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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
アナザー・アイ・ビュー
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人を呪わば穴幾つ04


「それで魔法テロとは?」


 さっそくクノッヘンが聞く。


「タタリ持ちの魔法使いがここら辺にいるんですよ」


「タタリ……というと?」


 この問いはラーラだ。


 一番現代魔術に明るい。


 戦闘力はないが、場の空気を読む意味で、たしかに彼女が有意義だった。


「書類には新鮮呪詛と書かれてありました」


「呪詛……それも新鮮呪詛……」


 ペタンと顔に手の平を当てる。


 疲労が彼女を襲う。


「タタリにしては聞き覚えも無いものですが」


「呪詛持ちね。主に東洋の魔法だけど……もしかして知り合い?」


「ええ。魔法メジャーでの」


「それでなんで此処に居るわけ?」


 一神教のお膝元。


 何をと考えて、


「ああ」


 と悟る。


「要するにそれで」


「さいです」


 ラーラとリフレクトは阿吽だった。


「結局何なんだぜ?」


 忍はキョトンとしている。


 クノッヘンも不理解らしい。


「つまりリフレクトの知り合いが呪詛持ちで。ついでにここローマのお膝元に居て。魔法テロって事は呪詛関連の暴走を引き起こし。それを止めるためにリフレクトは此処までやってきた。アナザー・アイ・ビューを使って」


 説明すればソレだけだ。


「魔法メジャーは動かないのか?」


 これも忍。


「魔法検閲官仮説もあるだろうしね」


 ラーラは述べる。


「問題は、ソレと認識していながら動かない魔法メジャーの思惑だよ」


「つまり……把握して放置していると」


「正解。魔術師にとってローマは目障りだろうしね」


「しかし検閲が……」


「多分此処では勘案しなくてもいいんじゃないかな?」


「何故だ?」


「呪詛による因果不明のタタリは迂遠的に人を襲う。疫病や戦争やテロを象ってね。結果論でしか覚れないって意味ではエネルギーの本質に近いよ」


「どういうことだ?」


 忍が首を傾げる。


 コーヒーを飲みながら。


 昼食をとり、ティータイム。


「新鮮呪詛は仕事魔術に分類されるのよ」


 仕事。


 つまりエネルギーだ。


「エネルギーはそもそも質量が無いと観測できない。質量の変動があって初めてエネルギーは観測される。それこそ観測理論の様にね。そして魔法検閲官仮説は魔法そのものが表沙汰にならないようにする物。結果として大破壊を撒き散らしても、それが判明したときには別の代替で終わっている。例えば呪詛エネルギーの暴発を『某国のテロリズム』や『大国の戦争勃発』や『疫病のバイオハザード』と取ればその様に事実が捻じ曲り一般的に呪詛の根幹に人類の意識は届かない」


「……………………」


「つまり皆が納得できる大破壊に置き換わって人を襲う。だから文明に呪詛は露出しない。魔法としてはかなり厄介で、なお魔法使いがフィジカルでダメージを与えるならこれ以上も無いね」


 例えば水月の魔術も強力ではあるが、エネルギー保存則無視の現象は人目のあるところで使えない。


 その意味で、名を変え品を変え……迂遠に忍び寄る呪詛の空恐ろしさは、冷静に考えて脅威と言える。


「呪詛……呪いか……」


「だから人の不幸が具現しても、因子は発見されないから、どうにかして止めるなら魔法使いも苦労を強いられるって訳」


「新鮮呪詛ってのは?」


「生命にも似た呪詛のこと。先輩だって知ってるわよ?」


「兄貴ね」


「要するに生きて活動するタタリのこと。呪詛そのものが生きている様子を見せるので新鮮呪詛。自己防衛と繁殖を自動で行なう呪いよ。だから危険があれば排除するし、繁殖能力を他に広げもする」


「それがこのミラノに潜伏していると?」


「そうなるんじゃない?」


 ラーラはヒュッと指を振った。


 茶髪のクセっ毛が揺れる。


「呪いの自己防衛って」


「珍しくはあるけどね」


 だから魔法メジャーが隠匿していたのだろう。


「よく魔法メジャーは無事だったな」


 呪詛持ちを確保していれば距離的に真っ先に呪われる。


 その事を言っているのだろう。


「基本的に呪詛持ちは封印処置を受けるのよ。まだミラノが呪詛に沈んでいないのも、その封印が効いているからでしょ。持ち運びには便利だけど……封印を解かれると臨界値まで呪詛を溜める儀式が行なわれるでしょうね」


「もしかしてソレって」


「あー、かもね」


 ブラックオークションには解除のマジックアイテム……ピッキングツールが売りに出されていた。


 ソレとは限らないが、何某かの手段は存在する。


「しかし旧約を滅ぼすための魔法テロリズムって……あまり笑えないんだぜ」


「くくく……普遍の終わりは近いな……」


「それで僕が苦労してるんですよ」


「南無阿弥陀仏」


 アイスコーヒーをチューと飲むラーラ。


「問題はその呪詛が因子関係なしに人を呪うことで……」


「捉えられてるか?」


「言ったでしょ。自己防衛をするって。つまり新鮮呪詛を防ごうとする行動には、そのカウンターシステムが存在して、結果として具体的な呪詛が顕現するのよ」


「例えば?」


「あー、神隠しなんかはソレに当てはまるわね」


「げ、ヤな感じ」


「そーよねー」


「人を呪わば……だな……くくく……。我もまた呪詛たらん……」


「クノッヘンはこの際良いとして、見なかったことにはできんか?」


「でもリフレクトを保護しないといけないし。ついでにそこまで含めてこっちを巻き込んだんだろうし」


「不完全予知……」


「書類を見てビビっと来ました。あとカタログ」


 要するに、新鮮呪詛を把握し、ミラノマジーアコレクションの存在を知り、そこから逆算して現在があるというわけだ。


「アナザー・アイ・ビューの恐ろしいところね」


「ぶっちゃけ無敵じゃないか?」


「情報さえ与えられなければ無為徒労だけど。それこそ人が生きているだけで無理な相談よね」


「くくく……さすがは魔法遺産……。魔法使いの忘れ形見……」


 ――その含み笑いは必要か?


 あえてラーラはツッコまなかった。


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