流星ミラクル04
「次は何時ライブに立てるかわからない」
そう言ってマーリンこと神乃マリ……只野真理は、ファンからの声援と惜しまれに後ろ髪を引っ張られながら、いそいそと退場した。
そこからは二人旅だ。
忍は実家に帰る。
布都家。
布都御魂剣を御本尊とする古典魔術の旧家。
水月と真理は埼玉に向かった。
とりあえず急ぐ旅でもないため水月の実家へ……は後でいい。
「いいんですか?」
そんな真理に、
「今から行っても面倒なだけだ」
水月は情報不足を承知でそう云った。
「ならいいですけど……」
真理としては納得するのも一苦労だろう。
さもあらんが。
そんなわけで埼玉。
真理の実家に訪問する。
「お帰り。真理」
「ただいまです」
親に迎えられて和やかに真理。
「そちらは……」
「お控え為すって」
水月は飄々と。
「しがない魔法の旧家の倅。姓は役、名は水月と発します」
「役?」
「おや。ご存知で?」
「イクスカレッジについては少し学んだが」
とは真理の家族。
自身らの娘が、どういった場所に留学しているのか……むしろ「知らない」や「調べない」という方が嘘には為ろう。
まして、娘の心臓の病が快癒したというなら、魔術の一つや二つや三つは信じてしまえるのも道理ではある。
「役のお家とくれば」
「その通りです」
真理が首肯した。
「役行者の子孫ですよ」
「ほう」
と真理の血縁。
「娘がお世話になっております」
謙虚な礼に、
「面倒事であることは確かだが」
水月は皮肉で答えた。
「む」
と家族。
あまり面白い話でも無いらしい。
「じゃあ俺はホテルにでも……」
「泊まっていって下さいませんか?」
家族の一人がそう言う。
「別段恩に返せる物は無いぞ?」
いつも通りの水月。
「精一杯歓待させてもらいます」
「ではその通りに」
水月は慇懃に一礼した。
そして今日は只野の家でお世話になることになった。
海の幸と山の幸を盛り込んだ夕餉。
真理がアイドルとして大成したことを肴に酒は進んだ。
「は~」
と家族の吐息。
「あの真理がね……」
信じ難い気持ちらしい。
元より水月も、「出来すぎだ」に異論は無い。
それから風呂に入って夜の時間。
「…………」
「…………」
水月と真理は沈黙した。
布団は一つ。
枕は二つ。
「つまり」
と水月。
「こういうことか」
「あう……」
真理は顔を真っ赤にしている。
「御免」
と真理。
「多分からかってるんだと思う」
「だろうな」
そこに異存はなかった。
「とりあえずもう一つ布団を……」
そんな妥協案に、
「構わんだろ」
水月は平気の平左で言ってのける。
「一緒に……寝るの……?」
「一緒に寝るだけだ。それ以上はない」
水月としてもそこは一線を引く。
「別段お前の親御さんに振り回されるのも癪だしな」
「あう……ごめんなさい」
「流星アイドルに言われちゃ何だかな」
肩をすくめる水月だった。
「それはブランド商法で……」
「故に真理を欲する」
水月が遠慮なく言う。
「一種の真理だな」
苦笑してしまう。
「家族に魔術を見せたりはしないのか?」
「検閲官仮説の対象だよ」
「嘘つけ」
水月は断じた。
「家族程度に教えられない程……検閲官仮説は厳しくない」
そう云った理論だった。
「そうですけど……」
真理としてはそう言うほかない。
「明日は水月の実家ですよね?」
「ああ」
少し間を置く水月。
「問題は……」
「問題は?」
「一秒と十時間だよな……」
「?」
わからない。
そう表情で云う真理だった。




