第二エピローグ18
言語を組み立て、
「俺は量子燃料仮説を支持しているから量子論で語らせて貰うが……」
構築および大凡完成。
「量子を金銭とする」
「ふむー?」
「その金銭を消費してマンションを建てる。此処で云えば量子を消費して世界を建てることと同義だ」
「はあー」
「この場合マンションの管理人がアークでいいだろ。で、マンションの各々の部屋が色んな世界だ。内一つの部屋に人類というお客さんが住むとする」
「地球ですかー?」
「宇宙の中のな」
「ほとんどダニみたいな物ですねー」
「小ささで言えば比較にならんがな」
家におけるダニより宇宙における人類の方が比較するのも馬鹿らしいくらい小さい。
「ここのお客さんである人類は部屋の都合にいちゃもんをつけて『アレをやれコレをやれ』といけたかだかに無茶を言う。しかも金銭を捻出するのは管理人だ。管理人であるアークが金銭という量子を捻出して一つの部屋に済む人類さんの希望に添うよう取りはからう」
「それってー」
「そ。これが魔術だな」
アークという管理人が量子という金銭を吐き出す。
こういう例えをすれば魔術否定仮説を支持しているようだが、客観的に見て否定できないのも現代魔術学者の通念だ。
「例えば攻撃魔術や防御魔術ならまだ可愛い方だ。人一人を殺す火を生み出すエネルギーはたかが知れている。が先にも言ったが全体論の時間干渉は宇宙にとって宇宙以上もかかるエネルギーを消費せねばならない。マンションの管理人は自身が建てたマンション以上の金銭をたった一部屋の住居者のためだけに払わなければならないわけだ。それも魔術師という住居者が一回や二回で済ませるならまだいいが、全体論的時間干渉はもし可能なら魔術師は誰だって何回だって行使したがる。俺もその一人だ。そんな住居者の傲慢を管理人が穏やかな顔してハイハイ言い続けると思うか?」
「つまり宇宙に宇宙以上の負債を抱え込ませる問題魔術ー……」
「そういうことだな」
「あれー? そうするとー」
「何だ?」
付き人から湯飲みを受け取って傾けながら水月が問う。
「水月にも無理じゃー?」
「俺は自分の財布で勝負するから大丈夫」
「自分の財布ー?」
「まぁソレについては置いといて……」
ズズズと茶を飲む。
「とりあえずお前には反量子で世界を滅ぼして貰いたい」
「…………」
アンネの目が虚ろになった。
――何を言ってるんだお前は?
そんな感じ。
「まぁアンネというよりアンネの中で眠っているマリーに語りかけているんだがな」
一応アンネは交代人格。
主人格はマリーの方である。
「さっきの説明で言えば宇宙の運営に相当する現象はアークとしても不味いんじゃあー……」
「あー……と」
湯飲みを傾ける。
「ソレについては気にしなくていい」
「魔法検閲官仮説はー?」
「ソレについても問題ない」
「何でー?」
「プロジェクト『全ては二人のために』の儀式の一環だから」
「?」
「最終的に宇宙の辻褄が合う様に設定されてるから気にせず世界を滅ぼせ」
「ていうか宇宙についてそんなに知らないんですがー?」
「ああ、そんなもん俺だって知らん」
「そなのー?」
「元より魔法は天動説で運営されるからな」
「んー……とー……?」
「結界や異世界へのリンクや障壁魔術が良い例」
「言葉足らずだよー」
「知ってる」
不遜に言って茶を飲む。
「例えば……そだなー……」
しばし悩んだ後、
「千引之岩ってあるだろ」
「あるねー」
とりあえずアンネも知っているらしい。
「空間隔絶についてはこの際論じないとして……いわゆる一つの障壁魔術なんだが、じゃあ聞こう」
「何でもどうぞー」
「この千引之岩は止まっているだろうか?」
「そりゃもー」
「相対性理論でいって観測者から見れば確かに止まってる。地球の座標に固定されて顕現するからな」
「含みますねー」
「その通りだしな。ならここで宇宙から見て地球の表面で展開されている千引之岩は空間座標的に止まっているだろうか?」
「あー」
気づいたらしい。
「そう。止まっているように見えるのは天動説の話であって実際は固定魔術だって有機的に動いているんだな。何も千引之岩に限った話じゃ無い。地球が自転して太陽に公転して銀河の周りを回って宇宙の膨張に付き合わされている」
「慣性の法則じゃ無くてー?」
「新しくかつ突発的に宇宙に生まれた無色透明のエネルギーが……か?」
「むぅー……」
「であるから魔術が術者の認識を超えることが出来ない以上、魔術は天動説で行使される。で、ここからはプロジェクトの話になるんだが……単純に地球だけを残して空を消してくれ」
「空を消すってー……」
「質量も仕事も空間も全部だ」
「地球は残していいのー?」
「ていうか赫夜が居る限り地球に致命的な干渉は出来んだろ」
飛行機で寝こけている赫夜を指して尤もな事を水月は言った。
「にゃるほどー。あれー? でも太陽も月も消すなら結局間接的には地球に対して致命的なようなー」
「だからその辺は魔術の儀式の一環として辻褄を合わせるから問題ない。要するに結果論として危機的状況にさえ陥らなければ魔王も存居出来るのは第五魔王ヘレイド=メドウスが証明してるしな」
そして茶をズズズ。




