死と不死08
桜吹雪の中でノートパソコンを弄りながら水月は酒を呑む。
某掲示板で神乃マリの復活祝賀スレを荒らしながら酒を呑んでいると、
「先にお風呂頂きました……」
と真理が風呂場からあがってきた。
此度はしっかりと寝巻を着て、髪をタオルで拭きながらの登場だ。
それでも薄い寝巻は真理の抜群のプロポーションを隠しきれていなかったが。
「おー。真理か」
「はい。真理です。もしかして酔ってますか」
「こんな美味い酒呑んで酔わなかったら嘘だ」
「……それについては同意です。それより水月……お風呂に入ってきてはどうですか?」
「ん。そうする」
グイとコップに残った酒を呷り、木花開耶を打ち止めると水月は立ち上がった。
着替えとタオルを持って風呂場に向かう。
そして脱衣所で服を脱ぎ風呂に入る。
中略。
風呂からあがり、髪をタオルで拭きながら居間に戻る水月。
「おーす。あがったぞー……」
ガシガシとタオルで髪の水分を拭き取りながら水月はそう放言をした。
すると、
「ああん?」
と、そんな誰かを脅すような声が聞こえた。
居間にいるのは水月と真理だ。
そしてドスの利いた声を出したのは水月ではない。
消去法で真理である。
「…………」
水月はしばし沈黙し、真理を見る。
真理はというと……顔を真っ赤にして、大きなコップになみなみと注いだ月花酒を呷っていた。
結論は一つしかない。
「真理……もしかして……月花酒……呑んだのか?」
「ああん? 呑んじゃ悪いか? 水月が呑んでよくて私は駄目ってか?」
「いや……そんなことはないが……」
「そんなことはないが何だよ? はっきり言えよ」
「絡み酒……」
性質が悪いなと水月はうんざりする。
今や真理は可愛らしい目を、切れるつり目にして……なお顔を真っ赤に染め上げて、月花酒を飲み干していた。
「あーあー、一億の酒が一晩で無くなるとは……」
空の一升瓶を持ち上げて嘆息する水月。
初めに水月が三割……そして水月が風呂に入っている間に真理が七割を呑んだ計算になる。
「水月、それより見ろよこのCM……」
真理は日本の化粧品のCMが流れているテレビのモニターを指差した。
「このCMがどうかしたのか?」
「どうかしたも何もねえ! このCMな! 本当は私が出るはずだったんだよ!」
真っ赤な顔は酒のせいか怒りのせいか。
おそらく両方であろうが。
「ほう」
と頷く水月。
「ところがだ! CMに起用するにあたって会社の重役と寝ろって話だったんだよ! どう思う! これ!」
「最低だな」
「そうだ! 最低だ! 私がネットアイドルってことで足元見たんだろうな! ふざけた話だ全く!」
「ソウデスネー……」
感情のこもらない言葉で水月は同意する。
「あー、あとむかつくのは他にもある! 第一に私のファンだ!」
「応援してくれるってんならむかつくも何もないだろう?」
「その応援って奴だ! なんで私を応援する! 下心があるからだろ! ネットアイドルなんかにかまけている暇があるなら魔術の訓練でもしろっての!」
「まぁイクスカレッジにはキツネもたくさんいるからな……」
「なんで私がファン如きに良い顔してやりゃなならんのだ! 私の上っ面しか見ないクソどもには辟易してるんだ!」
「……ありえない発言絶賛炸裂中……」
ボソッとそう呟く水月に、
「ああん! 何言った水月! 何か文句があるのか!」
絡み上戸な真理が真っ赤な顔を水月に近付ける。
「別に何もねえよ」
水月はことさらに否定してみせる。
酔っぱらった人間には逆らわない。
それが消極的かつベストな選択だった。
「第二にむかつくのはプロダクションの連中だ」
「プロダクション?」
「ネットアイドルしている内に複数の国のプロダクションから声かけられ始めてな! 魔女っ娘アイドルとしてデビューしないかってな! あいつら甘い言葉ばっかり掛けやがって! 本当は私を商品にして儲けたいだけだろうがっての! 私を商品扱いだあ! むかつく野郎どもだ! 何様だっての! なあ!」
「ソウデスネー……」
「第三にむかつくのはお前だ!」
「俺?」
「そうだ! 水月だ!」
「何か真理を不快にさせたか?」
「何もしてねえから言ってるんだろうが!」
「どゆことよ?」
「こんな美少女が同じ屋根の下に住んでやってるんだぞ! 襲おうとか思わないのか! このヘタレ! 据え膳食わねば何とやらだろうが! これじゃまるで私が水月に相手にされてないみたいじゃないか! ああん! その辺どうなんだコノヤロウ! 私を抱きたいとは思わんのか!」
「襲ってほしいのか?」
「私は軽い女じゃねえが、それでもつばをつけるのが男の役目ってもんだろうが! それとも私は抱く価値もないってか! こちとら話題沸騰中のネットアイドルだぞ! ありがたくいただくのが筋ってもんだろうが!」
「んなこと言われても……」
「ヘタレ! これならいいか!」
叫んで寝巻を脱ぎ、下着姿になる真理。
「おいおい。酔いがさめたら大変なことになるぞ……」
「知ったことか!」
「さいですか」
「私を抱く気はないってのか!」
「ないな」
「ふざけんじゃねえぞ! この私を誰だと思ってやがる!」
水月のむなぐらを掴んで激昂する真理。
「水月! ふざけんじゃ……!」
と、そこまで叫んでから、真理は、
「……っ!」
こと切れた。
ガクリと倒れて水月の膝に頭部を乗せる。
「……真理?」
確認するように問う水月に、
「…………」
スースーと寝息で答える真理。
真理は眠っていた。
アルコールが効きすぎたせいだろう。
「呑みすぎるからだ……馬鹿野郎が……」
うんざりとそう呟いて水月は真理を布団に寝せた。
それから自身もベッドに寝転がり照明を消す。
「おやすみ眠り姫。また明日な」
そう言って水月もまた眠りについた。




