第二エピローグ14
洗脳とはまた違う。
ごく自然に因果論としての因子が発生しないのだ。
誰も、
「赫夜を巻き込んででも飛行機を撃墜しよう」
という発想すら持たない。
故に赫夜が傍に居るだけで悪意のアクションをある程度封殺できる。
スナイパーライフルで水月個人を狙うならどうにかなるが、例えば今寿司を食べている店を強襲し、爆破して纏めて殺そうという因果は発生しない。
だからこそ水月は赫夜を呼んだわけだが。
「何よりアースセーフティだしな」
ぼんやりと水月は言った。
「アースセーフティ?」
またもやポカンと真理。
アースセーフティ。
近代魔術で魔導師ナツァカが提唱した仮説の一つ。
ブリアレーオの法則の延長線上。
「人類を鏖殺することに価値を置いていない魔術師の蛮行に対するカウンター」
転じて、
「魔王が目的を果たせぬまま覚悟に殉じる原因」
そをアースセーフティと呼ぶ。
地球にとっての安全装置。
例えば葛城さくら。
その気になれば、
「――オワレ――」
で銀河系を事象の地平面下に落とし込める技量の持ち主。
だがアースセーフティがある限り地球を破滅させる因果は生まれない。
ナツァカはソレを無形の安全装置と認識していたが、実のところの正体は、
「なんと浅間赫夜ってワケ」
ほざいて寿司をあぐり。
「ん。美味い」
玉露をズズズ。
「にゃは」
赫夜も畏れ入ったりはしなかった。
「どういう理屈で?」
とは真理の疑問。
当然だが。
「例えば魔王が世界を滅ぼそうとする」
「水月みたいに」
「そう。俺みたいに」
「ふむ」
「例えば……あー……」
しばし言葉を探し、
「第二魔王が居たとする」
「第二魔王」
「――人類みんな死にたーえれっ♪――」
「そんな魔術を使うとする」
「音符マークは要りますか?」
「こうポップでキャッチーな演出だ」
「はぁ」
「で、そんな魔術を行使されれば人類皆死に絶える」
「世界の終わりですね」
「ここに浅間赫夜という人間を投入しよう」
「…………」
「大体わかるだろ?」
「人類を鏖殺する魔術は無敵の赫夜も含むため……そもそもその因果が発生しない……」
「そういうことだ」
玉露をズズズ。
「とにかく必然も偶然も無く全てを十把一絡げにして赫夜はあらゆる害的現象を封じる力があるんだな」
「…………」
「人類や地球を害そうとすると、どうしてもソコに浅間一族まで含まれる。故に無敵を持つ浅間一族が地球に居る限りにおいてはソレごと纏めて破壊や虐殺は行えない」
「……なるほど」
もはや真理は何と言っていいかもわからなかった。
「あれ?」
とここで疑問。
「水月も魔王になって世界を滅ぼすんですよね? 赫夜に阻止されるのでは?」
「それについては大丈夫だ」
えんがわをあぐり。
「世界を滅ぼすんですよね」
「あくまでこの世界の予知能力者たちの見解はな」
「水月の意図とは別と?」
「んだ」
江戸前穴子をあぐり。
「水月のソレは破滅では無く再生だからね」
赫夜はニコニコ。
「結局何する気なんですか?」
「第零ブリアレーオ魔術の行使」
端的に水月は言った。
沈黙が支配した。
とはいえ絶句しているのは真理だけで、他の三人は寿司を食べたり茶を飲んだりで黙っているだけだが。
「不可能でしょう?」
少なくとも冷静に鑑みて真理の言葉は必然だ。
第零ブリアレーオ魔術。
魔導師ナツァカをして、
「不可能だ」
と言わしめた現象。
故にナンバー零を与えられた大魔術。
「ま、急いては事をご覧じろってな」
水月はポヤッと茶をすするのだった。




