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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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死と不死12

 泣きそうになる真理の頭を再度撫でながら、水月は言葉を続ける。


「生憎とハーレクインロマンスは苦手でね。なりゆき任せの吊橋効果で頷けるほど素直にできてねーんだ」


「吊橋……効果……?」


「そ。吊橋効果」


 水月は頷く。


「あのな……。追い詰められた状態の人間に情けをかけてつけ入るってのは典型的な洗脳の手段なんだよ。今のお前がまさにそれだろ」


「……っ!」


「都合のいい言葉をかけてもらいたいならホストクラブに行け。悩みを聞いて欲しいならカウンセラーに行け。惚れた腫れたはもうちょっとそいつ……この場合は俺だな……を見極めてからにしてくれや。それからだったら返答に悩んでやるよ」


「つまり……私の慕情は偽物だと……」


「ありていに言えばな」


 水月は容赦なかった。


 真理が泣くかな、と思った水月は、


「ふふ……」


 微笑む真理に意外を覚えた。


「なんで笑うんだよ……」


「だって……水月が優しいから……」


「冷たくしているつもりだがな」


「そうならもっと虚実入り混じった嘘をつくはずですよ……」


「それは逆にお前を口説きたいときだろう?」


「嫌われたくても人は嘘をつきます……」


「…………」


「水月は実直ですね。私に対して……そしておそらく誰もに対して」


「……遠慮が嫌いなだけだ」


 口をへの字に曲げて見苦しく言い訳をする水月だった。


「ありがとう水月……冷静に再考を勧めてくれて……。ありがとう水月……私を大事に思ってくれて……」


「……過大評価だ」


「うん。それでも……ね?」


 真理は降り注ぐ月光のように優しい笑みを浮かべた。


「もう後ろめたい感情は消えたか?」


「水月のおかげで……」


「ならいい。帰るか」


 立ち上がりながらそう提案する水月に、


「はい。水月……」


 立ち上がって水月の腕に抱きつく真理。


 むにゅうと真理のけっして小さくない胸が水月の腕に押しつけられる。


「……真理」


「なんでしょう?」


「神乃マリとしてはスキャンダルだぞ?」


「上っ面しか見ない奴らにはいい薬です」


「こんな一面を持っているなんてなぁ」


 空いている方の手でガシガシと後頭部を掻く水月。


「純粋な彼女が実は腹黒。いい感じですよね?」


「誰に対していい感じなのか知りたいところだな」


 そして二人は夜道を歩き出す。


 宿舎に向かう二人。


 水月は機嫌よく、


「国破れてサンバイザー♪ たけき者も遂にボリビア♪ 夢幻の牛丼特盛り♪ 虚を涵してメカニコング♪ 鐘が鳴るなり堀井雄二♪」


 などと支離滅裂な歌を唄う。


「なんです? その歌……」


「いや、語呂がいいから適当に唄っているだけ」


「さいですか……」


 そんな四方山話をしながら歩き、そして、


「……っ!」


 水月は言葉と歩みを止めた。


「……?」


 真理が首を傾げる。


「水月……どうかしましたか……?」


「血の……匂いだ……」


 そう。


 血の匂い。


 血臭がビルとビルの隙間から漂ってきた。


「切り裂きジャック……!」


 真理が正解を言い当てる。


「渡辺の奴……懲りねぇなぁ」


 うんざりと水月。


「警察に……!」


「止めとけ。被害が増えるだけだ」


「でも……!」


 水月は真理の抱きつきを振り払い、


「とりあえず俺が確認してくるよ」


 そう言った。


「私も行きます……!」


「止めとけよ。死なないにしても痛い思い……したくないだろ……?」


「水月が傷つくよりマシです……!」


「うん。まぁ俺も俺が傷つくよりマシだとは思うが……」


「そういうことは思ってても言わないものなのです……」


 お前にだけは言われたくない……とは言わずに水月は真理を連れてビルとビルの隙間から漂う血臭を追いかける。


 暗いビルの隙間を縫って行くとますます血の匂いは濃厚になっていく。


 そして、辿り着いた先で、


「……っ!」


 真理が絶句した。


 水月は、


「…………」


 平然としていた。


 そこは殺害現場だった。


 一人の被害者と、一人の加害者が、それぞれ存在していた。


 被害者は首から血を噴きだして死んでいた。


 加害者はそれを見下ろしていた。


 黒髪セミロングの着物を纏った美少年だ。


 手には血濡れた日本刀……髭切の影打。


 渡辺椿がそこにいた。


「あ、役の……」


「よう、渡辺の……」


 水月と椿は気さくに互いの名を呼んだ。


「まぁたお前は殺人してんのか……」


「それが僕のレゾンデートルだから……」


「人を殺すことが……か?」


「北斗星君の啓示を受けたんだよ。僕は何物をも殺害する存在だって」


「啓示……」


 水月は考え込むような顔になる。


「役の……」


「なんだ?」


「死んで」


 あっさりとそう請うた椿が神速で水月と真理との間合いを踏み潰した。


 対して水月もまた神速で椿の剣の間合いから遠のく。


 水月は縮地を使ってバックステップをする。


 次の瞬間、一人遅れた時間に取り残された真理に、椿の袈裟切りが肩から腰にかけてを斜めに切り裂いた。


「え……?」


 ポカンとしてそう呟く真理は、そのまま斜め一閃に切り傷を創られ、血を噴きだして……そして……、


「…………」


 死んだ。


 物言わぬ死体となった。


 先の被害者の血だまりに真理自身の血を混ぜて真理は地面に伏した。


 血臭がさらに濃くなる。


 そんな真理を放っておいて、


「……っ!」


 椿が水月へと間合いを詰める……より早く、


「――現世に示現せよ。千引之岩――」


 魔力の入力と出力を行なって、見えない魔術障壁を創りだす水月。


 椿の刺突は千引之岩……透明な壁に防がれて水月を害することはなかった。


 水月は一時の安寧を得ると、血だまりに倒れ伏した真理に声をかける。


「おい真理! とっとと再生しろ! 逃げるぞ!」


 アンデッドたる真理はオルフィレウスエンジンを持つが故に不老不死だ。


 刀に付けられた傷など問題なく快癒する……はずだった。


「…………」


 しかして真理は水月の言葉に答えなかった。


 沈黙を守って地面に伏す真理。


「おい……真理……?」


 死んだ真理に声をかける水月。


「…………」


 しかしてやはり答えない真理。

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