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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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死と不死14

 そして、


「貫抜」


 京八流の三抜手の一つたる貫抜を敢行する。


 それは刺突というより空手の正拳突きに近かった。


 剣を握った状態での正拳突き。


 貫抜は片手で行うということもあって通常の刺突よりもさらに制圏を長くとれる。


「ちぃ……!」


 舌打ちして水月の刺突を切り払う椿。


「――現世に示現せよ。迦楼羅焔――」


 魔術の出力。


 今度は炎弾ではない神鳥ガルーダを象った熱の塊がビルとビルの間を羽ばたいた。


 そのあまりに巨大な熱量と光は椿の視界から水月を消し去った。


 迦楼羅焔が椿の聖術で殺された瞬間、


「縮地……」


 水月が神速で椿に間合いを詰めてきた。


「溜抜」


 いつのまにか水月の大通連は鞘に納まっていた。


「居合……!」


 驚愕する椿に、


「正解」


 水月はそう答えて抜刀術を放つ。


 神速の踏込から神速の抜刀。


 音の世界すら置き去りにする京八流の三抜手の一つたる溜抜だ。


 対して椿は刀を両手で持って水平に振り、正確に大通連の斬撃に真正面で応えた。


 片や神速とはいえ片手の居合。


 片や速度が同じ両手の斬撃。


 勝敗は明らかだった。


「……っ!」


 水月の溜抜は防がれて、大通連はその手から弾かれる。


「――現世に示現せよ――」


 水月は魔力の入力の呪文を唱えながら後退する。


「――千引之岩――」


 自身と椿の間に魔術障壁を張って、さらにバックステップ。


 しかして椿はビルの側面を蹴って千引之岩を飛び越えると水月の頭上をとった。


「さよなら役の……」


 そう言って髭切を振ろうとした椿だったが、


「飛び来やれ。大通連」


 その水月の一言に、


「っ!」


 自身の背後に意識をやった。


 水月の手から離れたはずの大通連は超音速で水月の手元へと向かって飛んだ。


 その途中にある椿の肉体をものともせず。


「そういうことね……」


 椿は飛び襲いくる大通連を髭切で弾いて水月から距離を取る。


 水月は自分の手元に戻ってきた大通連を構えて、


「残念無念」


 ニヤリと笑った。


「そういえば大通連は持ち主の望むとおりに飛ぶんだったね……。まんまといっぱいくわされた……」


「これで決められると思ったんだがなぁ。京八流の表の三抜手たる振抜、溜抜、貫抜……全ていなされるとは、な。久しぶりだ。剣で熱くなるのは」


「それはこっちのセリフ。久しぶりに僕と拮抗する剣士に会えて嬉しい限りだよ」


「楽しいな」


「楽しいね」


 微笑みあう水月と椿。


「力も速度も拮抗……」


「跳躍力もほぼ互角……」


「そっちは斬殺の聖術を持つ」


「そっちは多彩な魔術を持つ」


「さて、どうする?」


「こうする」


 椿は水月の無構えを真似て構えた。


「無構えは基本的に後手の構えだ。二人ともそれじゃあ勝負はつかんのだが……」


「なら先に仕掛けてきていいよ?」


「そうさせてもらう」


 水月は正拳突きの構えをとると、


「飛べ。大通連」


 突きの状態で大通連を手放した。


 大通連は一直線に椿目掛けて飛んだ。


 しかして椿は……こちらも正拳突きの構えをとって貫抜を繰り出す。


 大通連と髭切の剣先がぶつかり合って大通連が弾かれる。


 水月は構わず椿へと間合いを詰めながら、


「戻れ。大通連」


 そう大通連に命令した。


 一瞬で水月の手元へと戻る大通連。


 そして大上段からの唐竹を放つ水月。


 対して椿も大上段からの唐竹を放つ。


 全く同義の斬撃はぶつかり合い、弾かれあう。


 体勢を整えたのは水月と椿が同時。


「……ふっ!」


 と呼吸を溜めて袈裟切りを放つ水月に、椿もまた袈裟切りを放つ。


 またしても弾かれあう大通連と髭切。


 水月は椿から距離を取って呆然と呟いた。


「お前……その技は……」


「渡辺流の奥義……神鏡だよ?」


「こちらと寸分違わぬ剣閃でもって相手の剣を封ずる技か……」


「御名答……」


 そう答えてまたしても無構えに構える椿。


 それは水月の構えと同一だった。


「こうして敵と同じ構えをとるとね……次に敵がどんな太刀を放ってくるかが読めるんだ。勝ちはあっても負けは無い。それが神鏡だよ」


 そう説明してくつくつと笑う椿。


 対して水月は不敵な笑みを浮かべた。


「なら俺の勝ちだな」


「何を根拠に……」


「――現世に示現せよ――」


 魔力の入力。


「――千引之岩――」


 魔力の演算。


 そして出力。


 椿の後方と頭上に魔術障壁が作られる。


 真横にはビルの側面の壁。


 つまり椿は前方にしか身を移せなくなったのだ。


 水月は左手で大通連を握って正拳突きの構えをとる。


 貫抜だ。


 対して椿も髭切を正拳突きの構えで対応する。


「……っ!」


 水月の刺突と、


「……っ!」


 椿の刺突は、互いにぶつかり合い拮抗する。


 次の瞬間、水月は柄頭に右の拳をそっと当てる。


「っ?」


 そんな水月の奇矯な行動に疑問を覚えたような表情をする椿。


 そして水月は、


「――金波羅華――」


 と寸勁の魔術を出力する。


 呪文という魔力の入力、寸勁という魔力の演算。


 両方を同時並行することで発動した魔術は、人体には到底出せようはずもない……砲撃にも似た単純な破壊エネルギーを大通連に伝えた。


 三十ミリの砲撃と同義の衝撃は大通連を加速させ、髭切を完全に粉砕し、椿の左腕を貫いて肉塊に変え、椿の背後にある千引之岩にぶつかって止まった。


 さすがにマンアークインタフェースということもあってか……大通連には傷一つついていない。


 水月は、


「あれ? 心臓狙ったつもりなんだがなぁ……さすがに久し振りだと勘が鈍るか……」


 とぼけたようにそう言った。


「が……はぁ……!」


 砲撃の衝撃をもった刀によって貫通されて原形もとどめていない左腕を押さえながら椿は呻く。


「戻れ、大通連」


 金波羅華によって飛んでいった大通連を回収する水月。


「な、な、何なの……それ……!」


 椿の驚愕に水月は付き合った。


「京八流の裏の三抜手が一つ……閂抜。突きを放った後、刀の柄頭に寸勁を放って《突きの追撃》を放つ奥義だ。御覧の通り……威力は折り紙つき。例え盾をもってしても防ぎようのない正に奥義だな」


「無茶苦茶だよ……」


「まぁ否定はしない」


 正直な水月だった。


「じゃ、俺はもう帰るわ」


「……僕を殺さないの?」


「今のお前の無様を見たら八割がたスッキリしたから別にいい。それにお前を殺したからって真理がどうなるってわけでもねぇしな。何よりもうすぐ深夜アニメの放送時間だから俺は早く帰りたい……」


「変な人……」


「先日言っただろ? 大切な人が死ぬのはエンターテイメントだって」


「そうだね。そう言ってた……」


 血まみれの左腕の付け根を押さえながら苦笑する椿。


 水月はというと諭すようにこう言った。


「渡辺の……お前もさ、無差別に人殺すんじゃなくてまずは大切な人を見つけろよ。そいつがいるだけで幸せになって、そいつには絶対死んでほしくない……そんな奴を見つけてさ、その大切さが感極まった時にそいつを殺してみろ。今までの無差別な殺人とは別の景色が見えるはずだぜ」


「……大切な人」


「そ」


 簡潔に頷いて水月は大通連とその鞘を椿に向かって放り投げる。


「これは……?」


「お前の髭切影打は砕けたんだ。俺の大通連を貸しといてやる。どうせそいつは何処に置いてようと誰が持ってようと俺が呼べば飛んでくるんだ。放置しとくより使ってくれる奴がいるならそっちの方がいいだろさ」


「本当に変な人だね。僕は君の大事な人を殺したんだよ?」


「頭に血が昇ってすっかり忘れてたんだよなぁ……。《アンデッドは……死なないからアンデッド》なんだ……」


「え? それってどういう……」


「とまれ、お前の左肩の出血をどうにかせんとな。いい闇医者がいるから紹介してやるよ」


 水月は情報端末を取り出して懇意にしている闇医者へと繋いだ。


 無言でそびえ立つビル群の隙間から月光がさして水月と椿と……それから二つの死体を照らしていた。


 地面には三人分の血だまりがピチャピチャと水月の足元で跳ねる。


 こうして渡辺椿による切り裂きジャック事件は収束したのであった。

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