流星ミラクル10
「とりあえずは……まぁ……」
と水月。
「俺はこっちに籠もるからお前は前年お世話になった教会を訪ねろ」
水月は異世界の送り迎えでそう云った。
神威装置の威力使徒。
――その教会に居ろ、とのお達しである。
「水月は?」
「ちょっと考え事をしたい」
皮肉気に肩をすくめる。
少なくとも水月には重要事項だ。
場合によっては自己破滅性と存在意義までかかってくるのだから、「何をかいわんや」とセルフでツッコみたい気分でもある。
「どう世界と折り合いを付けるのか?」
その大一番である。
水月はさくらと『約束』をした。
それが鎖となっている。
その束縛をどうするか。
考える時間が無限にあるわけだが、そう云う意味では一言主の異世界の中の方が都合は良い。
「私もこちらで待ちますよ?」
「何千年もか?」
「……っ」
「人格が変わるぞ?」
少なくとも実例は目の前に居る。
役水月。
世の中を斜に構えた皮肉屋。
そうには違いないのだ。
「だからお前は外で待ってろ」
「どれくらい苦悩するのです?」
「さぁてなぁ」
水月としても確固たるプランを持っているわけでもない。
「水月は何がしたいんですか?」
「秘匿事項だ」
碌でもないのは確かだが。
心中自身を皮肉る辺り、役水月と云った様子だ。
「私は手伝えませんか?」
「手伝って貰ってもいいんだが……」
ガシガシと頭を掻く。
「とりあえず一人にさせてくれ」
水月の願い。
無論、純真から出た言葉を、惚れた女が無下に出来ようはずもない。
「では教会で待っています」
「ああ、すまんな」
水月としても気が重い作業ではあるが、「とりあえずやるだけやってみる」の精神は損なわれていない。
「では」
と異世界を出ようとした真理に、
「しばし待て」
とちょっと待ったコール。
「?」
真理が振り返る。
「基準世界に戻ったらラーラに連絡を取ってくれ」
「内容は?」
「俺はお前を殺すつもりだ。死にたくなかったらイクスカレッジを避けて別の処に避難しろ。……まぁそんなところだな」
「……っ!」
戦慄する真理。
「ラーラを殺すんですか?」
「状況が上手くいけばな」
水月としても本意では無い。
が、ラーラの神性は他には獲得できない物だ。
利用する価値は十分にある。
殺す必要は必ずしも無いが、「殺した方が手っ取り早い」のも一つの真実だ。
「何故?」
「それはお前が知っても意味は無い」
「……っ」
「じゃあな」
ヒラヒラと水月が手を振ると、
「待っ……」
真理は基準世界に帰された。
「さて」
水月としては……やることは決まっている。
「とりあえず久しぶりに修験の場を使わせて貰うか」
そういうことである。
「長い時間を割く必要があるな」
そして時間に比例して結果が出るとは限らない。
それはそう云う戦いだ。
「やれやれ」
水月はかぶりを振った。
負け戦は趣味では無い。
が、今回の件については妥協することこそナンセンスだ。
「さて何年かかるかね?」
自問自嘲する。
それほどの難問なのだ。
水月にとってはあまりに無視できないゲッシュであり、それ故に今まで生きてこられた証左でもある。
二律背反。
アンチノミー。
さくらの居ない世界を是として生きるのか?
結局ソコに尽きる。
さくらは言った。
「涙も絶望も大事にしてほしいんです」
そんな呪いを。
であれば今、水月が生きているのはさくらのおかげだ。
その尊厳を踏みにじるか否かで結論が変わってくる。
「ま、ここでどうこう思ってもしょうがないんだが」
水月は頭を掻いて悠久の時の流れに身を任せるのだった。




