第二エピローグ21
とりあえず時差ボケをどうにかするためロンドンに一時的に留まった。
夕方にラーメン屋の暖簾を潜って豚骨ラーメンをすする四人。
「ところでー」
とはあっぱらぱー。
「何で水月は第零ブリアレーオ魔術をー?」
超今更だった。
真理がずっこける。
水月の瞳に疲労が宿る。
赫夜は我関せずとラーメンをすすっていた。
おそらくだが四つの体の五つの意識の内、気づいていないのはアンネくらいのものだろう。
マリーには意見を聞いていないので絶対では無いが聡い性格を考えれば十中八九わかっているはずだ。
「ほんとーにパープー娘だなお前は」
「いやー……」
褒めてない。
そうツッコむのは容易い。
が、糠に釘を刺す必要もない。
水月はズビビとラーメンをすすった。
「やり直したいことがあるから」
それだけ。
「時間を巻き戻してまでー?」
「そういうことだな」
ラーメンをズビビ。
「やり直したいことってー?」
「宿題だ」
「むー」
何時になっても宿題は嫌な物ではある。
「真理に聞くというカンニング方法もあるぞ」
「真理ー?」
「本当にわからないんですか?」
真理としてはそっちの方がどうかしているらしい。
水月……ひいては魔王に追従しているため、その意思の那辺は把握して当然のところだ。
「なんでアンネは着いてきたんだろう?」
そんなことを思う真理だった。
言葉にはしないが。
「ええと……」
しばし考える。
そして、
「水月の事情は知っていますか?」
「少しならー」
ポヤポヤとアンネ。
「水月の一番大切な人は知っていますか?」
「ええとー……」
昨春に水月は語ってる。
「葛城さくらー……だっけー?」
「ええ」
「でも無形魔法遺産でー」
「ええ」
「…………」
無言になるアンネに、
「ええ」
と真理。
大凡察したらしい。
自身が無形魔法遺産なのだ。
そしてその対応も聞いている。
そのために水月はアンネを月の社に匿ったのだから。
無敵。
敵対行為が一切発生しない宿業の持ち主。
ソに寄り添うことでアンネの安全を保障しうる。
今でこそレジデントコーピングなどという無茶苦茶を現実世界に適応しているが、基本的にアンネの思考はあっぱらぱーだ。
別に悪いわけでも無いのだが。
「ということはー」
気まずげなアンネ。
「だな」
水月も答える。
要するに、
「葛城さくらが生きている時間まで巻き戻す」
ただそれだけのこと。
そのために宇宙を滅ぼそうというのだから畏れ入る。
「あのー」
「何でしょう?」
水月の敬語はこの際皮肉だ。
「世界と敵対しておいて得る結果がソレー?」
ごもっとも。
アンネの躊躇いもわからないではないが、水月にとっては不条理でも何でも無い。
――プロジェクト『オール・フォー・ツー』
曰く、
「全ては二人のために」
要するに、
「水月とさくらのために宇宙は一回滅びるべきだ」
という頭を違えた水月の思考。
元より魔術師の脳機能はぶっ壊れていることが前提ではあるが、それにしても一人の想い人と宇宙を等価交換するというのだからスケール的には開いた口が塞がらないという類の案件ではある。
「ええー……」
とアンネ。
基本的にカイザーガットマンがいなければ成立し得ない案件ではあるが、水月以外の人間に対して、
「さくらのために世界を滅ぼすことに尽力しろ」
と云われてボランティア精神を発揮出来るなら、そっちの方がどうかしている。
「いいんだけどー……なんだかなぁー……」
ラーメンをズビビ。
アンネはアンネで色々と考えるところがあるらしかった。




