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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
全ては二人のために
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第二エピローグ34


 そんなわけでイクスカレッジに帰ってから最初の登校。


 水月たちはコンスタン研究室を訪れた。


 その執務室。


「大げさに世界を騒がせていますね」


 コンスタン教授がいつも通り水月に皮肉を投げかけた。


「まぁな。下手すりゃ『世界ザ・ワールド』で締め出されると思っていたが……」


「役先生に閉ざすドアは持っていませんよ」


 世界の黄昏を前にしてもコンスタン教授は立ち位置を変えるつもりも無いらしい。


「冷静だな」


 水月にとっては意外と言えた。


 元より攻撃的な魔術師ではないが魔王を一生徒として扱う肝のすわり方は尊敬に値する。


「一応のところ天啓や未来視や宿曜道ほどではないですが私も未来を知る手段を持っていますから」


「そう言えばそうだったな」


 コンスタン教授のパワーイメージはタロット。


 一種の占いを魔術に落とし込んだソレだ。


 威力こそそうでない物の汎用性や応用性に於いては新古典魔術でも随一と言える。


「で? タロット占いの結果は?」


「カイザーガットマン先生が死神の正位置。役先生が死神の逆位置ですね」


「はっはっは」


 笑うしかないとはこのことだ。


「どゆこと?」


 と赫夜かぐやが問う。


 コンスタン研究室の生徒は理解があるが、それ以外の人間には難しいだろう。


「タロット占い。出たカードによって趨勢を占える一種の未来予知だ」


 それにしても皮肉な結果だが。


「カードは二十二種類で、正位置と逆位置で意味が異なる。たしか死神の正位置は……」


「終末。破滅。終焉。消滅。全滅。要するに最悪の未来だね」


 すまし顔でラーラが言った。


「逆位置は?」


「再生。新展開。やり直し。再スタート。コンテニュー。……でしたっけ?」


 真理が言った。


「であれば役先生が第二魔王であることは有り得ません。カイザーガットマン先生の破滅の後に役先生は世界の再構築に動くはずですから」


「そなの?」


 プライムが問う。


「まぁな」


「さて、では魔王の思惑を聞きましょうか。場合によっては手助けできる事もあるかもしれませんし」


 頭が上がらないとはこの事だろう。


 水月は苦笑した。


「とりあえず今考えてるのは宇宙の破滅と再生だ。タロット通りだな。アンネマリーが宇宙を破滅させて俺が再生する」


「可能ですか?」


「ああ」


「ヴェルミチェッリ先生を殺す……というのは……?」


「儀式の一環だ」


「何で?」


 当の本人が聞いてきた。


「ザ・ワールド・イズ・マイ・ソング……覚えてるか?」


 去年の春に水月とラーラが関わった準拠世界。


 リアルで大規模多人数同時参加型マッシブリーマルチプレイヤーオンラインゲームを楽しめるという異世界だ。


「懐かしいですね」


「そこでお前は聖杯として選ばれただろ?」


「聖杯?」


 水月とラーラ以外が首を傾げる。


 説明する……と云っても聖杯トーナメントの優勝賞品にラーラが選ばれたと云うだけだ。


「要するにラーラの子宮は聖杯なんだよ」


「あくまでツウィンズでの話でしょう?」


「この際如何は関係ないな。別段子宮は子宮だ。それ以上では無い。ただツウィンズにおいてラーラの子宮を聖杯だと認識した。これも事実だ」


「むぅ……」


「女性の子宮は人を生む。ソレは即ち小宇宙を生むことと同義だ。では神域の子宮は何を生む?」


「小宇宙に対すると言えば大宇宙ですね」


 淡々とコンスタン教授。


「その通りだ。一種のウィッチステッキ。魔術に対する没入と言い訳の産物ではあるが、ラーラの子宮は聖杯として確立している。神代の聖杯ならばそれは天動説で運営される魔術師にとって世界を顕現するマジックアイテムとなる」


「だから先輩は私を殺すと……」


「子宮を摘出するにあたって……医学的な手術を受けるより殺して引きずり出した方が手っ取り早いだろ?」


「まぁ」


 サクリと納得するラーラこそ『剛毅ストレングス』だ。


「まずアンネマリーの禁術で地球を残して宇宙を全て空間ごと滅却する。その後に儀式と聖杯を持って俺は識域下に没入する。それから手持ちのエネルギーを使って宇宙を過去の記録で再構築する。それだけ」


「手持ちのエネルギーとは? 魔力の入力を用いないのですか?」


 プライムが問う。


「必要ない」


 それが水月の答えだった。


「何ゆえ?」


「お前のおかげだ」


 いっそ水月は皮肉気だった。


「私……ですか?」


「お前のオワレに飲み込まれたことで俺は自己観測者と相成った」


 その通りである。


 事象の地平面下では物理法則は機能しない。


 そうであるが故に水月はアークにリンクしたのだから。


「が、考えろ。俺はどうやって浮世に戻ってきた?」


「ブラックホールを破壊……し……て……まさか……」


 プライムは覚ったらしい。


 水月とプライム以外には理解の及ばぬ問答だ。


「それが?」


 問うたのはコンスタン教授。


「俺の体の中には重力特異点が存在する」


 事ほど左様に水月は軽く言ってのけた。


「要するに無尽蔵のエネルギーを自己観測者としての単位時間修復で封印している現状だ」


 世界の再構築。


 その意味を此処に知らしめる。


「オワレに飲み込まれて……その特異点を我が物としたと?」


「だな」


 ここでプロジェクト『全ては二人のために(オール・フォー・ツー)』に繋がる。


「先にも言ったがアンネマリーが宇宙を反量子で消す。一種のビッグクランチだな。そして地球だけになった空間に俺の体内の特異点で新しいビッグバンを発し宇宙を再構築する。結果論として地球の表面を含めて宇宙を過去の状態に戻す。つまり葛城さくらがまだ生きている時間の宇宙を構築する」


 水月の言に、


「……………………」


 誰も何も言えなかった。


「言葉にすれば安っぽいな。ま、魔王なんて一般的にそんなもんだろうが」


 水月は優雅に紅茶を飲むのだった。


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