サンタが街にやってくる13
降誕祭の日がやってきた。
とはいっても正確にはその一日前。
クリスマスイブ。
「降誕祭じゃなくね?」
とのツッコミは既に形骸化している。
元々がお祭り騒ぎの口実であるためツッコむ方が野暮ではある。
「クリスマスかぁ」
正午の時間。
水月は野菜ジュースを飲みながら研究室で雪を眺めていた。
イブの今日は温度的に冷える日だった。
水月としてはコタツに籠もっていたかったが、真理がコンスタン教授に呼び出されたため研究室に来ざるを得なかった。
雪の中コートを着てマフラーを巻いて外出し、今に至る。
昼食自体は終わっている。
今日はラーラ特製のボルシチであった。
幸せの味がした。
基本的に和食党だが、別段ソレに殉じようとも思っていない。
「美味しいのなら異国料理も良し」
だった。
ともあれ雪だった。
ホワイトクリスマス。
宿舎から研究室までの道のりで少なからずカップルを見た。
出来すぎだ……とは思うが、
「存外クリスタルのせいだったりしてな」
野菜ジュースを飲みながらそんな皮肉。
本人は冗談のつもりだったのだろうが実は正鵠を射ていた。
クリスタル。
今年の冬の一件で知り合いになった雪の精。
雪……というより吹雪の妖精だが、ともあれそんなアークティアのせいで多少なりともイクスカレッジは混乱に陥った。
無条件で吹雪の結界を展開するアークティアであったためだ。
シンメトリカルツイントライアングルまで動く始末だったが、結果としてはめでたしめでたし。
アークティアから人間へと変生したため、聖術については切り捨てられている。
無論寿命もあれば恋もする。
後者は少し特殊な形だが。
が、業という物は頑固な油汚れよろしく中々荒い落とせる物でもない。
『雪』
それがクリスタルのパワーイメージだ。
であるため人間になった後も雪を使った魔術に通ずる。
水月の知るところではないが、そんな背景があってホワイトクリスマスという演出は為されているのであった。
一応積もりながらも吹雪には値しない辺り手加減も覚えているらしい。
氷の女王と仲睦まじいのなら水月としては特に斟酌もしないが。
「兄貴!」
「嫌」
「まだ何も言ってねーし!」
「ダンスはしない。ていうか決闘で負けただろ……お前」
「そうじゃなくて!」
「じゃなくて?」
「雪合戦しようぜ!」
――犬か、お前は。
それが水月の率直な感想。
「寒いからやだ」
これも水月の率直な感想。
「あーにーきーっ!」
何処からそんな元気が来るのか?
水月にはわからなかったが、これについては忍の精神的な未熟さと水月の精神的な摩耗具合が意見を異にした結果だ。
基本的に水月が望んでいるのは、
「どてらを着てコタツに入りミカンを食べながらテレビを見る」
以上。
クリスマスムードも何もないが、別段ワクワクしていないわけでもない。
水月たちの通う学院は広いフロアを借りて学院生のクリスマスパーティーと云う名のダンスパーティーを開く予定だ。
いつもなら特に気にしない高級料理が食べられるため胃袋事情は万歳三唱。
後はサンタクロースのおじさんの訪問にも少年心がくすぐられる。
先日にも忍に語ったとおり、イクスカレッジが教育機関で生徒が留学生である以上、親と玩具業界の陰謀によってプレゼントを得るということが出来ないため、物理的なサンタが現れプレゼントを配るという逆説的な現象が起こる。
時間結界……降誕祭。
要するに親御さんには、
「まぁ子どもにクリスマスプレゼントを買ってやるか」
という暗示の魔術をかけ、そうでない場合はボランティア団体に似たような暗示をかける。
結果、クリスマスに子どもたちはプレゼントを貰えるのだが、イクスカレッジに置いては先述したとおりのためサンタ自身が足を運ぶ必要があった。
クリパは夕方の十六時から始まり二十一時まで。
大人は大人の時間があるが、子どもは時間結界のせいで早々に眠りにつくことになる。
これもまた時間結界たる降誕祭の効果である。
「なんだかな」
とは水月も思うが、クリスマスの熱気(冷気?)にあてられるのは決して不快ではなかった。
この辺の童心は水月における矛盾の一つだ。
「先輩。雪遊びしませんか?」
水月が雪を見て浸っているとラーラがそんな提案。
「ブルータスよ、お前もか」
「忍もやる気満々だし」
「二人で遊んできなさい」
優しく諭す水月だが、
「先輩は~……」
ラーラは冷静に覚った。
水月の口調が丁寧になるときは婉曲に皮肉を言っている。
長い付き合いであるからその程度は察し得る。
「雪ですよ。クリスマスイブですよ。はしゃぎましょうよぅ!」
「幾らで?」
「金取るの!?」
とりあえずそんな感じ。




