第二エピローグ24
「たとえば魔術でさくらを生き返らせるとか」
「それは厳密な復元では無いだろう」
「サクラプライムの要領で保存されているオリジナルさくらの意識を偽物に植え付ければおっぱいの大きさ以外ではさくら当人となるだろ?」
「あー……」
なるほどと赫夜。
基本的に無形魔法遺産を保存する以上、その思考を再現出来ねば保存する意味が無い。
マリーは重力凍結と言っていたが、要するに、
「サクラプライムの量産を可能とする」
手段が魔法メジャーの遺産管理であるため難しい案件でもない。
「もっともそれだと外見も意識もクオリアもさくらではあるが……物理的にはサクラプライム二号に過ぎないんだがな」
「他には?」
「アークティアに頼むとか」
「アークティア?」
「直訳して神の涙。要するに人為魔術に対する天然魔術と呼ばれている現象だ。実質的には聖術に分類されるがな」
「んーと……」
「例えば葛城さくらの保存されている脳を持って実家に帰る。んで葛城一族の当主に生き返らせて貰う。これも一つの手だ」
「当主」
葛城山の一言主。
一言で世界を変質させる神。
「生き返れ」
と口にすれば死者も生き返る。
実際に昨年の夏……忍がソレで死から蘇っている。
「にゃるほど~」
グラスを傾ける赫夜だった。
「ナツァカパラドックスから引っ張ってくるのも一つだな」
さらに水月は提起した。
「?」
「まぁ知らんよな」
そこまで赫夜に知識を求めてはいない。
かぐや姫の末裔。
古典魔術師。
赫夜にそこまで期待するのは酷だ。
「魔導師ナツァカが近代魔術を定義する際に古典魔術ならびに新古典魔術の理論的破綻を述べた項目をナツァカパラドックスという」
「それで?」
「その中の一つに死者の増殖性という物がある」
「死者の増殖性?」
「んだ」
グラスを傾ける。
「現代物理的に考えて……人は死んだらどうなる?」
「骨?」
身も蓋もないが、
「正解」
水月は頷いた。
魂性の否定もナツァカパラドックスの一つである。
魂は存在しない。
というか、
「魂が存在するのならあらゆる生命は肉体に生存能力を付与する必要がない」
が正しい。
「ここで神の涙……アークティアの話に戻るんだが異世界は存在する。浅間一族の月の社がそうであるようにな」
「だねぇ」
「信仰がアークティアを作る。そこで言えば死者の行き着く先という世界もまた存在する」
「黄泉国?」
「日本ではな。が、死者の国の存在は日本だけの信仰じゃ無いだろ?」
「地獄と天国と極楽と奈落と六道にヴァルハラに……まぁ色々あるね……。黄泉も日本と中国じゃ違うし」
「そういうことだ。そしてこれらの死者の国は物理的に存在する」
「アレ? そうすると……」
赫夜も覚ったらしい。
「死者の増殖性。要するに人が死ねば複数の死者の国に当人が登録される。結果、世界全体で言えば人は死ぬことで死者の国の数だけ増える計算になる」
「な、なるほど……」
赫夜の頬が引きつっていた。
「そしてこれらの死者の国から葛城さくらを現世に呼び戻すのも一つの手段だ」
「それはつまり……」
そういうことだ。
「国生みの神イザナギが黄泉に行って死者のイザナミを取り戻そうとしたように……あるいは琴の達人であるオルフェウスが妻を冥界から連れ戻そうとしたように……ことほど左様に死者の国に行って死者を連れ戻すのも一つの方法だ」
「そう考えると死者の復活ってあんまり有り難みがないね」
「最後者は結局例外なく失敗してるがな」
「ヴァルハラは?」
「うちのさくらは戦士じゃないしな……」
「あー……にゃる……」
ブランデーを飲む。
「どれにせよ負い目は残るだろうし」
つまらなそうに水月は言う。
後は魔法メジャーによって保存されているさくらの脳を真理に食べさせるという方法もあるが……それでも、
「負い目が残る」
という一点に置いては変わらない。
そして水月はソレを望んでいなかった。
第五魔王ヘレイド=メドウスの意図は知っているし、その忘れ形見のレゾンデートルについても斟酌している。
が、それに頼るのならそもそも恋立方程式に悩む必要も無かったのだ。
グイとブランデーを呷って、
「お代わり!」
カツンと空のグラスでカウンターテーブルを叩く水月だった。




