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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
冬のある日の唄
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流星ミラクル07


 とりあえず時間の調整はしていたので大名屋敷で一夜を過ごすことになった。


 そして次の日。


 一言主の展開する異世界の中で正月が祭られた。


 時間的には(あえてぼかすが)数万年後の正月である。


 年始の挨拶から始まって本物のお屠蘇を飲み(水月曰く一種の漢方薬とのこと)祝福を受けて一人一人一言主に祝い祝われる。


「厳粛な家ですね」


 水月の隣に座る真理がボソッと言うが、


「あんまりそうでもないがな」


 水月は肩をすくめるのみだ。


「?」


 と真理が意図を把握しなかったが、


「時機にわかる」


 水月の言葉はそれだけ。


 そして役一族と葛城一族。


 両家の儀礼が終わる。


 畳の大広間。


 上座に座る役行者と一言主。


「うむ」


 と当主たる役小角。


「年始の挨拶もした。お屠蘇も飲んだ。それでは……」


 それでは?


 真理が懸念する。


「正月じゃー!」


 役と葛城の一族は乱痴気騒ぎを起こした。


「いやー! めでたい!」


「ガンガン酒持って来い!」


「また山桜が乙だよな」


「よ、水月! どうだ一杯?」


「受けましょう」


 水月は盃を差し出すと、神酒が並々と注がれた。


「そちらは?」


「客だ。とはいえ無礼講だがな」


「よし。飲め飲め」


 真理の盃にも酒を注ぐ。


 クイと水月と真理が飲む。


 甘さと清浄さがブレンドされた爽やかな味の宝酒だ。


 それでいて薫り高く、なお鮮烈に舌を焼く。


 さっきまでの静謐な空気は何処へやら。


 屋敷内はグダグダだった。


 要するに魔術の家系にとっては正月とて酒を飲むイベント程度にしか思っていないのだ。


 踊って騒いで詩を詠う。


 特に礼儀に則るわけでもなく、多量の酒を飲んで天晴れと云った様子。


「真理」


「何でしょう?」


「場所を変えるぞ」


 一升瓶を持って水月は席を立つ。


 真理もソレに続く。


 水月は縁側の板張り廊下で腰を下ろした。


 真理も続く。


 外を見やれる縁側。


 山桜が咲いていた。


 ここは一言主の世界。


 桃源郷ならぬ桜源郷。


 桜は散っても散っても枯れる気配がない。


 乱痴気騒ぎから距離を取り、静かに水月と真理とで山桜の花吹雪を肴に酒を飲む。


「良い場所ですね」


「俺のお気に入りだ」


 盃に酒を注いでクイと飲む。


「異世界って皆こんなところなんですか?」


「さすがに網羅はしてないから答えにくいな」


「ですよね」


 照れる真理。


「でもここは本当に良い場所です」


「酒も美味いしな」


 甘露である。


「私に酒を飲ませて良かったんですか?」


「別段此処で暴れても迷惑を被るような奴原は居ないしな」


 自分もその一人。


 水月はそう云う。


「お代わり」


「はいはい」


 水月は真理の盃に酒を注ぐ。


 二人揃ってクイと飲む。


 鮮烈な味わいが脳をとろけさせる。


 それほど美味い酒なのだ。


 ほどほど酔いも回ってくる。


「みーづーきー?」


 案の定真理が壊れた。


「どした?」


 水月も中々の面の皮だ。


 今更でもあるが。


「好きよ?」


「結構なことだな」


 山桜の桜吹雪から視線を逸らさず水月は言う。


「水月のヘタレ」


「知ってる」


「不能」


「かもな」


「むっつり」


「で?」


「私は水月が一等好き」


「再度になるが結構なことだ」


「スルーしないでよ~」


 ガクガクと襟元を掴んで水月を揺さぶる真理だった。


 対する水月の感想は、


「めんどい」


 四文字で済んだ。


「水月は私とくっつくべき!」


 本当にそうならどれだけいいことか……。


 水月は心の中で呟いた。


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