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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング
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プロローグ02

「ははは。仲がいいな。じゃあカナンの席は水月の後ろだな」


 そう言って担任は俺の後ろをリリーの席にした。


 俺は窓際最後方の席だ。


 その後ろと言うのだから横の列からあぶれた席になる。


「なんで私が変態なんかと……」


 ぶつぶつと言いながらリリーは俺の後ろを陣取った。


 俺にしてみれば灼熱の視線を背中で感じ始める今日この頃。


 授業に集中出来やしない。


 リリーは転校早々クラスの人気者だ。


 特に男子にとって。


 何処から来たのだとか趣味が何だとか、根掘り葉掘りと聞かれた。


 リリーのひとつ前の席にいるため嫌でも会話は耳に入る。


 ただし会話に加わったりはしない。


 どう考えてもリリーは俺を嫌悪している。


 ならば不干渉が一番だろう。


 そういうことで俺は憎々しげ視線を背中で受け止めながら授業にも集中を欠いて散々な一日を過ごすのだった。


 夜になる。


 俺は一人暮らしの身だから家事は自分でするタイプだ。


 そしてそのあらかたを終える。


 寝る前に宿題をするのが俺の日課だ。


 今日は数学と英語と現国から出ている。


 しかして数学の教科書が見当たらなかった。


 学生鞄の中にも無い。


「あちゃー、学校に忘れてきたか……」


 そう独りごちてガシガシと後頭部を掻く。


 数学の教師はねちっこい説教で有名なので宿題を忘れたらまたねちねちと嫌味を言われるだろう。


「しょうがない。学校に取りに行くか」


 警備員に話を通せば入れてくれるだろう。


 そう思って俺は夜の学校へと向かった。


 私立聖ゲオルギウス学園はマンモス校だが夜になると消灯が行き届いて不気味な威圧感がある。


 それに圧倒されながら俺は学校の正門に近付く。


 正門の前に立つと同時に「ズブリ」とまるで泥濘に浸ったような違和感が俺を襲ったが俺は気にも留めなかった。


 正門は開いていた。


 正直警備員に話を持ちかけようと思ったが、正門のすぐ傍にある警備員の監視所には誰もいなかった。


「まぁ学内の警備をしてるんだろうな」


 と勝手に完結して俺は正門を潜る。


 図らずも校舎に侵入する形になってしまうが、まぁ説明すれば納得してもらえるだろう。


 そんな気楽な感じで校内に入った俺は、爆発音を耳に捉えた。


「なんだ……?」


 聴覚の精度を広げる。


 俺の位置からは校舎に隠れているが、少女と怪物が戦っているのは《見て取れた》。


 思わず俺は数学の教科書の回収など忘れてグラウンドを見渡せるような位置につく。


 月が赤かった。


 その不気味なまでの赤い月の下で一人の少女と一体の怪物が戦っていた。


 少女の名はリリー。


 黒ポニテの美少女だ。


 怪物の方は鬼だ。


 赤色の筋肉むき出しの肉体に、牙と角とが顔から飛び出ている。


 そして鬼は炎を纏っていた。


 赤鬼。


 そう呼んで差し支えない姿だった。


 リリーは水で出来た剣を持って赤鬼に切りかかる。


 しかして赤鬼も大したもので、その斬撃を避けながらリリー目掛けて炎を繰り出す。


 水の盾が赤鬼の炎からリリーを守る。


 非常識と非常識の対決だった。


 リリーは水を操っているし赤鬼は炎を操っている。


 そんなものの何処に現実感があるというのか。


 呆然とする俺の存在に赤鬼が気付いた。


「グルァッ!」


 と吼えて赤鬼は俺に炎を投げかける。


 それを、


「ちぃ!」


 と舌打ちしたリリーが庇う。


 俺の傍に寄って水の盾を展開する。


「なんで!」


 リリーは悲痛に叫んだ。


「なんで変態が此処にいるの!」


 その答えには窮して、様々なことを考えた後、俺は言った。


「いや、数学の教科書を回収しようかと」


「そんな馬鹿な理由で結界に潜り込んだの!?」


「結界って何ぞ?」


「旧支配者が展開する異世界のことよ!」


「…………」


 意味がわからず沈黙する俺。


 しかして赤鬼は容赦なかった。


 そのアギトを大きく開き火炎放射を吐き出す。


 それを水の盾で防ぐリリー。


「ええと……」


 俺は困惑する。


「これは夢か?」


「現実よ!」


 いっそ快活にリリーは答える。


「しかしリリーもあの赤鬼も常軌を逸してるんだが……」


「そりゃ旧支配者クトゥグアの眷属たる火鬼だからね!」


「火鬼?」


「私たち現支配者と対立する神の眷属よ!」


 意味がわからないんですが……。


 ポカンとする俺を放っておいて、


「ああもう……!」


 じれったくリリーは叫んだ後、


「ガブリエルの名において命ず! ウォーターカッター!」


 呪文めいた言葉を口にする。


 次の瞬間、リリーの持っていた水の剣が突出するように伸びると火鬼を切り裂いた。

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