第二エピローグ20
「事態の収拾が付くまでそこに居ろ」
「はあ」
とりあえず理解はしたらしい。
「さて、それじゃ」
水月は体を解す。
「――木花開耶――」
そして空間に質量をばらまいた。
桜吹雪が視界を遮る。
そして水月は暗殺者となった。
桜吹雪を闇として、威力使徒に襲いかかる。
ここでは心眼のみが状況を決する。
そしてソレをこの場で持っているのは水月だけだ。
殺すほどのことはしない。
出来ないわけではないが。
単純に眠って貰うだけ。
簡単に背後を取って首筋に手刀を埋め込む。
「……っ」
一人ずつ意識を失う威力使徒たち。
ほとんど悪夢の光景だろう。
桜吹雪が散り終わると、
「な……!」
リリィ以外の威力使徒は意識を手放していた。
「何を……っ!」
「単純に眠らせただけだが?」
他に言い様も無い。
「魔術は効かないはずですわ!」
「だろうな」
水月とて加護装束の効果は知っている。
「だがあくまでカソックが封じるのは魔術だけだ。物理的手段なら話はまた別だろう?」
単にそれだけのこと。
ハッキリ言ってのける水月だった。
「威力使徒が魔術師風情に体さばきで後れを取ったと?」
「だぁな」
水月は軽く言う。
が、そもそも威力使徒は魔術師の軽視する体術で魔術師を上回る存在だ。
こと身体能力は魔術師以上が通念。
もっとも言ってしまえば、
「未熟」
に尽きる。
剣術を修めている水月にしてみれば、
「修行が足りない」
とさえ言える。
水月にとって魔術と剣術は二足のわらじだが、それ故に戦闘に於ける心構えはあまりにドライだ。
その肉体操作の合理性は極北にいたり、単純に肉体を増強させて悦に入っている威力使徒程度では相手になるはずも無い。
「くっ……!」
リリィはロンギヌスの槍を水月に向けた。
「――光あれ――」
亜光速で伸びるロンギヌスの槍は手元以上に伸びなかった。
「……っ?」
混乱するリリィ。
話は単純だ。
要するに先に千引之岩でリリィを囲っただけである。
真理にした対処と同じである。
意味合いは真逆だが。
「アンネ」
「なにー?」
「ロンギヌスの槍を消してくれ」
「アイサー」
ポヤッとアンネは言った。
「――SicutEratInPrincipio――」
禁術。
反魔力の生成。
ロンギヌスの槍が質量である以上、対消滅を起こすも必然。
音も無く。
光も無く。
フツリとリリィの手元に握っていたロンギヌスの槍は消え去った。
アークティアであるため人類の信仰ある限り何度でも復活はするが、それはもう少し先の話となる。
「馬鹿な……」
とはリリィの言葉。
水月にしてみれば、
「当然の帰結だろう」
ということになる。
「っ!」
切れる碧眼が水月を睨む。
「何か?」
水月はいつも通り飄々と。
「ていうか何で敵対したんだっけか……」
これもまた今更。
「本当にあなたは世界を滅ぼすつもりですの?」
「ある側面に於いてはな」
「出来ると思ってますの!」
「その真偽はこの際問題じゃ無かろう」
「魔王!」
「自負してはいる」
柳に腕押し。
糠に風。
暖簾に釘。
今更言われてどうなるものでも無い。
「とりあえず」
と水月。
千引之岩を解く。
一瞬で間合いを詰める。
崩拳がリリィを襲った。
超神速。
ロンギヌスの槍ほどでは無いが、人の認知外の速度。
「が……っ!」
リリィが呻いた。
それが決着。
「身も蓋もないとはこの事だな」
さもあらん。




