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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
アナザー・アイ・ビュー
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壱引く壱は零じゃない02


「で、此度の魔眼は?」


「聞いておらぬ。あくまで我が保管するのは、その術者であるからな」


「納得」


 パスタをアグリ。


「で、手伝えと?」


「くくく……。此処であったのも宿命であろう?」


「嫌な宿命があるもんだな」


 うげ、と忍が舌を出した。


「何にせよ、魔眼の相手は辛いですけどね」


 先に述べた様に、視界に入っただけでアウトだ。


「ましてヨーロッパならバロールの魔眼まで有り得ますし」


「バロール」


 忍がスマホに声を掛けていた。


 程なく音声検索で情報が手に入る。


「魔眼のバロール。見た生物を殺すって……徳叉迦竜王じゃあるまいし……」


「仏教圏にもありましたか」


 サラリと反芻するラーラ。


 こと神秘学の理解には結構深い。


「しかも視認して発動するので私のアトモスフィアジェイルでも防げませんし」


「兄貴の千引之岩でも……か」


「そう相成るわね」


 数少ない水月の弱点だ。


 とはいえ既にそんな領域にも彼は居ないものの。


「どんな魔眼かは知らなくとも、保持者の名前は知っているのでしょう? 顔写真くらいありますよね?」


「これだ」


 と情報端末に映し出されたのは赤髪の少年だった。


「ふーむ」


「ほほぉ」


 二人は難しい顔になった。


 もちろん後ろめたい気持ちで。


「名はリフレクト。魔法メジャーが遺産として扱っている特級の魔眼保持者だ。何でも現代魔術に於ける楔らしい」


「というか魔眼なんて不条理はソレだけで時間の絶対性を揺らがせますけどね」


 実際には速度や重力によって変わる。


 時間のあやふやさは相対性理論の基盤だ。


「ここまで教授が読んでいたと思います?」


「そういえば占いが得意とか言ってたな」


 未来予知の一種。


 ザ・タワーが出てもおかしくはない。


 すでにリフレクトと接触はしている。


 ソコにきてクノッヘンだ。


 勘ぐるなと言う方に無茶はあるだろう。


「こういうのって先輩のお家芸だと思うんですけど」


「なんの因果だろうな」


 忍もまたうんざりしている御様子。


「リフレクトな」


「魔眼は使わなかったのでしょうか?」


「ああ、アレ……」


 先日は見てもいない。


 或いは使ったのかもしれないが、何にせよソフィアの問題なので観測も難しいだろう。


「見たのか?」


「ミラノにまだ居るかは分かりませんけど」


「そう相成るか~。くくく。運命の御業の深きこと……」


 ニヤリと笑うクノッヘン。


「魔眼ねぇ?」


「まぁ魔眼って言っても色々ですし。中には生物特有の物を持っているのも事実でしょう。バロールの魔眼もその一つですね」


「何故だ?」


 問うたのはクノッヘン。


 忍もキョトンとしているが、興味はある様だった。


「認知の話になりますけどよろしい?」


「我はな」


「あとで聞くのも難しそうだし俺も聞く」


「対象を殺すだけで見る魔眼があったとして」


「バロール……キャツか……くくく……」


「じゃあ冷静に考えて、どうやって生物と非生物を振り分けているのか……っていうのを冷静に考えると、魔眼って言うのは有り得ない」


「何故だ?」


 ――見ているのだから有り得なくはない。


 そんな御意見。


 ちなみに忍だ。


 ラーラは少し呼気をした。


「じゃあ聞くけど人はどうして眼で見て距離が測れると思う?」


「奥行きがあるからだろう」


「じゃあ奥行きのない風景画を見て、二次元として成立するのね? 忍の感性……あるいはソフィアは……」


「奥行き……」


「要するにそういうこと。人……というか視覚を持っている生物は、光学的に二次元を三次元に処理できる。それは未だコンピュータすら為し得ないこと。ついでに言えば輪郭の算出はもっと有り得ない」


「どういうことだ?」


「例えば写真を撮って、その映像を線画に直せって言われても苦じゃないわよね?」


「トレースで良いなら」


「遠くの物は小さく。近くの物は大きく。けれども個々の大きさは比率が存在する。そんな物を線画として処理するには輪郭の算出が必要なのよ」


 ほふ、と茶を飲む。


「映像内のまとまりを別個に捉える。風景から人間だけを切り抜け……とか、様々な木の映った写真から檜だけを抽出して個別に捉えろ……とか、イラストソフトに命令できると思う?」


「それは……無理だな……」


「くくく……現状ではな……」


 二人もソコは理解するらしい。


「動いてるだけで生物ってんなら風に吹かれる旗も波に揺れる水面も生物よ。けれどもバロールの魔眼はそんなものを殺すかしら?」


「不可能だ。つまり二次元映像として取り入れた情報を、生物は何かしら高度な演算で三次元に投射し、しかも輪郭を付けて個別に判断、再認していると」


「再認は知っているのね」


「少しな。要するに経験を思い出して照らし合わせるんだろ?」


「そのと~りよ。なので思考だけで情報を高度に処理するのが生物の視覚なの。これは今でもコンピュータが辿り着いていない一種の境地ね。だから見ると言うことがどれ程高位な事象か思い出すとバロールの魔眼は有り得ない」


「なるほどな」


「さてそうなると、リフレクトが何を認識してるかって話になるんだけど……」


「くくく……雨でも降りそうだな……」


「現実逃避しない」


 ラーラが半眼で睨んだ。


 当然クノッヘンを、だ。


「我も知らぬ。魔法メジャーから逃げ出した遺産を回収しろと言われただけだ。こう言ったことは一般人には検閲が掛かるので、神秘に属する人間しか関われぬ」


「あ、ヤな予感」


「ヤな予感だな」


「くくくく……分かっているのではないか。捜索を手伝って欲しい」


「あー、そろそろ帰るんで」


「多分無理だろうな。普通に巻き込まれると思うぞ?」


 ――どちらにせよ商品が届くのは確認しなければならないし……とは徒労に諦観を覚える忍の物だった。


「だからこういうのは先輩の管轄でしょ~~~~っ!?」


「諦めろ。それが無理なら楽観しろ」


「先輩みたいなこと言わないでよ~~~~っ!?」


「くくく……全ての世界線は……此処に集まった……っ!」


「お前様は楽しそうな」


 忍はフォークを回しながら、うんざりとパスタをパクついた。


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