第二エピローグ09
「俺は兄貴と争いたくない」
苦渋を飲む忍の言葉に、
「俺もだ」
朗らかに水月は笑った。
「なら結果は出たな」
爽やかだったが爽やかさとは無縁だった。
「忍は俺と争いたくない。俺も忍と争いたくない。なら争わなければいい」
「…………」
沈黙。
後に、
「兄貴は放置すれば世界を滅ぼすのか?」
「その予定だ」
「出来ると?」
「ま、志半ばで死んでも本望である程度には」
命をチップとして乗せているらしい。
それは忍にも十全に伝わった。
「本気か?」
「冗談なら予知能力で俺の魔王化は広がってないだろ」
覆しようのない事実。
あらゆる予知能力者が水月を魔王と断定したのだ。
であればソレが事実だった。
「魔法検閲官仮説はどうなる?」
「人類全てが滅ぶんだから文明に魔法が広まることはないだろ」
「アースセーフティは……っ」
「作用しない」
それは事実だ。
「何故?」
「ここで話す必要も無いな」
ぼんやりと水月。
特に忍の担いでいる巨剣……零戦には意識をやっていないようだ。
「じゃあ本当に」
「今更だ」
拒絶の意思。
その通りではある。
「じゃあ俺が……」
忍の双眸に在ったはずの迷いが消えた。
「ここで正義に依っても文句は言わんだろうな?」
「ま、魔王を倒す勇者が一人きりだとは思ってねえよ」
そもそも人類史そのものに喧嘩を売っているのだ。
知人が敵に回る程度は覚悟の範疇でもある。
――特筆すべき事でも無い。
水月は瞳で、そう語った。
「じゃあ……殺す……っ!」
言って忍は零戦を構えた。
「まぁ好きにさせてやるか」
水月としては楽観論に奔る。
別段、「意気軒昂に殺されること」を是とするわけでもない。
水月の自己観測者ならどれだけ切り刻まれても……千断万割されても問題ないと判断した結果だ。
が、
「――千引之岩――」
マジックトリガーが引かれた。
魔術が出力される。
空間隔絶。
即ち魔術障壁。
それは水月をブレンドブレードから守った。
「な……っ!」
と驚いたのは水月と忍が同時。
千引之岩は水月のソレでは無かったのだから。
そして真理がギラリと瞳に炎を乗せていた。
即ち、術者である。
水月としても疑念の範疇だ。
この三ヶ月に真理が何をしたのかはようとしれないが、何かしらはあったのだろう。
「水月。ここは私が受け持ちます」
真理は言った。
剣撃の極地……ブレンドブレードを持つ忍を捉えて。
「真理が俺に勝てるとでも?」
忍としては古典魔術師の血統で有り、なおブレンドブレードの使い手。
イクスカレッジ産の魔術師を下に見るのは必然だ。
しかし、
「ふ」
真理の見解は違った。
「あなたで私に勝てますか?」
完全に優位に立っている。
少なくとも意識上は。
「でも真理を殺してもな……」
「水月を殺したいならまず私を越えなさい」
自負。
そう呼ばれる感情だ。
「真理?」
「何です?」
「死ね」
「ええ」
頷く真理。
零戦が襲う。
魔術障壁で防ぐ。
「前に水月が言いましたね」
真理は千引之岩を張って言う。
「あなたの魔術は大振りすぎると」
「それがどうした!」
「であれば勝てませんよ」
「結果は急いてご覧じろ!」
「そうします」
そして真理と忍の魔術がぶつかり合った。
真理は空間隔絶を。
忍はブレンドブレードを。
それぞれ駆使して敵対する。
優劣の紐は真理が握っていた。
基本的に忍の魔術は大味だ。
空間隔絶とここまで相性の悪い魔術も珍しい。
であれば千引之岩を使う真理に一定の理がある。
が、コンセントレーションの点では忍が勝る。
魔術に集中のいる真理
魔術を自然に扱う忍。
真理は一つのマジックトリガーで魔術を行使するが、忍の二つのマジックトリガーと並行していた。




