流星ミラクル03
今年も後数日と言ったところ。
今日はハニービーの箱ライブの日。
「盛況だな」
忍が言った。
どうやら(客として)初めての体験らしい。
熱気とざわめき、ペンライトの光とライブハウスを埋める人間の数に気圧されるのも無理はない。
水月とて慣れているわけではない。
そもそもにして、
「アイドルを偶像化することが意味不明」
が思考の下地にある。
とりあえず東奥プロからチケットをもらって水月と忍は客席の端っこに立っていた。
ライブが始まるとアイドルグループ……ハニービーの三人が客を湧かせる。
神乃マリの一件で鮮烈な印象を与えたが、本来のハニービー自体も努力と訓練で地力の人気獲得をしていたらしい。
実際に客の反応は芳しい。
「人気あるんだな」
とは忍の言葉で、
「まぁ箱を埋める程度にはな」
が水月の言葉だった。
「みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」
マイクパフォーマンスも絶好調。
歌も踊りも中々のものだ。
今日まで頑張ってきた証なのだろう。
ハニービーは年末であるにもかかわらず元気いっぱいに歌って踊る。
「その花に! その花に! 蜜をしげく求めるの! 私の愛はそのまま放置して!」
ハニービーが歌う。
観客が盛り上げる。
「す、すげえな」
忍はライブ始めとは価値観を変えていた。
観衆を熱狂の渦に巻き込む。
それがアイドルの力だと覚ったのだ。
「――――!」
際限なく高まる熱気。
終わりの見えない絶叫。
アイドル。
その一端に触れたらしい。
水月としては、
「はあ」
で済む話だが。
そしてライブがラストナンバーに入る。
「じゃあ今日のライブはこの歌で終わり」
「寂しいよね~」
「でもでも……ファンの皆ならまた来てくれるよ!」
「ハニーちゃーん!」
ハニーちゃん。
ハニービー全員に対するかけ声だ。
一種のローカルルールである。
「でもその前に……今日はゲストを迎えているんだよね」
センターが何気なく言うと、
「「「「「っ!」」」」」
ファンが絶句した。
「まさか」
と。
「いやしかし」
と。
「そんなわけで半年ぶりの登場だよ! ラストナンバーのゲストアイドル!」
「…………」
「マーリンこと神乃マリちゃん登場でーす!」
そして茶髪をリボンで結び……アイドル衣装を身に纏った真理が現れた。
「えと……どうも……」
マイクで弱々しく挨拶する真理に、
「「「「「マーリン!」」」」」
ファンたちは感動に声を高まらせる。
「いつ現れるかわからない流星アイドル! マーリン登場でーす!」
「ていうか~。何気に私たちより人気ない?」
「気のせいです……」
真理はポツリポツリと声を紡ぐ。
「まぁまぁ」
センターが取りなす。
「それじゃ行っくよ~! ラストナンバー! ユアマイプリンス!」
イントロが流れ、配置につくハニービー。
今日まで練習してきた四人編成のダンスだ。
ハニービーが踊る。
マーリンも踊る。
「あなたは私の王子様。でもそんなことは関係ないの。あなたが何時の誰ででも、私はあなたに恋をする。お城の中は旧弊だね。私と一緒に旅に出よう!」
歌う。
真理の歌声は透き通ったソレ。
マイク越しにもハニービー三人を押しのけていた。
「「「「「マーリン!」」」」」
ファンたちの熱狂。
ハニービーのライブに気紛れで現われる流星アイドル。
星空を見上げても見つかるかどうかわからない流星。
そになぞらえたアイドルだ。
汗が飛び散る。
歌を熱唱。
即ちアイドルだった。
「真理……すごいな……」
忍も感動したらしい。
「流星アイドル……マーリン」
その存在感に圧倒されたのだろう。
「当人にはいい迷惑だろうがな」
水月は肩をすくめた。
アルバイト程度の活躍ではあるが、少なくともファンたちはマーリン熱に高ぶっているらしい。
究極的な日本美人。
水月には異論あれど、なれば人気の獲得も容易いのも現実だった。




