ゲームの世界へ03
「しかしいい天気だな」
「…………」
「真理はどうしているだろうな」
「…………」
「こんど私とデートしないか」
「…………」
「――EvangelOf――」
「…………」
「…………」
「…………」
結局それ以上会話の進展もなくエレベータは七十三階へとついた。
エレベータの扉が開くと同時に水月たちの足場は会議室へと直結する。
そこには円卓があり、老齢の人物……シンメトリカルツイントライアングルを上座に、イクスカレッジの中枢が集まっていた。
部屋の壁の位置に四人の従者。
「呼び立ててしまって恐縮です役先生」
「だったら呼ぶんじゃねーよ」
水月は小指で耳をほじりながら皮肉った。
「ケイオスを動員するほどのことか?」
「役先生にコールが通じませんでしたもので」
「故意に無視していることくらいわかるだろ」
「であるからローレンツ先生に頼んだのです」
「はん」
それ以上の会話を不毛と悟って水月は円卓の下座に落ち着いた。
隣にケイオスが座る。
「で? 何の用だ?」
机に頬杖をついて水月。
「役先生にお願いが……」
「命令という名のな」
皮肉る水月にシンメトリカルツイントライアングルは怯まなかった。
パチンと指を鳴らすと壁際に立っていた従者の一人が水月に近付き、そしてソフトを水月に提示した。
そしてまた壁際へと戻っていく。
ケイオスの興味深げな視線を無視して、従者の置いていったソフトを手に取ってしげしげと見つめる水月。
「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング……」
ソフトにプリントされた名前を呼んでみせる水月だった。
「その世界は私の歌……か」
「はい」
とシンメトリカルツイントライアングルが首肯する。
「プレキューのゲームソフトだな」
プレキューとは正式名称をプレイキューブと言い、いわゆる一つの据え置きテレビゲームの本体を指す。
オレンジ社の出したテレビゲームの機器である。
水月はソフトの入っている薄いプラスチック製の箱をクルクルと指先で器用に回しながら如何を問う。
「で?」
クルクルとソフトの入った箱が水月の指先で綺麗かつ静謐に回ってジャイロ効果で安定している。
「このゲームソフト……ザ・ワールド・イズ・マイ・ソングがどうかしたのか?」
「役先生にはそのゲームをプレイしていただきたい」
「は?」
水月がポカンとしたのも決して不条理ではなかったろう。
イクスカレッジ……エキストラ・リベラル・アーツ・カレッジの政を一手に引き受けるセントラルタワーでする話ではなかったからだ。
「なめてんのか?」
水月の発言は至極もっともだった。
「いけませんか?」
シンメトリカルツイントライアングルも飄々としている。
「…………」
水月は沈黙する。
この会議室に集まった中枢が……いったいどんな考えを持っているのかがわからないからである。
「あっち側のシンメトリカルツイントライアングルの意向はどうなんだ?」
当然の質問。
「無論そちらからの指示です」
もっともな回答。
「…………」
再度水月は沈黙した。
ゲームソフトを手に取って、
「このゲームをやれ……と?」
またしても当然な質問。
「はい」
またしてももっともな回答。
「理由……聞かせてもらえるよな」
「その……」
とシンメトリカルツイントライアングルは口を開く。
「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソングはマジックアイテムです」
それは突拍子もない言葉だった。
「は?」
と怪訝な顔をしたのは水月ではなくケイオスだ。
碧眼に戸惑いを乗せていた。
「何て言いました?」
「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソングはマジックアイテムです」
「…………」
沈黙するケイオス。
代替として水月が問うた。
「マジックアイテムとしての分類は?」
「アークコネクタです」
つまりアークに強烈に接続されたアイテムということだ。
「へえ」
とどこまでも冷淡に水月。
「どういう効果を得られる?」
「ゲームの世界……この場合はザ・ワールド・イズ・マイ・ソングの中ですが……その中に引きずり込まれるマジックアイテムです」
「…………」
三度沈黙する水月。
しげしげとゲームソフトを見つめ、
「このゲームが……ねえ……」
そうとだけ呟くのだった。




