プロローグ03
まぁ火は水に弱い。
当然といえば当然の理屈だ。
水とは要するに水素が酸化することで生まれる物質である。
つまり水という存在は燃え尽きた産物に他ならない。
故に水は燃えることが無いのだ。
それを以てクトゥグア……たしかクトゥルー神話の神だ……の眷属をやっつけたのだろう。
あっけにとられる俺にリリーが問い詰める。
「なんで変態は結界の中に入ってきたんですか!」
「その変態っての止めない? 俺には役水月って名前があるぞ」
「では水月!」
「なんだリリー?」
「なんで結界に入ってきたのです!」
「意図したわけじゃない。ただ数学の教科書を回収しにきただけだ」
「では意図せず結界に紛れ込んだと?」
「その結界とやらはわからんがそうみたいだな」
俺は肩をすくめた。
次の瞬間、赤く輝いていた月が正常な黄と金の間の色に成り替わる。
おそらく結界とやらが消えたのだろう。
グラウンドには俺とリリーがいるだけだった。
「色々説明してもらうぞ」
俺がそう言うと、
「ええ、まぁ、納得できる範囲では」
苦々しくリリーは肯定するのだった。
そして俺とリリーは俺の家へと上がり込んだ。
数学の教科書?
回収を諦めたよ。
後日数学教師に嫌味を言われてもこの際しょうがないだろう。
そして俺は問う。
「アレは何だったんだ?」
「地球の旧支配者……クトゥグアの眷属で火鬼と呼ばれる存在よ」
「お前は?」
「地球の現支配者……ヤハウェの眷属でいわゆる天使と呼ばれる存在よ。ヤハウェの眷属のガブリエルの……そのさらに眷属だけど」
クトゥグアに続きヤハウェときたか……。
うんざりする俺。
「つまりヤハウェ……現支配者とクトゥグア等の旧支配者が地球の所有権を争って……その上で下位の存在が代理戦争をしていると?」
「よくわかったわね」
感服したようにリリー。
「まぁヒントはいくつかあったしな」
俺は嘆息する。
「で、なんで俺を巻き込む?」
「知らないわよ。結界に紛れ込む一般人なんて信じられないし」
ですよねー。
それから俺はリリーから根掘り葉掘り聞いた。
どうやら現支配者であるヤハウェと旧支配者であるクトゥルー神話の神々が地球上のいたるところで代理戦争を行なっているとかいないとか。
そして極東の国……日本にクトゥグアが魔の手を伸ばし、それをヤハウェ側が阻止するためにリリーを送り込んだのどうのこうの。
「へ~」
と俺は無気力に納得するのだった。
問題が一つあった。
今日……時刻的に正確には昨日なのだが……派遣されたばかりのリリーは住まう家が無いらしい。
学園への手続きで精一杯だったようだ。
「だったらここに住めよ。どうせ親居ないし」
「変態……水月の家に住めって?」
「なら野宿するのか?」
「むぅ」
反論の余地はなさそうだった。
そして俺はなし崩しに現支配者ヤハウェと旧支配者クトゥグアの代理戦争に巻き込まれることになったのだった。
日本を乗っ取らんとしているクトゥグアの刺客に俺は立ち向かう。
しかして無謀ではなかった。
俺には俺の特殊能力がある。
超感覚がそれだ。
第六感まで含めた感覚と言う感覚を調整、増幅できる能力だ。
不意打ちの対応から遠視まで何でもござれな能力である。
というわけで囮としては最適だったのだ。
そんなこんなで俺とリリーは聖ゲオルギウス学園に住まうクトゥグアの刺客をやっつけてまわった。
その戦いで得たモノもあった。
リリーとの絆だ。
リリーは初めて会ったころに比べるといくらかしおらしくなった。
率直に言って可愛い。
最初の内は威風堂々と我が家に居座っていたのだが、最近では互いにリモコンを取ろうとして手が重なると真っ赤になるほどだ。
これがツンデレというモノなのか。
ヤハウェも粋な代理人をよこしたものである。
そんなこんなで友人以上恋人未満な生活を続ける俺たちだったがクトゥグアがそれを待ってくれるわけもなかった。
毎度毎度のことになったがクトゥグアの眷属が聖ゲオルギウス学園に派遣されて「さあ戦うぞ」となった時、俺は人質となった。
人質となった俺を気にして戦えるリリーではなかった。
だが此度のクトゥグアの眷属……サラマンダーは強力だった。
人類への憎悪を炎とし、全てを焼き尽くす。
水を操るガブリエルの象徴たるリリーも自身を守ることで精一杯だった。
結局俺は全身を焼かれながらその身を犠牲にしてサラマンダーの隙を作った。
そしてリリーが水の剣でサラマンダーを屠るのだった。
「やったな」
全身に重度の火傷を負いながら俺はニヤリとリリーに笑ってみせた。
「ああ、水月……水月……!」
ボロボロとリリーは涙を流す。
嬉しいねぇ。
こんな俺のために美少女が涙を流してくれる。
これ以上の幸福が何処にある?
しかしてリリーは俺を諦める気が無かった。
重度の火傷故に致命傷だった俺の前でリリーは服を脱ぎ始める。
「大丈夫。水月を死なせたりはしないわ」
リリーはキッパリと言った。
何をするつもりだ、という言葉さえ俺は紡げなかった。
「私は天使。エーテル体の塊。それは無限の可能性。それを水月の治癒能力に変換する」
待て、それじゃあ。
「そう。私と水月を交合して私は水月を救う。性的干渉を以て水月を救う」
そう言ってリリーは焼身した俺の傍で全裸になった。
そして俺とリリーは……。
ブツン。
カヒューン……。




