表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
アナザー・アイ・ビュー
538/545

人を呪わば穴幾つ06


「だあああああっ!」


 忍が悲鳴を上げた。


 イタリアはミラノの街路でのこと。


 日本のモンスターが溢れ出ていた。


 主に鬼と呼ばれる種族だ。


 丑の角と寅の腰布。


 金剛力を持つ逸れ物。


「あー、やっぱり面倒事だ」


「兄貴の管轄なんだがなぁ」


 イクスカレッジの二人は残念を覚えていた。


 結界の中で鬼に襲われ、されども片方は叩きのめしていた。


 ブレンドブレード。


 零戦。


 剣身十メートルの単分子剣。


 鮮やかに鬼を切って捨てる。


 血が飛び散り、街路のパネルを跳ねた。


 瞬く間に殲滅していくが、新鮮呪詛は普通に呪わしい物だった。


「これは?」


「新鮮呪詛の自衛手段ですよ」


 アトモスフィアジェイルの中。


 ラーラとリフレクトは気安げに話していた。


「生きている呪詛ですから先述の如く、自分が助かるために呪詛は動きます。そしてそれを阻む僕は攻撃の対象でしょうね」


 爽やかにリフレクトは述べた。


 どうやら予定調和らしい。


 どこまでを考えているかはようと知れないにしても。


「ローマを滅ぼす……か」


 旧約の象徴。


 呪詛ならば滅し能う。


「あああああぁぁぁぁぁ!」


 忍がブンと零戦を振るう。


 一手で周囲の鬼を斬り殺す。


 普通ならこう簡単に刃を通さない金剛の強度を持つ肉体なのが『鬼』なのだが、忍の剣と魔術は『神』の領域に踏み込んでいる。


「骨法が参! 雀羽乱翼殺!」


 クノッヘンも巻き込まれていた。


 その背中から骨の翼が生え出て、固形として質量を為した骨が散弾の如く撃ち放たれる。


 まるでクレイモアの雨の様に鬼を襲い、その肉体を穿っていく。


 ネーミングセンスはどうあれ、実力者であるのは間違いないところだった。


「呪詛なら回りくどく襲わないの?」


「そうすることも出来るでしょうけど、結界に取り込めば遠慮は要りませんし」


「こっちにも言えるけどな!」


 ブンと零戦が振るわれる。


 基本単体での戦闘に向いているので、忍は十メートルきっちり離れていた。


 場合によっては斬殺もやむを得ない。


「結局新鮮呪詛が那辺に?」


「そこはこれからの議題かな~?」


 ラーラの質問に、リフレクトも曖昧にしか答えられなかった。


 模糊もこ。


「リフレクトはいいの?」


「焦ってもしょうがないし」


 まさに考えてないの実証。


「骨法が弐! 竜鱗暴風牙!」


「アレもどうだかなぁ」


 一々ネーミングが鋭角なクノッヘンだった。


「しかしこうなると、相手は日本人ですか?」


 呪詛が象るのは鬼。


 日本の神秘だ。


「東洋ではありますね」


 リフレクトも同意した。


 呪詛の内容は魑魅魍魎と百鬼夜行の合わせ技だ。


 既に時間は夜。


 血の色をした月が空に昇っている。


 その中で四人は鬼を殲滅していた。


「――――――――」


 鬼の悲鳴が上がる。


 なんにせよ放っておけるものでもない。


 目的と手段が逆転している様だが、鬼の狂乱を放っておくわけにもいかなかったのだ。


「しかし鬼か」


 ブンと零戦が振り抜かれる。


 金剛の身体を持つ鬼が斜めにずれた。


 剣閃に沿って切り離されたのだ。


「くくく……規格外だな……我の竜鱗破山剣にも及ぶ……」


「もっとタチ悪いですけどね」


 とツッコんだのはラーラだ。


「さすがにホラー映画の世界ですね」


 狂った様に血走った目の鬼が、目の前にある見えない壁をガリガリ引っ掻いていればトラウマにもなる。


 悪夢に見るレベル。


「しかし呪詛もこうやって顕在化するなら、もう手遅れじゃね?」


「一応、呪詛爆発カースノヴァにはまだ臨界値が足りないはずですけど」


 書類を読んでの演算。


呪詛爆発カースノヴァ?」


「呪詛の生誕。その祝福の事です」


 目の前を零戦が掠めた。


 アトモスフィアジェイルを引っ掻いていた鬼が悉く斬殺される。


「祝福ね」


「それで――」


 と言葉をつむぐより先に、目端の利いたラプラスの悪魔が出力する。


「――――――――」


「――――――――」


 鬼の中に神性を混じらせて遠吠えが聞こえる。


 天空からだ。


 月夜の空の、そこに二柱の鬼がいた。


 片方は布を背負っており、片方は太鼓を抱えている。


「風神と雷神……っ」


 もっとも早く正解に辿り着いたのは忍だった。


 風神と雷神。


 特に風神雷神図で有名だ。


 日本人の忍が真っ先に気付いてもおかしくはない。


 ただ状況は最悪だった。


 神の柱でもある二鬼だ。


 特に一芸に特化した呪詛具現はある種のモンスターにも定義は近い。


 単にアークティアで無いからモンスターに分類はされないだけで、その暴虐性はあまりに壊滅的とも言える。


「あ、あ、あ……」


 リフレクトはアトモスフィアジェイルの中で真っ青になっていた。


 演算は既に終わっている。


 そして終末も弾き出していた。


 どうしようもない絶望。


 あくまで不完全未来予知は無意識に未来を予測することでしかない。


 そこにある可能性から最善を最適化させるだけだ。


「では」


 と為る。


 ――それではリフレクトの器量以上の不幸が、あらゆる可能性を封じ込める凶性を持っていたならば?


 一種提議も出来る。


 残酷なテーゼ。


「あああああぁぁぁぁぁ!」


 死ぬしか無い未来という物は在る物で。


 特に魔法の世界では不条理はかなり罷り通る。


「――――――――」


 北風と雷鳴。


 まずは風神が吠えた。


 突風がラーラたちを襲う。


 風は対防御の範疇だが、それを風神は無かったことにした。


 アトモスフィアジェイルのキャンセル。


 ごく自然に退魔をやってのける。


「おおぉぉ?」


 暴風に吹っ飛ばされるラーラとリフレクト。


 忍とクノッヘンは無事らしい。


「魔術の無効化?」


「というより大気の支配率ですね」


 ラーラより風神の方が高位らしい。


 それは彼女にも分かった。


「…………来る!」


「しまっ――っ!」


 超速で稲光が奔った。


 叩きつけられるエレクトロンブロー。


 雷神の一撃。


 電子による攻撃であるため、アトモスフィアジェイルでも防げない。


 なお貫通力も高い。


 それは例えようも無く暴虐的で、圧倒的で、なにより神秘的だった。


 雷鳴が弾け、雷霆が瞬き、霹靂はリフレクトを打ちのめした。


 呪詛の自己防衛。


 その通りに出力する。


「リフレクト……っ!」


「が、あ!」


 完全に感電死。


 そのあまりの一撃は人の命を容易く奪う。


 クノッヘンが狂った様に悲鳴を上げる。


「魔法遺産が!」


 ――そこかよ。


 ラーラの理性的な部分がツッコむ。


「ちぃ!」


 忍が上空の神に襲いかかった。


 まるで軽業の様に壁を蹴って飛び上がり、零戦を向ける。


 一瞬の半分だ。


布都ふつ!」


 切り裂く音。


 布都御魂ふつのみたま


 単純なブレンドブレードも物理次元に於いては不条理の一言。


「はあっ!」


 報復。


 雷神に向かって斬りかかる。


 雷撃が対照的に襲った。


 バチィっと弾けたのは骨。


 骨法使い。


 クノッヘンのフォロー。


 竜鱗破山剣が雷撃を斬り散らす。


 そこからブオンと大気を裂いて、空の魔剣……零戦が振るわれる。


 命を断たんとする一撃。


 それは容易く雷神を切り裂いた。


 ――意識の半瞬はどう捉えたか?


 雷撃と同等以上の速度で、間合いを詰め斬りかかった忍の仕事の速さは、あまりに定評がある……というより常識の観念の外だ。


 しかも一度ではなかった。


 大振りの零戦の斬撃は、三度振られる。


 単分子の魔剣は四つに雷神を裂いた。


「うわお」


 ラーラが引いている。


 それほどまでにどうかしていると言うことだ。


 横槍は当然入る。


 風神もまた忍を敵対者と見做していた。


 だが零戦が相手では風は弱い。


 暴風が忍を襲ったも、零戦は鮮やかに斬り捨てる。


 重力に捕まって落下。


 着地の軽やかさは猫の様で、しなやかなものだった。


「雀羽乱翼殺!」


 今度はクノッヘンが攻撃した。


 骨の羽から骨の一部が散弾として射出される。


 風で押し流されたところに、忍がまたしても跳躍して襲いかかる。


「おおおおっ!」


 怒声が結界の夜に喝破した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ