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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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死と不死10

 午後の一切をラーラの寮部屋で過ごした水月は、ラーラの勧めによって同場所でラーラの手作りの夜食を頂戴することになった。


 既に太陽が沈んで久しい時間だ。


「じゃあ明太パスタでいいですね?」


 エプロンを纏いながらそう確認するラーラに、


「ん」


 出された麦茶にガムシロップを混ぜながら頷く水月。


 ラーラは手際よく料理をしながら聞いてくる。


「先輩……麦茶にガムシロップって……」


「お茶と糖分は相性がいいんだぞ。紅茶然り、緑茶然り、麦茶然り」


「ソウデスカー……」


 心のこもらない同意をするラーラ。


 ガムシロップ入りの麦茶をチビチビと飲みながら、そしてラーラが料理をしている後姿を認識しながら、水月はテレビを見ていた。


 番組の間に某化粧品会社のコマーシャルが流れ、


「どうかしたも何もねえ! このCMな! 本当は私が出るはずだったんだよ! ところがだ! CMに起用するにあたって会社の重役と寝ろって話だったんだよ! どう思う! これ! そうだ! 最低だ! 私がネットアイドルってことで足元見たんだろうな! ふざけた話だ全く!」


 そんな真理の言葉を思い起こす水月だった。


 そんな思念を振り払って水月はバラエティ番組をだらだらと見ていると、


「出来ましたよ~」


 とラーラが夜食の明太パスタを皿に盛ってリビングにやってきた。


 わかめスープ付き。


「すまんな」


「謝罪より感謝が欲しいです」


「ありがとう」


「はいな。それじゃあ食べましょうか」


 ニッコリ笑うラーラだった。


 水月はパンと一拍して、


「いただきます」


 ラーラは祈って、


「父よ。あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。ここの用意されたものを祝福しわたしたちの心と体を支える糧としてください。わたしたちの主イエス=キリストによって」


 それぞれ食事にとりかかる。


 水月は明太パスタを一口食べて、


「ふむ。悪くない……」


 そう評する。


「本当ですか!」


 身を乗り出して問うてくるラーラに幾分引きながら、


「ああ、まぁな」


 コクコクと頷く。


「茹で加減も絶妙だし、バターの香りもいい。総じて美味しい」


「ありがとうございます……っ」


 嬉しそうにそう述べるラーラだった。


「今後は先輩の宿舎に通って真理に日本料理を習うつもりなんですけど……まぁ今はイタリア料理の基本たるパスタで我慢してくださいね」


「別に我慢って程でもないがな」


 屈託なく言う水月。


 事実美味しく夜食を頂いて、それから茶を飲みながらまたまったりしていると、水月の情報端末が『春の喜びに』を唄いだす。


 端末を見て、


「…………」


 真理のモノと認識すると、通話を許可して、


「もしもし」


 と感動詞を紡ぐ。


「あの……水月……ですか……?」


 遠慮がちな声は確かに真理のモノだった。


「そうだが」


「あの……会って……話を……しませんか……?」


「それは構わんが……。もう大丈夫か?」


「もしかして……意図して……距離を……とってくれたんですか……?」


「会わせる顔が無いかと思ってな」


「…………」


「逆に迷惑だったか?」


「そんなこと……! ありません……」


「…………」


「むしろ……気遣ってくださって……ありがとうございます……」


「別に感謝されるほどのことでもねえよ。俺が自分で判断してしたことだ。責任の所在も感情の行く先も全て俺のモノだ」


「ですから……ありがとう……ございます……」


「で、会うなら何処にする? お前、家にいるよな?」


「はい……」


「ならダアト図書館集合にしよう。それでいいな?」


「はい……。構いません……」


「じゃ、そういうことで」


 そしてプツリと通話を切る水月。


 水月にお茶のおかわりを注ぎながらラーラが問うてくる。


「真理からですか?」


「そ」


 水月は茶を飲みながら頷く。


「喧嘩でもしたんですか?」


「喧嘩じゃねえよ」


「じゃあ行き違いとか……?」


「何が違うんだ」


「じゃあ何です?」


「真理の痴態を見た」


「……っ!」


 ラーラは絶句した。


 そして、


「ずるい! 真理はずるい! 私だって先輩に痴態を見せたい!」


「俺はふしだらな女は嫌いだ。事実だからこそ真理と距離を取ったんだろうが」


「じゃあどんな女性が好みなんです?」


「前にも言っただろうが。慎み深くて一途な大和撫子だ」


「私は慎み深くて一途ですよ? 大和撫子じゃありませんが……」


「お前なぁ……」


 なんであれだけ俺に拒絶されといてそこまで俺に入れ込むんだよ……とは水月は言えなかった。


 傷ついているはずなのだ。


 気楽に笑ってはいるがラーラだって堪えないはずがないのだ。


 だから水月は……、


「はぁ……」


 と溜め息をつくにとどめた。


「なんです。その溜め息は」


「なんでもねえよ。それよりラーラ……この番組なんだが……」


 と水月はテレビを指差した。


 水月の指に誘導されてテレビの方を向くラーラ。


 そんなラーラの頬に水月は不意打ちで口づけをした。


 チュッと……一つ。


「…………」


「…………」


 ラーラの寮部屋を沈黙が蹂躙した。


 一秒。


 二秒。


 三秒。


 そして、


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


 ラーラが混乱した。


「な、ななな、ななななな……!」


 なを連呼した後、ラーラは、


「何をするんです!」


 そう叫んだ。


「夜食のお礼だ。友情に金で応えるのもどうかと思ってな。ご褒美的ななものだ。まぁ感謝の印だな」


「だからって……!」


 顔を真っ赤にするラーラに、


「存外初心だなお前」


 くつくつと笑う水月。


「こんなことされたら誰だって同じ反応だと思います……」


「まぁ気持ちだ気持ち。じゃ、俺は行くわ。晩飯ごっそさん」


 水月は茶をグイと飲み干すと立ち上がった。


「真理に会いに……ですか?」


「そ」


 あっさりと水月は頷いた。

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