サンタが街にやってくる02
「降誕祭かぁ」
夕餉。
繁華街の寿司屋で胃を満たしながらラーラが呟く。
クリスマスは一種の恋愛模様をかき立てる。
想う先は一つだが、ソレは何もラーラに限った話ではない。
真理もそうであるし忍もだろう。
何より水月がそうである。
「甘露甘露」
その水月は寿司の合間に玉露を飲んで満足そうだった。
「先輩がコレだからなぁ」
とは心中での言葉。
もっともラーラとしては少なからず水月と行動を共にしているため事情そのものを把握してはいるのだが。
それなりに長い付き合いだ。
別段故人と争う気も無いが、
「それはそれでなぁ」
と複雑な乙女心。
水月は当然、そんなラーラの胸中は把握している。
特に何が出来るわけでもないので黙って寿司を食べるのだが。
「兄貴」
と忍。
「何だ」
と水月。
「クリスマスプレゼントは何が良い?」
「いらん」
「ええ~……」
眉を寄せる忍だったが、
「ああ、そっか」
とラーラと真理が納得した。
「まだイクスカレッジにおけるクリスマスの通念を忍が知らない」
と云う意味で。
「何が?」
と忍。
「カレッジ生にはサンタが直接クリスマスプレゼントをくれるんですよ」
と真理が云う。
ウニを頬張りながら。
当然忍としては、
「は?」
となるわけだが。
「サンタが? クリスマスプレゼントを?」
「ええ」
「えーと……」
「アークティア」
人の信仰を形と為してアークが再現する現象。
ましてクリスマスにおけるサンタの偶像崇拝は地球レベルだ。
魔法検閲官仮説が掛かるため一般人の前には姿を晒さないが、イクスカレッジは例外だ。
元より絶海の孤島。
なおカレッジでは神秘に関して理解があるためサンタも姿を隠す必要が無い。
「サンタが実在……?」
「まぁな」
とは肯定ではなく忍の困惑に便乗した言葉だ。
「信じられないのも無理はない」
そんな忍以外の三人だった。
「サンタって本当にいるんだなぁ」
ポカンとして忍は認識するのだった。
「あくまで魔法検閲官仮説の範囲でな」
そこは一線を引くべきだ。
「でもクリスマスプレゼントって親がこっそり子どものベッドに置いておくモノだろ?」
要するにサンタの実在を是とするなら、
「親のプレゼント」
と、
「サンタのプレゼント」
の二つがクリスマスの早朝に子どもの傍に並ぶことに為る。
「時間結界」
水月はそう云った。
「時間結界?」
「要するに時間そのものを切り取って独自のルールで奔らせる結界を指す」
えんがわをあぐり。
「日本にもあるだろ。逢魔ヶ刻って奴が」
「昼と夜の境目。鬼や変化が活発に為る時間……」
「そ。ソレと一緒」
カンパチを放る。
「夕暮れに魔性が活発に為るように聖夜にはサンタが活発になる」
「ソレとコレとがどう繋がるんだ?」
「要するにアークティアとしてのサンタが聖夜に結界を張る。親は子にプレゼントすべし……と」
「世界中で?」
「地球規模で」
「洗脳?」
「暗示だな」
ガリを噛む。
「当然ボランティア団体もこの結界の影響を受ける。貧しかったり難民だったりする子どもたちにも十字団がプレゼントを配って回る」
「…………」
神秘性ぶち壊しなのは致し方ない。
「で、イクスカレッジは魔法検閲官仮説に引っかからない上、生徒は海外留学と云うことになるからサンタが直接プレゼントを振りまいて回る」
「サンタはソレで良いのか?」
「どうだかな」
そこまでは水月も知ったこっちゃなかった。
とはいえ水月の欲する物をサンタが届けてくれるわけでもない。
そこまで聖夜の奇蹟に水月は期待していない。
アワビをあぐり。
「そんなわけでプレゼントはサンタに任せておけば大丈夫だったりする」
「むぅ」
安易に頷くには突拍子も無い。
とはいえアークティアの性質と自身の持つ魔術を振り返ればサンタの実在も、
「戯言だ」
とは言えない忍でもあるのだが。




