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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
アナザー・アイ・ビュー
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ミラノマジーアコレクション05


 豪華客船はイギリスに着いた。

 ロンドンまで電車に乗る。


「で、国際便ね」


 裏ロンドンには顔を出さない。

 水月なら或いはだが、ラーラや忍ではメリットもない。


「結局何なんだ。この結界は」


 既に知ってはいるも、無視も能わないようだ。

 不機嫌に忍が言った。


「単なる裏側の世界よ。気にすることも無いと思うけど」


 特異点だし、とは独語。

 結びの国は、魔法業界では有名だ。


 まして裏ロンドンとなれば神秘主義者が集まる。


「くくく……」


 何処か陰の差した忍び笑いが聞こえてくる。


 ラーラはチラリと其方に視線をやる。

 線が交錯した。


 相手方の視線もこっちを向いていたのだ。


 若齢ながら白い髪を持ち、イギリスとは少し意義の違うスーツを着ている。

 スリーピースではない。


「……………………」


 明らかにコッチを意識している。

 忍はスルー。


「貴様ら」


 とはスーツの男性。


 口の端が前衛的な笑みでつり上がっている。

 そして二人称が「貴様ら」と来る。

 どう考えても仲良くなりたいタイプじゃなかった。


「くくくく……分かるぞ。其方らは魔法使いだな?」


「いえ。違います」


 サラリと呼吸をするようにラーラは嘘をついた。


 ここら辺の塩梅は、確かに神秘主義者だ。


「ところで私たちの便は……」


 それ以降、無視しようとしたが、相手方はめげなかった。


「くくく……なるほど神秘を弁えているらしい。だが溢れるオーラで分かるぞ。其方らが魔法使いだとな」

「何言ってんだ? コイツ……」


 忍は名称不明のスーツ姿を指差して、ラーラに問う。


 もちろんラーラも知ったことじゃない。


 ケイ仮説はパワーイメージとして主流だが、生憎とオーラというものを二人は感じ入らなかった。

 二人の都合は違えども。


「季節の変わり目ですし。こんな人間も出るんでしょうね」


 あえてすっとぼける。


 強制検閲でも掛かればシャレにならない。


「我が骨が疼く。強者に震える」


「中等部の俺が言うのも何だが……中二病か?」

「忍も負けていませんよ」


「いやだってさぁ。ソレを言ったら……」

「まぁそうですよね」


 ラーラも言いたいことは分かる。


 魔術師なんて全員中二病のような物だ。


「我はエージェント・クノッヘン。世界の秘匿を管轄する者である」

「さいでっか」


 別段感銘も覚えない。


「我もまた魔法使いである。くくく……」


 自称クノッヘンは右手で左目を押さえ、謎めいた笑みを向ける。


「イギリスって神秘主義者が多いよな」

「ロンドンなんて魔窟があるくらいだから」


 裏ロンドン。

 そこは新古典魔術の総本山だ。


「知っているぞ魔法使い。くくく。神秘を求めているのだろう?」

「ある意味そうですね」


 自分たちの乗り込む便を確認して、付き纏われているクノッヘンを振りほどこうとしたが失敗に終わる。


 普通に纏われた。


「我もまた然り。魔術の祭典に向かう者」

「魔法使いが自分の存在をバラしてはいけませんよ? そう教師に習いませんでしたか?」


「くくく。確かにな。だが同じ魔法使いなら話は別だ」

「魔法使いである証左は明示できまして?」


「そうだな。その証明は……向こうでしよう」


 クノッヘン氏が言った瞬間、空間に何かが挟まれた。


 裏ロンドンとは別件の異空間。

 結びの国だ。


「――――――――」

「……………………」


 ラーラが戦慄し、忍は欠伸した。


「くくく。感じたな? その通りだ。異空間であるぞ」

「だからそんなこと言っちゃダメだって……」


 とか述べつつ、魔法災害ならば放置も出来ない。


 ロンドンの国際空港の一つ。


 ここではあらゆる神秘が交錯する。


「ではな。先に行っているぞ」


 人の視線が途切れた瞬間に、不意に消えるクノッヘン氏。


 結界への潜り込みは、一般的に神隠しとも呼ばれ、一般人の認知するところではない。


 検閲が働くのでクノッヘン氏の消失もまた人々の意識には認識されなかった。


 例外はラーラと忍か。


「どう見ます?」

「放っておいても大過はないと思うがな」


 裏ロンドンとて、いきなりな世界に挟み込みには対処するだろう。


 そのための人材もいないはずがない。


 単純に魔法災害の面から考えても、対処のしようは幾らでもある。


「便がまだなら中二病の術を知るのも一興かもな」


 なるほど、とラーラは頷いた。


 少なくとも結界を感じただけでも真実魔法使いであるのは頷ける。


 そうなれば、


「中二病を装うことで、胡散臭さを演出しているのかしら?」


 魔法魔術と言えば検閲が入るが、中二病ならその辺の話をしても「中二病乙」で終わる。


 その意味で放言が放言たらしめる。


「多分素だろ」


 忍の方は容赦がない。


 実質的にシンパシーも感じないものだが、アレはちょっとやらかしている……とも思えるらしかった。


 ラーラも二も無く頷いた。


「けれど神隠しの方は本物でしょうね」

「行くか?」

「幸い時間もありますし」


 携帯端末で時間の確認。


 予約を取っているので、スケジュールは予定通り。


「忍はまだ裏ロンドンを知らないんですよね?」

「ぶっちゃけなぁ。日本で生まれ育ったし」


 そっちも大概ですけど……とは言わないでおいた。


 古典魔術の純粋培養。

 その威力は既に証明されている。


「じゃ、見学でもしますか」

「大丈夫か?」

「どうでしょう?」


 シックスセンスが名を差す通り、魔術とは精神疾患の産物だ。


 あらゆる意味で救われない。


 だがソレにも増して人を魅了する。


 それもまた確か。


「結界ね」


 二人は反転した。


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