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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
冬のある日の唄
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流星ミラクル02


 それから次の日には早速訓練が始まった。


 既にデモテープで歌と踊りをマスターしたと言っても、あくまで一人での練習だ。


 今回はハニービーの本メンバー三人と合わせての練習である。


 年末の箱ライブに向けてのソレ。


「~~~~!」


 歌を唄いながら体を躍動させる真理。


 ソレに付いていくハニービーのかしまし娘。


 水月と忍はそんな練習風景を他人事のように見ていた。


「なぁ兄貴」


「どした?」


「なんかアイドルのイメージがガンガン崩れていくんだが……」


「実は俺も」




 ――華やかな舞台で歌って踊ってキャーキャー言われる。




 忍にとってのアイドルはそんな印象だ。


 で、実際の練習風景を見て、


「尊崇されることと流した汗の量が釣り合わないんじゃないか?」


 との忍の疑念も尤もではある。


「大輪の薔薇を咲かせるには牛の糞が必要」


 水月はそう評する。


 事実その通りではあるのだが。


「発声が足りていませんよ!」


「タイミングが半秒遅いです!」


「歌に意識を割きすぎです! ダンスと両立なさい!」


 指導係の檄が飛ぶ。


「俺なら耐えられんな」


 率直な忍の感想ではあるが正鵠を射ている。


「俺もだ」


 水月も苦笑した。


「ていうか真理もそう思ってんじゃねえの?」


「ああ」


 忍の推測は正しい。


 故に水月も首肯した。


「じゃあ何でだ?」


 忍としては意味不明らしい。


「真理がアイドルに向いていない」


 は共通認識だ。


 が、


「何でもマーリンにブランドが付いたらしい」


 肩をすくめる水月だった。


「マーリン?」


「芸名が神乃マリだから愛称がマーリン」


「にゃるほど」


 頷く。


「で? ブランドって?」


「流星アイドル」


「?」


「夏の件は話したよな?」


「ハニービーの箱ライブにゲスト出演がどうとか?」


「ああ」


 スポーツドリンクを飲んで、


「で、一気に客のハートをキャッチしたらしい」


 ぼんやりと水月は言った。


「まぁ真理ならそうだろうな」


 忍の発言は不貞不貞しさの従兄弟分くらいはあったろうが事実でもある。


「それで『神乃マリって何者だ?』って噂が沸騰したらしい」


「何者も何もネットアイドルとして活動してるじゃないか」


「それはそうなんだが……活躍先がイクスカレッジのサーバでイギリス英語表記だから、日本人が探すには無理があるな」


 基本的に真理の活動が目につくのはイクスカレッジとその資本元くらいだ。


 そも真理はアンデッドなので大量の人目につくことを魔法検閲官仮説が良しとしない。


 結論としてマニアックなアイドルのゲストとして出るだけで精一杯なのである。


 東奥プロの社長が神乃マリを見出したのはほとんど運命の気紛れのような物だろう。


 水月は気怠げにそう言って見せた。


「それと流星アイドルにどういう関係が?」


「あー……」


 つまり、と水月。


「ハニービーのファンの中にマーリニズムが蔓延ったんだ」


「…………」


「夜空を見上げても見つかるかわからない流星に例えて、ハニービーの箱ライブで来るか来ないかわからないマーリンを流星アイドルって呼ぶようになったとか何とか」


「要するにソシャゲのSSRみたいな感じか?」


「だな」


 結果としてマーリンの捜索はネット上では拡散され、しかし魔法検閲官仮説が施行されるために広まることはなく、再度出会うにはハニービーの箱ライブに行くしかない。


 ソレもハニービーのライブに行ったからとて出会えるとは限らない。


 つまり、


「流星アイドルだ」


 水月はそう結論した。


「じゃあ今回が二回目なのか?」


「そういうことになるな」


「ファンは?」


「何でも夏の一件以来マーリンのファンが増えてハニービーの人気も一段押し上げられたらしいな」


「真理。恐ろしい子……」


「まぁ可愛いしな」


「兄貴は悉く……」


 ジト目になる忍だった。


「何か不満でも?」


「なんだかんだで兄貴は真理に優しいよな」


「まぁ色々ありまして」


「兄貴は真理のことどう思ってるんだ?」


「雌豚」


 サクッと。


「…………」


 眉間を指で押さえる忍だった。


「雌豚……」


「雌豚」


 何とも云えぬ空気を水月は肺に取り入れた。


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