに水月は座って、道具屋のイメージコンソールをスクロールする。
コンソールの端っこには自身の手持ち資金が表示される。
一万ケトル。
ケトルというのがこの世界での金銭の単位だった。
ちなみに薬草が五十ケトル。
テントが二百ケトルとなっている。
「あー、店主さん」
と水月が言う。
「何でしょう?」
と店主が答える。
「テントって何?」
「仮設住居のことですが……」
テンプレートな答えを返される。
「どういう意味がある」
「非戦闘区域を仮設する能力を持ちます」
「非戦闘区域?」
「詳しくはメニューから調べてください」
「そうするよ」
そして水月は、
「メニュー」
と自身のイメージコンソールを呼び出す。
そしてコンソールに触れて指を滑らせると「ルール」の項目を開く。
戦闘区域と非戦闘区域について調べる。
要するに街や町や村などが非戦闘区域で、外に出れば戦闘区域という事らしい。
非戦闘区域では他者が他者に……この場合モンスターやプレイヤーの区別なく……ダメージを与えることが出来ない。
逆に戦闘区域ではモンスターだろうと他のプレイヤーだろうとダメージを与えることが出来るとのことだった。
そしてテントは消費アイテムで、使うとそこがどんな戦闘区域だろうとテントの中は非戦闘区域となる。
要するに街や村に辿り着けず野宿をするときに使われる安全装置だ。
さらに留意すべきは……一部のダンジョンや戦闘区域では使うことが出来ないという点である。
「でもまぁこの辺りでは使えないってことはないから大丈夫ですよ」
店主はそう保障する。
水月は薬草を二十個とテントを五つ購入するのだった。
計二千ケトル。
そして自身と道具屋のコンソールを閉じる。
「お買い上げありがとうございます」
道具屋の店主がペコリと頭を下げた。




