第二エピローグ13
特に問題も起こさず、水月たちは築地の寿司屋に入店する。
とりわけ赫夜の能力が大きいだろう。
そう言うと、
「?」
と真理が首を傾げる。
寿司をもむもむ。
無論、御代を払うのは水月だ。
世界が破滅すれば金銭の都合も関係ないため……どうでもいいと言えばどうでもよろしい。
「なにがしかの魔法なのですか?」
「そ。無敵の聖術」
「無敵……」
ふむ、と唸る真理。
「要するに凄く強いんですね?」
「いやぁどうだろう?」
そこは水月も首を傾げる。
「にゃはは」
赫夜は笑った。
「そもそも誰かと戦ったこともないしね」
愉快そうに。
「日本の霊山。月と花の信仰を併せ持つ神秘の山と聞きます」
イクスカレッジで月花酒を飲んだ際に水月が講義した内容だ。
「そそ。月の社も見たでしょ?」
「ええ」
「私はその家の末裔」
「月人……ですか」
「そ」
もっとも……あくまでレッテルを通してみるならば、ではある。
アークティアが地球外の星の属性を持つのは珍しいことではない。
天使……ケルビムは金星であるし、イシュタルも護法魔王尊も金星の属性を持つ。
天照大神が太陽。
クトゥグアがフォウマルハウト。
赫夜が月と言うだけである。
「月人は不死と聞きました」
「まぁその通りだね」
ウニを食べながら気さくに肯定する赫夜。
「つまりそれが無敵なのでしょう?」
「違うぞ」
「違うね」
一字違いで同時に水月と赫夜が発した。
当然意味不明な真理。
「不死身ではある。それは確かだ」
水月が言って、
「けどソレと無敵とは筋が違うにゃ~」
ケラケラと赫夜が笑う。
「すごい防御能力を持っているとか?」
「残念」
「それも違う」
「ん~?」
わからないのも必然だ。
「本当に……文字通りの意味で『無敵』なんだよ」
「文字通り……。無敵……」
無敵。
要するに『敵』が『無』い。
「竹取物語は知ってるか?」
「かぐや姫のお話ですよね?」
「そ」
簡潔に肯定すると、
「あ」
と真理が覚った。
「かぐや姫……赫夜……月人……つまり……」
「そうだ。かぐや姫の子孫なんだよ」
「それと無敵がどう関係するんです?」
「竹取物語のラストは知ってるか?」
「帝が富士山の頂上で不死の薬を焼いたとか?」
「もう少しページを巻き戻してくれ」
「ええと……月の迎えが来るって辺り?」
「そうだ」
水月が頷く。
赫夜は、
「にゃはは~」
と寿司を頬張っていた。
それはアンネも同じだが。
「それを知った帝はどうした?」
「軍勢を構えて迎え撃ちましたね」
「対する月人は?」
「特に何も……。ただ月人の不思議な力で無力化されたとしか」
「そこだ」
「というと……」
「敵対することが出来なかった。それが月人の能力だ」
「敵対することが出来ない……」
「敵が無い。故に無敵」
「…………」
唖然とする真理に水月は補足する。
「要するに……」
カンパチをあぐり。
「意識的も無意識的も問わず……自然も不自然も問わず……必然も偶然も問わず……浅間赫夜に対して敵対行動をとることが出来ないのが世界のルールだ。言ってしまえば浅間赫夜に対する害性の因果が世界に発生しないんだよ」
「無敵の聖術……!」
「そゆことだな」
一種の保険だ。
水月の自己観測者。
真理のアンデッド。
アンネマリーのレジデントコーピング。
各々が突出した自己防衛機構を持ってはいる。
が、それはあくまでアクションに対するリアクションだ。
攻撃があって初めて顕現する魔法である。
が、そもそも赫夜にはそのアクションが発生しない。
これは牽制という意味では最大級だ。
例えば築地で寿司を食べた後、水月たちは空港に向かう予定だ。
プライベートジェットでロンドンまで。
が、水月は魔王候補だ。
当然乗っている飛行機が狙われるのは必然。
おそらく魔法の世界では水月の情報が東奔西走していることだろう。
賞金首でもおかしくない。
仮に飛行機が攻撃されれば死なないにしても撃墜はされる。
が、ここに赫夜が同乗すると、赫夜を巻き込む形での攻撃……つまりアクションが起こせなくなる。




