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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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死と不死11

 ラーラの寮部屋を出た水月は、ダアト図書館の周辺にあるベンチの一つに座って真理を待っていた。


 現在の時刻……二十一時。


 月は真円を描いている。


「こぞみてし、秋の月夜は、照らせども、相見し妹は、いや年さかる……か。なぁ、さくら……お前がここにいれば俺はこんなにも空虚ではなかったはずなのにな……」


 水月は月を見上げながら虚空にそう呟いた。


 そんな水月の独り言に、


「空虚なんですか……? 水月は……」


 そんな返事が返ってきた。


「…………」


 沈黙する水月。


 それからベンチに座ったまま後ろを振り返って声の主を見た。


 そこにいたのは茶髪に染めたショートヘアに質素なリボンをつけた日本美人。


 つまり……只野真理。


「よう。もういいのか?」


「まだ若干勇気を必要としますけど……このまま引きずるのも嫌でして……」


「その気持ちはわかる」


 水月は気負わずに言う。


 それから水月自身の座っているベンチの空いているスペースを指して、


「まぁ座れよ」


 そう言った。


「はい……」


 素直に頷いてベンチに座る真理。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 どちらともなく言葉を発することが躊躇われて、五分ほど沈黙が場を支配した。


 太陽ははや沈み、月が昇っている。


 月明かりと照明だけが頼りに暗闇にて、水月と真理だけが闇の収縮から逃れていた。


「…………」


「…………」


 まだ、沈黙。


 それから、


「あの……」


 と先に沈黙を破ったのは真理だった。


「ごめんなさい……」


 と、水月に頭を下げる。


 水月はガシガシと困ったように頭を掻いた。


「謝られてもな……」


「幻滅……しましたよね……?」


「何をだ?」


「私のこと……」


「何か幻滅させるようなことをしたのか?」


 飄々と水月。


「だって……絡み酒なうえに……」


「ファンがウザいだの……俺が気にくわないだの……」


「ごめんなさい……」


「音もせで、思ひに燃ゆる、蛍こそ、鳴く虫よりも、あはれなりけれ……って和歌がある」


「……は?」


 ポカンとする真理。


「ガチャガチャうるさいクツワムシみたいな女より……、慎み深く、かつこんな風に想い煩うお前みたいな女のほうが趣はあるな」


「でも……私は……」


「別に構わんだろ。酒の席でのことなんだから」


「…………」


「それでも重いしがらみ背負えば聖女も悪女も等しく肩がこるもんだ。酒の力で多かれ少なかれこりが抜けるんならそれもいいんじゃねぇの? いくらアイドルだからって引退するまで便意を我慢するわけにもいかねえだろうよ」


 そう言って肩をすくめてみせる水月。


 月光と街灯だけが明かりの中で、真理の瞳が光を反射するのを水月は見た。


「ふえ……ふぇぇぇぇぇ……」


 真理は涙を流しながらおいおいと鳴きはじめた。


「え! そこ泣くの! なして!」


 さすがに狼狽える水月。


 真理はあふれる涙を拭いては流し、流しては拭いた。


「だって……そんなこと言ってくれた人……初めてで……」


「よっぽど人間関係に恵まれなかったんだな……」


「だって……誰もが私を可愛いって……可愛くなくちゃいけないんだって……」


「そんな強迫観念に突き動かされていたのか……」


 水月は真理の苦悩に初めて触れた。


 可愛くあらねばならない。


 綺麗であらねばならない。


 それが真理の枷なのだ。


「馬鹿だよ……お前」


 水月は泣き続ける真理の頭を片腕で覆って頭を撫でる。


「本当に……馬鹿……」


「こんな馬鹿に……付き合わせてしまって……申し訳……ありません……」


「まったくだ」


 水月は否定しなかった。


 真理の頭を撫で続ける。


「お前はもうちょっと正直に生きろ。誰かのためとか……何かのためとか……そんなことじゃなくて……もっと魂の芯にある部分で生きろ」


「でも私は……この生き方を変えられない……。大きな変化は……起こせない……。そんな化け物に……私は成ってしまった……」


「言ったろ? 化け物の具合でならお前より俺の方が上だ。だから……そんなことは……そんな些末事は気に留めるものでもないんだ」


「ふえぇぇぇぇぇぇ……」


 水月の腕の中で泣き続ける真理。


「嘆けとて、月やはものを、思はする、かこち顔なる、わが涙かな……か。まぁ……恋煩いではないだろうが……」


 よしよしと泣く真理の頭を撫でながら真円の月を眺める水月だった。


 それからどれだけの時が経っただろう。


 真理の嗚咽が聞こえなくなった頃、真理が言った。


「ありがとうございます……水月……」


「気にかけることじゃねえよ」


 水月はぶっきらぼうに言った。


「泣いてる女を見てると放っておけないだけだ」


「優しいんですね……」


「いや。美少女限定だ。ブスには見向きもしない」


「それって……」


「…………」


「それって……私は美少女だって……意味ですか……?」


 水月はポリポリと食指で頬を掻いて、


「まぁな……」


 と照れくさそうに言った。


「あんなモノを心に抱えている私をして……水月は……私を綺麗だと言ってくれるのですか……?」


「二度も言わせるな。美少女じゃなきゃこんなに優しくしてやらねえよ」


「あう……」


 目元を赤くして、そして頬も朱くして、真理はどこまでも恥じらいきった。


「水月……水月は優しいですね」


「美少女限定でな」


「それでも……水月は優しいです……」


「あっそ」


 端的にそう言う水月。


 真理は目元と顔とを赤くして、


「あの……水月……」


「何さ?」


「あの……」


 と躊躇うように言葉を紡ぐ。


「だから何さ?」


「あの……水月……!」


「はいはい」


「私は……水月のことが……好きです……!」


 真理は乾坤一擲の告白をした。


「そう」


 対して水月は淡泊だった。


「へ……?」


 と真理はポカンとする。


「あの……私は……水月のことが……好きなんです……」


「あっそ」


 やはり水月はどこまでもそっけない。


「水月を慕っているんです……! 水月を愛しているんです……!」


「何で?」


「何でって……」


 真理は狼狽えながらも、


「だって水月は優しくて……」


 言葉を探し、


「だって水月は格好良くて……」


 思いのたけを、


「だって水月は魅力があって……」


 ぶつける。


「だから私は……水月のことが好きなんです……!」


「あっそ……」


 水月は、


「俺は別に好きじゃない」


 あっさりと真理の慕情を粉砕した。

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