サンタが街にやってくる03
ワンデイ。
水月は昼に起きた。
今日は快晴。
温度は比較的安定している。
水月基準で寒いのは仕方がないとしても割り切るに否やは無い……もちろんのこと、だからといって許容するのは別問題であれども。
コタツの上にはたこ焼き器。
火を入れてあった。
「あ、水月」
気づいた真理が表情をほころばせる。
「おはようございます」
「ん」
頷く。
「先輩」
「兄貴」
二人も声をかけてきたので答え返す。
今日の昼はたこ焼きらしい。
生地がジュワーと熱されて悲鳴を上げていた。
そこにタコを投入。
空腹具合を考えて、
「まぁ有りか」
と水月も納得。
たこ焼き自体は量を調節出来る。
であれば寝起きでも好きな分量で食べることが出来る優れものだ。
爪楊枝で刺して口に放る。
「むぐ」
「どうでしょう?」
「美味い」
ちなみに皿が置かれておりダシが注がれていた。
これがまた……たこ焼きに良く合う。
「金が取れるレベルだな」
「あんまり需要は無さそうですけど」
一応日本文化圏ではないため真理の言葉には一定の理がある。
「ま、このメンツで云えばラーラが例外だが」
「酷いよ先輩!」
「事実だしなぁ」
たこ焼きをあぐり。
薫り高いダシの味が幸福を呼ぶ。
一種の魔術だ。
小麦粉をここまで美味しく昇華出来る。
奇蹟と言い替えても良し。
「真理は器用だなぁ」
忍は心底感心していた。
家事全般を執り行う真理はある種で宿舎のお母さん役。
あるいは水月の新妻役。
実際に水月への献身はラーラや忍では真似出来ない……あるいは真似しようにも辿り着けない境地には相違ない。
水月は寝ぼけながらはむはむとたこ焼きを食べるだけだが。
「兄貴は料理の出来る女の子が良いのか?」
「加点事項ではある」
いつも通り。
たこ焼きをパクリ。
あぐあぐと噛みしめる。
小麦粉の甘み。
タコの食感。
ダシの旨み。
どれ一つとっても例外なく一級だ。
「どんどん食べてくださいね」
破顔する真理。
「ん~……」
首肯して水月は口に放る。
「ところでたこ焼き器はどうしたんだ?」
「ネットで取り寄せました」
「にゃる」
納得。
そもそもにしてイクスカレッジにはたこ焼きの文化が無い。
必然得ようとすれば自家用器を買うのも必然だ。
もしゃもしゃと食べる水月たちであった。
そして食後に煎茶を飲む。
「ほ」
っと水月は温まった。
コタツで温々。
たこ焼きで温々。
お茶で温々。
そんな感じ。
「さて」
水月はその場で寝転んだ。
「今日はここで過ごすか」
「一理程度はありますが」
真理は苦笑した。
とりあえず余った生地を全てたこ焼きと化してラップを被せて冷やす。
そして片付けの準備に入った。
ここにはラーラも順ずる。
「兄貴」
忍は水月同様にコタツを離れない。
「どうせだからロマンス行こうぜ」
「まぁ甘味は雷親父も和やかにするしな」
異存は無いらしい。
「そうすると着替える必要が出てくるな」
云うまでも無いことだが。
「ま、いいか」
その程度はやってのける。
とは云っても……たこ焼き器を洗っているラーラと真理の作業を待ってからではあるのだけども。
「兄貴はだらしないな」
「世界に一人くらいそんな奴がいても良い」
どちらかと云えば自分に対する言い訳だ。
「兄貴がそうだと?」
「そう云った」
不貞不貞しさは水月の十八番だ。
忍としてもソコにツッコむ愚は犯さなかった。




