第二エピローグ04
「さて」
真理は得た。
真理がソレを為した。
であれば水月のやることは決まっていた。
オール・フォー・ツー。
「全ては二人のために」
そういうことだ。
「なんか数千年も考えていた自分が馬鹿みたいだな……」
真理が聡いと言うより水月が鈍いだけだ。
一応外の季節は春。
葛城山の異世界自体は常春だが。
水月はシャツとトラウザーズを纏ってジャケットを袖だけ通す。
冬以外での何時もの格好だ。
「じゃ、イクスカレッジに戻るか」
「もう良いんですか?」
真理の問い。
この場合は、「葛城さくらを蘇らせるのではないか?」という意味合いを含む。
「無論そうするつもりだ」
答えを得た水月には自明の理だ。
実質的に、ソレ以外の手段と手法を彼は見てもいないし聞いてもいない由……普通にスルーの案件である。
「イクスカレッジに戻る必要が?」
「別に儀式自体はどうにでも出来るがラーラが必要だしな。彼奴をこっちに呼ぶよりこっちから訪問する方が有意義だ」
「ラーラをどうするおつもりで?」
「だから殺すって」
「何ゆえ?」
「重要なマジックアイテムを彼奴が持ってるからだな」
ぬけぬけと水月。
真理には理解がおよばない。
仕方ないで済む話だが。
そんなわけで水月としては後顧の憂い無く基準世界に戻れる。
そして式神に頼んで真理共々基準世界に帰った。
葛城山の頂上。
「ではご武運を」
式神が丁寧に一礼する。
「ああ」
と答えて下山。
「飛行機の手配はどうしましょう?」
「とりあえずアンネマリーと赫夜を拾ってからだな」
「何故その二人を?」
「元々恋立方程式が解けたら二人には協力を仰ぐ予定だったからな」
「同時にラーラを殺す予定でも?」
「ああ。とはいえ実質的にはお前がラーラを殺すわけじゃないから気負う必要は無いぞ」
「そう云われても……」
むぅと真理。
「そんなわけで富士山に行く必要があるな」
浅間赫夜が支配する霊峰で……アンネマリー=カイザーガットマンが食客として居座る準拠世界。
水月は効率を考えて浅間一族に連絡を取り、赫夜とアンネマリーの手配を頼んだ。
後は富士山の五合目で拾えば良い。
案の定真理にはサッパリだったが。
そんなわけで駅を伝って新幹線の切符を買い、到着を待っていると、
「……………………」
「………………っ!」
水月と真理は襲われた。
結界に。
世界が反転する。
鏡像世界。
結びの国とも呼ばれる。
要するに新幹線駅には違いないのだが、オブジェクトがそのままであって実質的には異世界に相当する。
真理も戦慄こそしたものの、意識そのものは冷静だ。
元より水月にくっつく性質上、慣れたと云うことも大きいのだろう。
世界が反転した際に、現われたのは一体のアンデッドと数える程度の鴉天狗。
「久方ぶりか? 小生とおんしは……」
アンデッド。
ソイツが水月に問いを投げる。
腰には二つの剣が差してある。
一つは日本刀。
銘は水月の知るところではないが、名刀ではあろう事は予想の範疇だ。
もう一つがくせ者だ。
西洋の剣。
今は鞘に収まっているが、その鞘こそ問題だった。
アンデッド。
その根幹である。
始まりの百体のアンデッド。
第五魔王ヘレイド=メドウスの忘れ形見。
ビレッジワン。
名を、
「エクスカリバー」
というチャーマーズアクチュエータ。
オルフィレウスエンジンで自身と自身を持つ人間を無尽蔵に修復し、なお聖剣エクスカリバーを具現する存在。
曰く、エクスカリバーの鞘を持つ者は不死身になるという。
その伝説がどうのとは云わないが、ビレッジワンのエクスカリバーは自身を腰に携えた人間を不死にする。
もう言わずともわかろう。
同じ京八流を鬼一法眼……鞍馬の御大から学んだ兄弟弟子。
水月はその末に無刀に至った。
某はその末に腕の延長に至った。
亡霊となってまで忠義立てした鬼若……武蔵坊弁慶が祈りを込めて復活させた主君。
源九郎義経。
水月にとって京八流の兄弟子であり死者でもある。
黄泉路を遡行した逸れ者。
「おんしの討伐が下った。小生としては無念なれど此処で果てよ弟弟子」
スラリと日本刀を抜く。
その仕草だけで剣の極地を手に入れていることを水月は覚れた。
「まぁそうなるよな」
水月はヘレイド=メドウスと同じ第五魔王と成り得る存在だ。
世界がソレを許すはずもなかった。
「何でも卜占でおんしが第二魔王と化すと出たらしいが……」
「結果論で言えばな」
特に否定もしない。
「というより」
とは水月。
義経と鴉天狗を見て、
「もしかしてその卜占の結果は広がってるのか?」
「無論。協会でも天啓を受けて情報のすり合わせを行なっているところらしい」
「天啓か……」
卜占とは別の形での未来予知。
「少なくとも日本の魔術師と教会協会とはことを構える必要がある」
そういうことだった。
「勘弁しろよ」
もっとも、
「じゃあ諦める」
とならないのも水月主義ではあるのだが。




