サンタが街にやってくる08
「酒が飲みたい」
水月はそう云った。
「さいですか」
とラーラ。
「ふぅん」
と忍。
「ではお供します」
と真理。
冬装備をして水月と真理は酒を飲みに出かけた。
いつものバーだ。
「ことコレに関してはついていけないよ」
とラーラが愚痴り、
「時間が解決するのを待つのみだな」
と忍が諭す。
実際その通りなのだからしょうがない。
「ところでラーラ」
と忍が水月の出て行った宿舎でラーラに話しかける。
「何?」
「明日の件だが」
と少し意地悪な意見を言う忍。
無論、出かけた水月と真理には聞こえない。
それはともあれ。
「とりあえずエール。それからたこわさ」
バーに着くなり水月は呼吸するようにスラスラと注文をした。
「ええ」
バーテンダーが了承して商品を差し出す。
真理はいつも通りジュースだ。
コートを脱いで隣の席にかけると、グイとエールを呷る。
「ん。美味い」
「宜しゅうございました」
バーテンダーの苦笑。
「役先生」
「何だ?」
「何やら派手なことを為されているようで」
「ああ、セルゲームな」
事実を的確に捉えた言葉だ。
「十七連勝と聞きましたが」
「別段誇ることでもないだろ」
エールを飲んで、たこわさコリコリ。
「しかし魔術を使わなかったと」
「魔術使ったら死人が出るしな」
今更議論の範疇ですら無い。
「無手でも強いのですね」
「まぁ色々あってな」
少なくとも魔術一辺倒のカレッジ生に負ける気は水月には一切無かった。
槍。
棍棒。
ブラックジャック。
あらゆる物騒な武器を振るわれたが、そのどれもが水月に届くこと能わず。
有象無象と散っていく。
「一種有名な空手ですか?」
「そんな高尚なもんじゃねえな」
たこわさコリコリ。
「最適かつ最短で人を殺す技術だ」
エールを呷る。
「人を殺す……」
「俺の能力は殺人に一点特化しているからなぁ」
至極道理だ。
というか今更だが。
「コンスタン研究室の生徒は美女揃いだそうで」
バーテンダーが真理を見て苦笑すると、
「おかげでこっちに厄介事が向くってワケだ」
水月は酒の席の痴れ言を述べた。
「ハーレムですか?」
「誰にも感情は持ってねえよ」
論理的帰結。
さもあろうが。
「では負ければいいではありませんか」
セルゲームのことだろう。
「負けるってことが嫌いでな」
嘘では無い。
尤も真実を捉えても、またいないが。
そもそも負けを不覚とする性質を持っているならば更に厄介事に恵まれているはずである。
水月は水月にとって都合の悪いことにだけ介入する。
それで十分であるし、それ以上を望まない。
かしまし娘の心情を斟酌した上で、
「負けるのも不義理か」
と思っているだけである。
優しさとはまた違う。
面倒を嫌う水月の精一杯の意地だ。
それもかくも容易く裏切られることになるのだが、
「それがどうした」
という無敵の呪文が水月の心臓に根ざしてもいる。
水月はグイとエールを飲み干すと、
「芋焼酎とイイダコ」
注文を重ねる。
「承りました」
バーテンダーはニコニコ。
「ダンスパーティーでは両手に花ですかな?」
酒と肴を差し出してバーテンダーが問う。
「壁の花のつもりだ」
水月はふて腐れた。
事実その通りではあるのだ。
無粋と取る人間もいるだろう。
が、対外的な評価を気にしたことはあまり無い水月でもある。
「クリスマスイブを楽しめれば十分だ」
結局そこに終始するのだから。




