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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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死と不死02

 同時に、ぐ~と水月の腹の虫が鳴った。


「腹減ったな。学食にでも食べに行くか……」


 そう提案する水月に、


「なんでしたら私が作りますよ? 水月は寝起きですから胃に優しい日本食がいいんじゃないですか?」


 かぶせて提案してくる真理。


「日本食作れるのか?」


「……ええ、まぁ……。キッチンを見る限りでは日本食くらいならできそうな雰囲気でしたし……」


「米炊くところから始めんといかんぞ?」


「それくらい待てますよね?」


「まぁ……お前が日本食を作ってくれるというならそれに越したことはないが……」


「では決まりです。キッチン……お借りしますね」


「借りるも何もお前の家だろ」


「そうでした」


 うっかりといった表情で舌を出す真理だった。


「私も! 私も手伝う!」


 挙手したのはラーラ。


 水月は胡散臭そうに、


「お前、日本食作れるのか?」


 そう問うた。


「真理に指示してもらえれば……多分……」


「まぁお前のイタリア料理も申し分ないから漫画みたいな次元を超越したゲテモノ料理は出てこないだろうが……」


「ではラーラ、このメモに書いてあるものを買ってきてください」


 そう嘆願して真理はラーラにメモを渡す。


「ホウレン草……大豆……ひじき……人参……」


「日本人用のスーパーがありますよね? そこならすべて揃うはずですから」


「わかったわ」


 頷いてラーラは水月と真理の宿舎を飛びだした。


「さて、では米でも研ぎましょうか」


 服の袖をまくって米を二合だけざるに入れて浄水で研ぐ真理。


 それを炊飯ジャーに放り込んで早炊きに設定する。


 それから今度は鍋を取り出して、火にかけ水をお湯に変える。


 出汁の粉をいれて簡易の出汁を作ると、そこに大根を切って入れる。


 最後に味噌をといて大根の味噌汁を作り上げる。


 同時にラーラが材料を買って戻ってきた。


「おまたせ~」


 少々疲労を残しながらラーラは買ってきた材料をキッチンに並べる。


「ラーラ……ありがとうございます」


「それは言わない約束だよお父っつぁん」


「ふふ……それでもありがとうございます」


 苦笑して真理は、ホウレン草のおひたしとひじきの煮物をラーラに手伝ってもらいながら作り上げた。


 それから少しの時間を以て炊飯ジャーが悲鳴をあげる。


 米が炊き上がったサインだ。


 そうして……出来上がった日本食を皿に盛って、居間のコタツ机に三人分だけ置く真理とラーラ。


 それから、箸をおいて、


「いただきます」


「いただきます」


「父よ。あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。ここの用意されたものを祝福しわたしたちの心と体を支える糧としてください。わたしたちの主イエス=キリストによって」


 各々の食前の祈りを終えて食べだす三人。


 水月はホウレン草のおひたしに出汁をかけて味付けをして箸でつまむと口に含んで咀嚼する。


「お……懐かしい味」


 躊躇わず賛辞をおくる。


「淡泊なのに深みが良くて胃に優しいですね日本食は」


 ラーラも追従する。


「なら良かったです」


 クスリと笑う真理。


「これなら外食しなくてもいいな。真理……これからも食事作ってくれないか?」


「それは構いませんが……でもいいんですか?」


「何か不都合があるか?」


「いえ……ラーラに嫉妬されるんじゃないかと思って」


「嫉妬するよ。私は日本食なんて作れないから」


「なら真理に習えばいいじゃないか」


「習う……?」


「そ」


 ひじきの煮物を食べながら水月は頷く。


「真理が日本食を作れるのならその技術を吸収すればいい。そうすれば真理がいない時はお前が俺の城に来て御馳走できるだろう?」


「それは……そうですけど……そうですね……そうですとも」


「私なんかでよければ……ラーラさえよければ……日本食くらいなら私が教えて差し上げますよ?」


「本当っ?」


「本当です」


 真理は鮮やかに箸を使って昼食を食べながら頷く。


「ラーラが日本食覚えたら真理の負担も減るな」


 と、これは水月。


「これで水月の家にあがりこむ理由が出来ましたね」


 と、これは真理。


「そうだね。そうだよね……!」


 と、これはラーラ。


「ていうかラーラ、お前……寮の食事には顔出さなくていいのか?」


「別に強制ではありませんし。何より魔術師である私がなんで寮生活を強いられてるのかわからないくらいですよ」


 ホウレン草のおひたしを食べながらラーラ。


「そういうことはソーマに頼らない魔術を使えるようになってからほざくんだな……半人前の魔術師」


「それでも魔術師には違いないじゃありませんか。そりゃ水月先輩と比べれば月とスッポンなのはわかっていますけど……」


「ならトランス状態の切り替えを薬に頼らず普通の状態でも出来るようになれ。それが第一関門だろう」


「わかってはいるんですけどね。でもそれって精神疾患になれってことですよね?」


「なにをいまさら」


「被害妄想から自滅する魔術師もいるじゃないですか……」


「そりゃそれくらいのデメリットは背負うべきだろう」


「それは……そうですけど……」


「ま、お前が宿舎生活をするにはまだ早い、と」


 米を食べながら水月。


「そういうことですね」


 同じく米を食べながらラーラ。


「二人とも……早く食べてください。もうすぐトランスセットの講義の時間ですよ」


 真理がそう釘を刺す。


「へえへえ。わかりましたよーっと……」


 水月はそうぼやいて味噌汁を飲む。


「ソーマ無しでトランスセット……か」


 感慨深げにラーラがそう呟くのだった。

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